〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

ナビゲーター

岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

ビストロデビューを温かく迎え入れる店

内観。地下にある店はコンパクト。一体感のある雰囲気になる
カウンター席。真ん中のドライフラワーは、宮本さんが自身の結婚式で使ったブーケ

「代々木上原はユーモアや知識があって、熱をもった人が多いので、この場所に店を構えられて良かったです」とオーナーシェフの宮本岳さん。ちょっと変わった店名の「36.5℃ kitchen」は、微熱を持った人達が集まるようにとの意味が込められている。キッチンからすべての客席が見渡せるため、宮本さんは料理を作りながら、いつも柔らかな笑顔を届ける。この雰囲気も店に温かな微熱を生み出している。

オーナーシェフの宮本岳さん

宮本さんは料理の専門学校時代にフランスに留学し、そのまま現地のレストランで修業。帰国後、青山にあるミシュラン星つきフレンチを経て、カフェも経験した。さらに料理の専門学校の講師を経て、2014年に36.5℃ kitchenをオープンした。学生を指導した経験があったことで、20代でも入りやすいビストロにしたいとの思いがある。「若い人達にとってビストロはハードルが高いもの。うちの店は一番初めに来るきっかけの店になりたいんです。だから、値段も高くならないようコストパフォーマンスにもこだわっています。ビストロを楽しい場所だと思ってもらいたいですね」と宮本さん。実際に客単価は6,000〜8,000円。良心的な価格設定も人気の理由となっている。

季節のカプレーゼ✕ドライなロゼワイン

季節のカプレーゼ(金柑とモッツァレラチーズのカプレーゼ ゴルゴンゾーラソース/1,628円)*メニューはすべて2皿にセパレートして提供、以下同

1皿目に頼みたいのは「季節のカプレーゼ」。この日は「金柑とモッツァレラチーズのカプレーゼ ゴルゴンゾーラソース」がやってきた。金柑の柑橘の甘みに、チーズがクリーミーに寄り添いながら、ゴルゴンゾーラやトレビスの苦味がアクセントになったサラダ感覚の前菜だ。

リベラのソイル ロザート2021(グラス1,430円、ボトル8,800円)

こちらにペアリングしてもらったのは、イタリア・ラツィオ州のロゼワイン。「イチゴや柑橘の香りのあるロゼワインですが、ドライな味わいでほのかにタンニンもあります。カプレーゼはデザートっぽくなりがちですが、このロゼワインを飲んでもらうことで料理の甘さを引き締めてくれます」と宮本さん。甘酸っぱさの中に苦味を添えることで食欲をグッと高めてくれるハーモニーになっていた。

昆布とトマトのリゾット✕爽やか白ワイン

リゾットがぐつぐつと沸いてできあがってくると、店全体にいい匂いが漂ってくる

2皿目の「北海道産昆布とフルーツトマト、雲丹のリゾット」は、宮本さんの出身地の北海道の食材をふんだんに使ったもの。店の看板メニューでもあり、一度食べた味が忘れられないと来店する人も多い人気メニューとなっている。コロナ禍の自粛営業中は雲丹抜きのものをパックにして販売したところ、約1万5,000食も売れたという。現在も、北海道紋別市のふるさと納税で販売されている。

北海道産昆布とフルーツトマト、雲丹のリゾット(2,640円)

見た目からすでに食欲そそるリゾット、実際に味わってみると昆布やトマト、チーズの旨味がミルククリームにのって押し寄せてくるおいしさ。そこに雲丹をのせると、とろける幸せがやってくる。いつまでも食べ終わりたくない口福のひとときだ。

レ・シャン・ジュモーのブラン2021《滝》ラベル(グラス1,430円、ボトル8,800円)

リゾットにおすすめなのは、フランス・ロワール地方の白ワイン。「レモングラスや柑橘系の香り、グレープフルーツのような苦味もあります。キレがあって、温度が上がるにつれて洋梨のような果実味も感じられるので、旨味のあるリゾットを爽やかにしつつ果実の甘みでも寄り添える組み合わせです」と宮本さん。ワインにあるミネラル感も昆布やミルクの味わいを引き立てていた。

鴨のロースト✕スパイシー赤ワイン

鴨の低温ロースト バルサミコソース(3,058円)

メインディッシュの鴨のローストは低温でじっくりと火入れされ、美しいロゼ色に仕上げられていた。シンプルに塩やマスタード、バルサミコソースでいただく。クラシックなフレンチの手法で絶妙な柔らかさで焼かれているため、シルキーな噛み心地。鴨特有の旨味もしっとりとやってきた。

カッシーナ・タヴィンのルケ・テレーザ2020 (グラス1,430円、ボトル8,800円)

ペアリングしてもらったのは、イタリア・ピエモンテ州の赤ワイン。「スパイスやチェリー感のある果実味に軽いタンニンがある赤ワインです。鴨の味わいを引き立てつつ、あまり重くならない組み合わせになっています」と宮本さん。鴨の鉄分とソースの甘みをチェリーやスパイス感が心地よく包んでくれるマリアージュ。初めてここでビストロの鴨を食べたら、鴨が大好きになるだろうなと思える味わいだった。

宮本さんの「私が恋した自然派ワイン」

レ・シャン・ジュモーのブラン2021《滝》ラベル(グラス1,430円、ボトル8,800円)

オーナーシェフの宮本さんにあげてもらったのは、自然派ワインの考え方にハッとさせられた白ワイン。

「元々、クラシックなフレンチレストランで働いていたこともあって、最初は自然派ワインの良さがわからなかったんです。でも、初めてこのワインのラベルを見た時に、ワインの名前も生産者の名前もなく、写真で表現されていたことに驚きました。ほかのラベルも雲や河の写真ばかり。

ラベルに思いや味わいをのせて、ブドウそのものの味わいを出しているんだな、ということが伝わってきました。今でも、初めて自然派ワインを飲む若いお客様に対して『ラベルを見て直感で選んでいいんですよ』と紹介しています」

個性的でコスパに優れたワインをラインアップ

店にあるワインも宮本さんがセレクト。国や地域にこだわらず、試飲会でおいしいと思ったものをラインアップしている。自然と料理に寄り添う酸味のしっかりしたものや個性的なラベルのものが多くなっている。グラスワイン15種類(990〜1,430円)、ボトルは25種類(5,500〜9,900円)ある。グラスワインが豊富なので、2人ならこちらから選んでも十分に楽しめる。

アットホームで楽しいビストロ

楽しそうに料理を作る宮本さん
外観。店は代々木上原駅のすぐ目の前。出口から歩いて30秒ほど

36.5℃ kitchenのスタッフは、宮本さんが講師時代の卒業生も多い。学生時代からの師弟関係から14年の付き合いになるスタッフも。そうした関係性の深さも店にアットホームな雰囲気をつくる。おいしくて楽しい店に行きたい、そんなときには代々木上原をめざそう。

※価格はすべて税込

取材・文:岡本のぞみ(verb)
撮影:山田大輔