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〈ニュースなランチ〉
毎日食べる「ランチ」にどれだけ情熱を注げるか。それが人生の幸福度を左右すると信じて疑わない、編集部員や食いしん坊ライターによるランチ連載。話題の新店から老舗まで、おすすめのデイリーランチをご紹介!
食の専門スクールの生徒が運営する、中目黒のハンバーガー店
ミシュラン星付き店のシェフが監修する、カジュアルスタイルの飲食店が続々登場している昨今。また新たなニュースが飛び込んできた。ミシュランガイド東京2020〜2022 一つ星掲載店の代々木上原「sio」の鳥羽周作シェフが監修した、中目黒「GENKAI BURGER」がリニューアル。新たに1日40食限定の高級ハンバーガーフルコースを、ほぼ原価で提供するというのだ。
「GENKAI BURGER」を運営するのは、製菓・調理・カフェの専門校「レコールバンタン」の生徒12人。授業の一環としてメンバー自身がメニュー開発から調理、提供、SNS配信、店舗運営まで行い、実践経験を積むことにより自分で開業する際にその経験を役立てるというレコールバンタンの新しい教育の形だ。
2022年1月22日に生徒主導のハンバーガー店としてオープンした「GENKAI BURGER」は、一つ星レストラン「sio」の鳥羽周作シェフを監修、講師に迎えた。校舎を店舗の場所として使用することで地代家賃などのコストをかけずにほぼ原価の990円で「神戸牛 “GENKAI” チーズバーガー」などのメニューを提供し、来店者から味や店舗体験の感想をもらうことで、メンバーのスキル向上につなげている。そのクオリティの高さと、コストパフォーマンスの高さから「GENKAI BURGER」はオープンからしばらく100人以上の行列ができるほど人気を呼んだ。
そんな「GENKAI BURGER」が7月9日(土)より、メンバーへのより充実した教育機会を提供するためリニューアルをし、ハンバーガーを楽しむためのコース料理「宮崎マンゴー“GENKAI”サルサバーガーコース」の提供を開始。食材価格が高騰しているいまだからこそ「高級食材に触れ、食を楽しんでもらいたい」というメンバーの思いから、引き続き高級食材を原価の限界価格にて提供する。一般的な飲食店の原価率は約30%といわれている中、同コースは原価2,106円、提供価格は2,500円(税込)とその原価率は84%にも及ぶ。
原価率84%超え!「宮崎マンゴー“GENKAI”サルサバーガーコース」
「宮崎マンゴー“GENKAI”サルサバーガーコース」は、ハンバーガーの味を最大限に引き出すために開発したスープ、サラダ、ハンバーガー、デザートの4品で構成。このコース構成は、暑い季節の食欲を科学的に研究して生まれた、コース料理向けのsio独自の「感動の設計図」という考え方がベースとなっている。
例えば1品目は、眠った食欲を目覚めさせる「目覚めの一皿」と位置づけ、「冷製コーンスープ」からコースが始まる。玉ねぎとともに国産とうもろこしを丁寧に漉して、生クリームや牛乳と合わせ冷製スープに仕立て、アクセントに自家製のミントオイルをまわしかけた。スプーンを使わずグラスに口をつけてそのまま飲むことで、とうもろこしのザラッとした舌触りのしっかりとした甘さが広がる。後から口の中で香るミントオイルのエッジの利いた清涼感が、夏によくある冷製スープという枠から一歩足を踏み出しているように感じた。
2品目は食欲をさらに加速させる「高める一皿」と位置づけ、食感と味のコントラストが楽しい「スパイス香るチョップドサラダ」が登場。キュウリ、パプリカ、キウイ、レーズン、クスクスなど10種類以上の食材を用い、レモンを使ったヴィネグレットソースをまわしかけ、ミントの葉をトッピングし、テーブルサーブ後にパルメザンチーズを削りかけてくれる。野菜やフルーツだけでなく、レーズンも刻むなど芸が細かい。スプーンで食べることで、一口で多彩な食感・香り・味わいが絡み合うよう計算されている。サラダの量も、メインディッシュであるハンバーガーへの食欲を減退させないよう、あえて少なめにしてあるという。
3品目は感動を最高潮にする「味わう一皿」として、ジューシー×スパイシーなメインディッシュ「果汁×肉汁 宮崎マンゴー “GENKAI” サルサバーガー ケイジャンポテト添え」が振る舞われる。使用するバンズは前回に引き続き、酒種の天然酵母種を使った「峰屋」のバンズ。苦味と少しの酸味を持たせ、野菜の水分でへたらないよう焼き目を濃く仕上げている。
パティは、きめ細かな霜降りが成す口どけの良い脂肪分と、牛肉本来の味わいが極まる、最高級ビーフの代名詞「神戸牛」を100%使用。神戸牛ならではのうま味を最大限引き立たせるため、つなぎ不使用のかなり粗挽きなパティで、ステーキに近いような噛みごたえのある食感と胡椒のスパイシーさが印象的だ。
そして味の決め手になっているのが、宮崎マンゴーとサルサ。薄くスライスした宮崎マンゴーがスパイシーでフレッシュなサルサと合わさることで、甘辛いソースのような役割を果たす。そこに有機農園モアークのルッコラとセルバチコでハーブ感を、スライスしたトマトでみずみずしさをプラスし、全体としてほんのりラテンな趣のハンバーガーに仕上げた。ハンバーガーは、添えてあるケイジャンポテトと一緒に食べて口内調理することで、スパイシーなハンバーガーへと味変もできるのが面白い。
そして4品目はもたれずに満足感だけを残す「余韻の一皿」として「八朔とアールグレイのグラニテ」でコースを締める。九州産の八朔と水、アールグレイと砂糖のみで仕上げたグラニテに、刻んだディルと八朔の果実をトッピングした一品だ。八朔の酸味とほろ苦さ、アールグレイの芳しさとディルのハーバルな香りが涼やかで、ハンバーガーを食べた後の口とお腹をすっきりとさせてくれる。
おいしく食べてフィードバックすることで、未来のシェフたちを応援
GENKAI BURGERでは、1オーダー毎に来店客はフィードバックシートを書いて提出するシステムを採用。味やサービスへの感想の他、いくらの値段の料理に感じたか、価格の目盛りに印を付ける箇所も設けている。これは生徒たちがフィードバックシートを元に改善を行うことで、彼らの更なる成長を促すという意図からだ。
飲食の現場では調理の技術だけでなく“おいしい”を作るためのロジックや売るためのノウハウが必要だ。生徒が自分の頭で考え、自分たちが主導となって実際の店舗運営と同じように来店客へ料理を提供して、フィードバックをもらう一連の流れを経験することが、将来自身のお店を開業する際の強みに繋がると同校は考えている。
前回に引き続きsioの鳥羽シェフが監修を行うが、ハンバーガー屋で腕を振るった経験も持つ鳥羽シェフは、ハンバーガーの味に対しては厳しい。しかし「sioのイズムを生徒たちがうまく落とし込んでコースを組み立ててくれています。今回は味見をしただけでほとんど手を加えていません」というほど、オープン半年で生徒たちの目覚ましいレベルアップが見られたと話す。
営業は毎週土曜日のみ、11〜14時の毎時10名、1日40名限定だ。未来のシェフを応援しつつ、消費者側も原価への考え方を見直すいい機会となりそうだ。