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〈自然派ワインに恋して〉
シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。
ナビゲーター
岡本のぞみ
ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。
1,200種類のワインがすべて小売価格
「レストランのワインが小売価格で飲めたら……」。そんな夢のような願いを叶えたのが、こちらの「セラードア青山」。1,200種類から選べて、グランヴァンやオールドヴィンテージのワインもあり、抜栓料やサービス料もかからないというから驚く。それができたのは、ここがワインショップに併設されたレストランだから。セラードア青山を運営しているのは、インポーターのジェロボーム。世界各国の地域にある家族経営のトップワイナリーを中心に輸入している会社だからこそ実現できたのだ。
それを実現させた理由について聞くと「いま、ブルゴーニュなどのワインが気軽に飲めなくなってしまいました。レストランで注文するとなるとなおさら。しかし、インポーターとしては普段手が届かない上質なワインをレストランで楽しんでもらいたい。そんな思いでスタートしました」とマネージャーの漆谷剛さん。店内にある1,200種類のワインは、自社やグループ会社のワインダイヤモンズで輸入したワインが中心。有機栽培や環境に配慮したサステナブルな点では自然派ワインが90%以上。ボルドーのグランヴァンは、シャトー・ペトリュスやシャトー・パルメなどビオディナミで造られたものがセレクトされている。
ショップに併設されたレストランとはいえ、料理もサービスも一流。シェフの緒方啓介さんはフランスの二つ星「ル・ルレ・ベルナール・ロワゾー」で修業した経験を持ち、漆谷さんは20年以上ワイン業界に従事しているベテランソムリエ、ソムリエの大葭原風子さんと河内彪さんはグランメゾン出身で専門誌等でも注目されている若手ソムリエ。気軽にハイクラスな料理とワインにふれることができるレストランになっている。
カルパッチョ×はつらつ白ワイン
店内では、アラカルトで料理が注文できる。メニューには、緒方シェフ得意のガストロノミックなフレンチからフレンチフライのようなカジュアルな一皿まで、ワインに合う料理がずらり。1品目に頼んだ「本日の市場直送カルパッチョ」は、小田原の老舗「魚國商店」直送の金目鯛を使用。マスタードとレモン汁、日向夏を使ったケイパーのソースをかけ、上にハーブが散りばめられている。新鮮な金目鯛にソースやハーブが美しく盛られ、キラキラと輝くような一皿だ。
カルパッチョに合わせてセレクトしていただいたのが、ロワールのシュナン・ブラン。「かぼすなど緑色の柑橘類の印象が強く、かりんや青いリンゴの風味があります。酸味がはつらつとした白ワインで、日向夏のソースでいただくカルパッチョと好相性です」と漆谷さん。なめらかなカルパッチョにスカッとした柑橘風味のワインがよく合っていた。
馬肉のタルタル×清涼感ある赤ワイン
次に頼んだ「熊本県産馬肉のタルタルステーキ」は、ミルフィーユのように美しく盛り付けられている。おいしく食べるためには下に敷かれた薬味の部分とうずらの卵をしっかり混ぜていただく。馬肉なのでクセがなく、ヘルシーなおいしさ。メルバトーストが添えられているので、それにのせて食べると、ねっとりした中に刻んだエシャロットなどの食感も加わって、楽しいおいしさがやってくる。
馬肉のタルタルステーキには、フランス・ロワール地方のビオディナミで造られたピノ・ドニスの赤ワインがおすすめ。「ピノ・ドニスというこの地域特有のブドウは色が淡く酸味主体のワインです。タルタルステーキはケイパーがキーになっていますが、ワインにもどことなくグリーンの感じがあるので、みずみずしく果肉感がある馬肉をフルーツ感覚で楽しめます」と漆谷さん。馬肉と赤ワインながら、清涼感でまとめあげる洗練されたマリアージュだった。
蝦夷鹿のポワレ×弾ける赤ワイン
メインディッシュに選んだのは「蝦夷鹿のポワレ ソースグランヴヌール」。鹿肉のポワレに、赤ワインソースをベースに黒コショウとビーツのピューレ、スグリとブルーベリーを使ったソースをかけたもの。付け合わせはごぼうのピューレ。「この時期の蝦夷鹿は脂がのっていて、特有の血の香りがなくなるのでおいしいですよ」と緒方シェフ。付け合わせのごぼうのピューレも、マイルドな土っぽさに赤系果実のソースの甘さが加わり、コーンのようなクリーミーな甘さが出て、しっとりとした蝦夷鹿との組み合わせも美味。
鹿肉といえば王道のマリアージュはフランス・ローヌ地方のシラー。 今回はちょっと変化球として、オーストラリアの自然派ワインのシラーをおすすめ。「シラーとしては珍しくタンニン(渋み)を感じる自然派ワインです。なめし革やたばこの煙のような香りがして、それが野生的な鹿肉やソースにとてもよく合います」と漆谷さん。凝縮した果実味の中に花火のような弾けるタンニンを感じるおもしろい赤ワインで、旨味も炸裂。鹿肉に負けないおいしさの競演が楽しめた。
漆谷さんの「私が恋した自然派ワイン」
普段は自然派ワインよりも正統派のワインをよく飲むという漆谷さんは、ブルゴーニュのようなエレガントなワインをセレクト。
「フランス・ジュラ地方特有のプールサールという品種のブドウを使った赤ワインです。ジュラ紀の名前の由来にもなったジュラ地方は、恐竜のいた時代の古い地層が隆起している土地。その地盤がサラサラしたエレガントなワインを生み出し、まるでブルゴーニュ地方で最も優美なシャンボール・ミュジニーのような雰囲気に。
色は淡くフルーツ中心の香りで、みずみずしくも果実味のジューシーさを感じる味わい。個性的な地域ですが、素晴らしい自然派ワインがあることを気づかせてくれました」
1,200種類のボトルワインをラインアップ
セラードア青山には、ショップに1,200種類のワインがあり、レストランではそれを小売価格で注文できる。この数は都内ワインショップでも最大級の品ぞろえ。価格帯も4,000〜60万円までと幅広い。高価なワインでは、ボルドーやブルゴーニュのグランヴァンの70年代のオールドヴィンテージなども。グラスワインも10種類あり、1,000〜3,000円。グラスワインはたっぷりと100mlで用意され、マグナムボトルのシャンパーニュやバックヴィンテージのワインが開けられることも。まさにバラエティ豊かなワインがそろえられている。
4〜8人で訪れるのがおすすめ
セラードア青山は、グラスワインも用意されているが、せっかくなら1,200種類のボトルから上質なワインを選ぶのがレストランを楽しむ醍醐味。4〜8人で訪れてボトルをシェアしながらたくさんの銘柄を飲むのがおすすめ。1人1本以上飲む人がほとんどだという。席数が限られているので事前予約がマスト。青山で上質なワインを仲間うちでワイワイ堪能したいときは真っ先に思い出したい。