【じっくり食べたいハンバーガー】第28回「キャッスル ロック」(CaSTLE Rock)
今回は大都会の小さな店をご紹介します。こちらはハンバーガー屋ではありません。「バーガーもあるよ」ぐらいな感じで営業している店ですが、今回あらためて「もあるよ」なバーガーを食べ直してみたところ、実に中身のある、しっかり良質なバーガーでした。確かな腕前! 店の名は「キャッスル ロック」と言います。
キャッスルロックは東京メトロ・都営地下鉄新宿線、新宿三丁目駅のほぼ真上にあるお店です。オープンした2008年から6年弱は千葉・市川で営業していました。地下鉄東西線・南行徳駅前に広がる静かな住宅街にアットホームなレストランを構えて、地元の人々を中心に大いに親しまれていましたが、一転、都心ど真ん中の新宿三丁目に引っ越したのは2014年夏のこと。今年で8年。合わせて14年のキャリアを誇るお店です。
店主・穂積さんは高校時代に米国へ留学。コロラド州デンバー近郊で6年を過ごしました。その過ごした街の名がキャッスルロックです。その後、穂積さんは奥さんの米国勤務に伴い再度渡米し、今度はニューヨーク州北西部の都市・ロチェスターで4年半を過ごします。このときの穂積さんの職業は調理師。現地のオシャレなフュージョンレストランなどでコック、あるいは板前として活躍しました。
そんな米国帰りの穂積さん夫妻が営むキャッスル ロックは「肉」の店、ステーキとハンバーガーのお店です。まずはステーキから見てみましょう。
コロナ前は部位により数種類のステーキを出していましたが、いまは品数を絞って1品のみ提供。USビーフのハンギングテンダー、日本でいう「サガリ」の部位などを使ったステーキを出しています。
直火のグリラーで表面を焼いたのち、オーブンへ移してミディアムレアなら約7分、ミディアムなら約10分。ご覧の通りのしっかりとした肉塊で、赤身中心の部位なので、脂身はほぼありません。こんなガッツリ立派なステーキが平日ランチ180g=1,380円、200g=1,580円で、大盛り無料のライス付きで食べられます。チェーン店にも負けないお得なプライス! 1ポンド=450gステーキでも3,880円!
こちらが焼き上がった300gステーキです。焼き加減はミディアム。味付けは塩コショウのみ。その他の香辛料やパウダーなどは一切利かせていません。実に単純素朴な味なのですが、結局のところ、こういう食べ方が一番飽きないんですよねぇ。噛めば噛むほど赤身肉の味が芳ばしさを増すので、噛むこと自体が愛おしくなるような、せっかくの肉の味を飲み物で消してしまうことがもったいなく感じられるような、そんなおいしさです。ゆっくり食べたいんですが、ついつい食べ急いでしまうんですよね……おいしくて。
そんな次第で、キャッスル ロックは「お得なステーキ店」として近隣にお勤めの皆さんの間で大変重宝されています。一方のハンバーガーは「もあるよ」のレベルでは実は全くなくて、全部で19品のバーガーがメニューに大書されています。
USビーフのチャックアイロール(肩ロース)を自家挽き&直火焼きしたパティは、120g・180g・240gの3サイズ。バンズは名店、新宿「峰屋 工場直売所」の酒種天然酵母。一番人気は自家製ベーコンを挟んだ「BECバーガー」ですが、まぁベーコンチーズバーガーはどこへ行っても食べられますので、どうせなら、キャッスル ロックならではの「尖った」バーガーを楽しむのがよいかと思います。ひと言で言えば「通な」食べ方を、以下“固め打ち”でご紹介しましょう……。
まずは「パティ&バンズ」。正確には単数形の「パティ&バン(patty & bun)」でよいと思います。野菜なし、パンと肉のみのバーガーですが、これが極めて美味! そのシンプルな食べ方に耐えるだけの肉の旨味がしっかり備わっているので、意外なぐらい“不足”を感じません。パティのサイズは180g。10mm挽きの挽肉の中には手切り肉も少々。塩コショウと軽いナツメグのみの味付けで、ガーリックなど一切利かせていませんが、ステーキ同様、これが全く飽きません。
お好みでケチャップをかけるもよし。チーズ1枚足してもいいでしょう。添えられたソースを使うとパンと肉の間で良き潤滑油の役割を果たします。そんな中、おすすめしたいのはハラペーニョトッピング。これは実に研ぎ澄まされた、シャープなハンバーガーの食べ方です。
ハラペーニョはこんな山盛りにのせなくても、普通盛りで十分OK。酸味と塩気でキュッ!と味が締まって、食べても食べてもまるで飽きません。「野菜なんてなくていいな」と思わせるバーガーです。それと、ハラペーニョは意外にもバンズの味を引き立てますね。
肉の風味をさらにシャープに尖らせるべく、次はブルーチーズとベーコンを足してみましょう。メニューでは「ブルーBバーガー」となっています。
ブルーチーズはデンマーク産のダナブルー。ベーコンのポークもデンマーク産です。塩コショウ、ハーブ、メイプルシロップに1週間漬け込んだ豚バラ肉を半日かけて店内で燻製。その自家製ベーコンをガリッガリに焼いてパティの上へのせた一品です。その焼き込み方の容赦のなさ! 例えるならビーフジャーキーを炙ったぐらいのガリガリ加減で、これがブルーチーズと相性抜群! 両者混ざって突き抜けるような力強い味に。このバーガーも野菜なしでいいと思います。
最後はサンドイッチを。「ステーキサンド」もいいですが、この「プルドビーフ」のサンドイッチもおすすめ。プルドポークのビーフ版です。USビーフの肩ロースをスパイスに一晩漬け込み、スモークした後、オーブンに入れて低温で長時間じっくり熱を加えます。そのやわらかくなった肉を細かくほぐせば出来上がり。自家製のBBQソースが芳ばしく、ほろ苦く絡んだ、ダークでピリ辛な味わいです。ハラペーニョなどを途中で足して「味変」させると、後半の味がさらによくなります。
そんな肉だらけな店なので、合わせるお酒も重要。そこで注目が「リアルハーフ」なるメニューです。サッポロ黒ラベルとギネスビールの樽生を半分ずつ注いだハーフ&ハーフの生ビールです。かつてサッポロビールがギネスの国内販売をしていた頃に推奨していた飲み方で、専用の道具を使うと、2種類のビールをきれいな2層に分けて注ぐことができます。この注ぎ方を今なおしている店はほとんどないので、稀少かつ貴重。“映える”こと間違いなしのおいしくて楽しい一杯!
クセのない良質な肉をクセなく素直に焼いて出す――それがキャッスル ロックのスタイルです。ですので、食べるこちらも直球勝負で応じましょう。挟む食材の数を絞り込み、味をシャープに尖らせてバーガーを食べると、その魅力と実力を数倍増しに楽しむことができると思います。余計なものを敢えて削ぎ落す――そんな食べ方を試すには、キャッスル ロックはちょうどいい店かもしれません。さぁ、ハンバーガー“通”への階段を一歩上ってみましょうか。ぜひお試しを!