〈今夜の自腹飯〉

予算内でおいしいものが食べたい! インバウンドや食材の高騰で、外食の価格は年々上がっている。一人30,000円以上の寿司やフレンチもどんどん増えているが、毎月行くのは厳しい。デートや仲間の集まりで、「おいしいものを食べたいとき」に使えるハイコスパなお店とは?

ラーメンも本場の味が密かなブームに。水天宮近くにできた福建省厦門のご当地麺「西北拉麺」

今年も去年に引き続き、中華が元気な一年だったが、その一角で本格的な中華のご当地麺も静かなブームになっている。その一軒が福建省厦門(アモイ)の味を伝える「西北拉麺(シーベイラーメン)」だ。イスラム文化圏からやってきたため、ハラール認証も取得。水天宮の駅からほど近い店舗は、2018年10月のオープン以来、ピーク時には行列ができるほどの人気を集めている。

福建省厦門そのままの打ち立て麺は、話題のハラールフードでもあった

今、欧米では空前の日本発ラーメンブームが巻き起こっているが、日本のラーメンのルーツをたどれば、中国本土に行き当たる。麺料理発祥の地として、刀削麺を生んだ山西省が知られているが、最近人気の本場中国ご当地麺といえば、蘭州ラーメンだろう。蘭州ラーメンはイスラム教を信仰する回教徒から広まったことから、豚は不使用。スープにも具にも牛肉を使うのが特徴だ。その蘭州ラーメンが中国全土へと伝わり、福建省厦門で独自に進化したのが西北拉麺。水天宮にある「西北拉麺」では店主、増渕勝慶さんが現地を食べ歩いて一番おいしかったという「厦門第一家拉麺」の味をほぼそのまま再現している。
席はカウンター12席のみ。
楽しいメニュー紹介はオーナーの奥さまの手描き。これを読めば、どんな料理かよくわかる。
実は、増渕さんの本業は石材屋。石材の仕入れで厦門を訪れるたびに、西北拉麺を食べ歩き、同じ味を日本でも出そうと一念発起。早速、お気に入りの「厦門第一拉面」に頼みに行くも「イスラム教徒じゃないから」という理由で3年近くは断られ続けたという。が、熱意が伝わり、1年間、料理人を同店で修業させることと中国では出店しないことを条件に、味の伝授を許され、無事、開店に漕ぎ着けたのだとか。麺のルーツに敬意を表し、肉や調味料など、すべてハラール認証を受けた素材を用いるハラールレストランでもある。

オーダーが入ってから打って、延ばすモチモチのストレート麺

現地に派遣され、技術をしっかり身につけて帰ってきた内モンゴル人の料理長、韓友(かんゆう)さんが、麺を担当する。オーダーが入るごとに、バンッバンッと生地を打ちつけ、まとめたと思ったら、すぐに延ばす。みるみる、生地が何本にも分裂して麺ができあがる。

平たいストレート麺はもっちり。ほどよいコシを出すために2ヶ月以上、試行錯誤したという。「やっぱり中国とは水も小麦粉の質も違いますから」(韓さん)

国産の小麦粉を2種類ブレンドし、水でこねてマイナス3度の冷蔵庫で24時間寝かせ、打つ直前にカンスイを入れる。水の量や寝かせる時間は気温によって調整する。そう、生地は生き物。

小麦粉生地の塊はあっという間に分裂して、長い麺へと姿を変えていく。

麺を打つ間にも、空気中の水分を吸い、茹でている間はもちろん、茹で上がってからも刻々と、状態が変わっていく。

 

「ほどよいコシのある状態は30分しか保たないので、できるだけ早く食べてくださいね」(韓さん)



注文したら、あっという間にできあがるので、麺を打ち始めたら携帯チェックはやめ。最高の麺に立ち向かうべく、こちらも最高の状態でスタンバイしたい。

必食のシグネチャー、汁なしの「牛肉拌麺」は大急ぎで混ぜ混ぜ!

「牛肉拌麺 並盛」780円。
麺は30分の命と言われたが、人気No.1の「牛肉拌麺」が置かれたら、間髪を容れず麺と具を混ぜないと1分もせずに、麺同士がくっついてベストの状態にありつくことができない。ちまちま、ちょっとずつではなく、思いきりよくダイナミックに混ぜ混ぜしたい。箸で麺を持ち上げるごとに、フワーッと立ち上る香りもご馳走。この麺は、少なくとも10m以上1本でつながっているため、切りながら食べる。牛肉を使った秘伝の肉ダレとパクチー、小ネギ、ザーサイと一緒に、深呼吸しながらササッと混ぜたら、右手で適量の麺を箸でとり、左手のハサミで1回分の量を切り取って、ズズッとすするのが正解。別添えの、澄んだ牛骨スープは漢方やスパイス入り。見た目通り、ピュアなやさしい味わいにホッとする。好みで自家製ラー油や香酢、ニンニク油で“味変”してもいい。

焦らずに堪能したいなら、汁ものバージョン「牛骨薬膳拉麺」を

「牛骨薬膳拉麺 並盛」880円。
汁もの人気No.1は、構成要素が「牛肉拌麺」とほぼ変わらない「牛骨薬膳拉麺」。別添えだったスープと「牛肉拌麺」をドッキングさせ、牛骨スープをとったときのスネ肉の角切りをのせれば完成する。味の要素も似ているが、汁に麺が入るだけで、全体的にほっこり感が強くなる。もともと力ずくでねじ伏せるような強い味ではないが、さらにまろやかさがアップ。また、早く混ぜないと麺がくっつく「牛肉拌麺」と違って、焦らずにいただけるため、癒やされたいときはこちらがおすすめ。スープは生姜もたっぷり入っているので、体を温めてくれる効果も。こちらも卓上の調味料で、いろいろ“味変”を試すといい。

メキメキ人気上昇中、新メニュー「酸辣湯麺」は女性ウケNo.1

「酸辣湯麺」1,080円。

この秋、登場した「酸辣湯麺」は女性を中心に、早くもリピーターが続出する人気メニューになっている。牛骨スープをベースに、自家製ラー油や唐辛子で真っ赤に染まったルックスは、見るからに辛そう。確かに辛いものの、麺がもつ小麦粉の素朴な甘みや卵、ザーサイの旨み、キュウリの清涼感など、具材それぞれの異なるテイストが次々、口の中に入ってきて、辛いだけじゃない味の世界が表現されているのがミソ。熱々のスープの中でちょっとずつ火が入っていく、生トマトのフレッシュな酸味が抜群に効いている。このおかげでスープに入っている米酢の醸造された酸味がまた、一段と映えるのだ。

見逃せないサイドメニュー「焼餃子&水餃子」も、ハラール認証の牛肉を使用

「西北牛肉餃子 6個」680円は水餃子か焼餃子かを選ぶ。

サイドメニューの餃子も絶品だ。瀋陽出身の潘振敏(ハン シンビン)さんが皮からつくっている。中身は牛挽肉にキャベツ、玉ネギ、ニラ、長ネギ、生姜に漢方やスパイス入り。焼きは皮がパリッとして香ばしく、水餃子はつるんとして、弾力があり、中のあんはどちらもジューシー。しっかりと味がついているので、そのままでも美味だが、ニンニクやネギ油、ラー油、酢などを合わせたタレもよく合う。麺類でお腹いっぱいでも別腹で入ってしまうが、6個入りが多ければ3個入りも選べる。ただし、ピーク時はないときも。場合によって昼は水餃子のみ、夜や水曜、土曜は焼餃子のみ販売していることも多い。

 

なお、こちらの店はハラール認証の素材を使いつつも、アルコールはOK。青島ビールやハイボールなどと一緒に味わえるのが、うれしい。

目の前でどんどん、餃子が包まれていく。

ほかにも「ミニ麻婆豆腐」「ミニ丼」など、魅惑的なメニューがいろいろ。麺と組み合わせてオリジナルセットをつくるのも楽しい。

【本日のお会計】

■食事(3人分)
牛肉拌麺 並盛 780円
牛骨薬膳拉麺 並盛 880円
酸辣湯麺 1,080円
西北牛肉焼餃子 680円
西北牛肉水餃子 680円 合計 4,100円

※価格はすべて税込

 

取材・文:寺尾妙子

撮影:山田英博