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恵比寿駅東口からほど近い、大通りから1本入った通りに店を構える「鳥つた」。2019年8月1日にオープンした、銀座と赤坂、新宿に店舗展開している秋田比内地鶏焼鳥専門店の「とりや」が手掛ける系列店だ。既存店とは全く違ったコンセプトを打ち出し、「大人の焼鳥酒場」として焼鳥コースを3,000円台から提供している。産地や銘柄を縛らず良質な食材を厳選しており、カジュアルに楽しめるのがウリだ。
控えめな入口が良い意味で期待を裏切る、洗練された焼鳥屋
恵比寿駅東口の交差点から細い通りを進むと、茜色に白字で「鳥つた」と書かれた暖簾が目に入る。足元にランプが灯るのみのシンプルな入口は、気をつけていないと通り過ぎてしまいそうだが、その控えめさが暖簾をくぐり階段を上がった先にはどんな料理が待っているのだろうと期待感を持たせる。一見では焼鳥が食べられるお店とは分からないが、噂を聞きつけて訪れる客が途絶えないという。
余計な装飾がないシンプルで温かみのある店内は、J字形のカウンター席と、入口手前のテーブル席とに分かれている。カウンターや焼き場の配置は、全席を見渡すことができ、かつ居合わせた客同士やスタッフがコミュニケーションを取りやすくなるよう設置。テーブル席は扉を締めれば完全個室になる。それぞれの客の食事の進み具合や飲み物などを把握し、絶妙のタイミングでサービスできるよう計算しつくされている。
焼鳥とワインのマリアージュを堪能できる銀座・赤坂の「Toriya Premium」の洗練されたサービスと、日本各地の地酒とともに焼鳥を楽しめる新宿「地鶏焼 とりや」の和の雰囲気を取り入れた「鳥つた」。「大人の焼鳥酒場」をコンセプトにしているだけあって、落ち着いた雰囲気の中で焼鳥とお酒のペアリングが楽しめる、洒落た焼鳥屋だ。
良質な素材を使用した焼鳥をカジュアルに楽しめるコース料理
ストップをかけるまで焼鳥を食せる「おまかせ」と、焼鳥を7本味わえる「7本コース」の2種類のコースから料理を選び、追加で単品をオーダーするスタイルの「鳥つた」。コース内容はどちらも、先付け、小鉢2種、口直し、焼鳥となっている。「7本コース」は3,800円と手頃な価格設定で、「追加焼鳥」や締めの「御飯」、飲み物などを好みで追加できるカジュアルさが人気だ。
系列店は「秋田比内地鶏」の専門店だが、「鳥つた」は産地や銘柄を縛っていない。「カジュアルに焼鳥を楽しんでもらいたいので鶏の部位によって良質なものを厳選して、良い状態のものを提供しています。そこが当店のこだわりですね」と語る店長の芳賀氏。部位ごとに厳選された鶏肉を気軽に楽しめるのは、なんとも贅沢なことだ。日本各地の鶏肉の味わいをじっくりと噛みしめながら食したくなる。
鶏肉の産地や銘柄にはこだわらない一方で、卵にはこだわっている。使用するのは、埼玉県深谷市の「田中農場」の「紅玉」。卵特有の生臭さが抑えられ、濃厚なコクと甘みが強いのという特徴からだ。卵を使う料理全てに使用しているので、コース料理で味わったあと、さらに卵のおいしさを堪能すべく、締めに「親子丼」や「卵かけ御飯」を頼みたくなる。
気の利いた「先付け」と、プラスで必ず食したい「たたき」は大注目
先付けで提供される「きんかん醤油漬けの磯辺巻き」は、一晩醤油に漬け込んだ未成卵とキュウリを海苔で巻いて、ひと口でいただく。シンプルだが、手間のかかった一品だ。醤油とねっとりとした黄身の濃い味が合わさり、そこにキュウリのシャキッとした食感とみずみずしさとが、口の中でひとつにまとまる。気の利いたスターターに食欲を刺激され、次の料理への期待が膨らんでいく。メニューを今一度見直しながら、料理の内容や一押しの酒は何かと確認したくなるはずだ。
コースに含まれていないが、ぜひ食したいのが「黒さつま鶏のたたき(もも・むね)」。鹿児島県霧島市の「とり肉大作」から直送している地鶏だ。地元産の食材が中心の自家配合飼料を与え、竹林で放し飼いにして育てられている。ストレスのない健康的な鶏なゆえに、柔らかく弾力のある食感と肉の旨味を堪能できる。イタリア・シチリア島の岩塩やわさび醤油を付けて食すと、噛めば噛むほど引き出される肉の甘みとレアの食感が楽しい。コースに500円プラスするとお得に味わえるので、ほとんどの客がオーダーするとのこと。
常識にとらわれない焼鳥はインパクトある見た目と味わい
照りが美しい「つくね」は、ふわっとして柔らかい食感が特徴の千葉県「水郷赤鶏」のもも肉を使用。添えられた紅玉の黄身をたっぷりと絡めて口に含むと、黄身の濃厚な味わいと三度漬けした甘めのタレがほどよく合わさりながら、つくねの旨味がしっかりと味わえる。コロンとした鶏卵ほどの大きさはインパクトがありながらもどこか美しい佇まいだ。
焼鳥の中でつくね同様にインパクトがあるのが「ねぎま」。通常肉の間にねぎが挟まったものだが、こちらは浅葱を肉でぐるりと巻いたスタイルだ。パサつきを抑えた焼き方で、外側は香ばしく、中はシャキッとしたねぎと肉の柔らかい質感を楽しめ、口の中でごま油がふわっと広がる仕上がりになっている。
焼鳥はいたってシンプルな料理だが、その分ごまかしはきかない。香ばしい焼き目とふっくらとした食感に仕上げる、最適な炭の並べ方や焼き方のコツがあるのだろうか。芳賀氏に投げかけると、「炭の並べ方にルールはありませんが、つけたり、隙間を作ったりして火の強さを調節します。素材によって火の通り方も異なるので、焼き台の右側と左側で分けたりもしていますね」と教えてくれた。微妙な火加減を調節する職人技が焼鳥のおいしさを引き出すのだ。
「おいしい」を基準に分かりやすく取り揃えた日本酒や焼酎
「Toriya Premium」や「地鶏焼 とりや」のようにワインや日本酒を多く取り揃え、焼鳥と一緒に味わえる「鳥つた」。日本酒は、詳しくない人でも分かりやすく、気軽に楽しめるようにとひと工夫されている。「爽酒」「薫酒」「醇酒」「熟酒」と分類され、それぞれ銘柄と産地が記されたシンプルなメニューで、見るだけで大方の違いや特徴の想像がつく。半合で提供されるので、色々なお酒を味わいやすいのも嬉しいところ。産地や銘柄に縛られないこだわりが、飲み物にも表れている。
焼酎やビール、ウィスキーも少数先鋭で揃う。焼酎は「芋」「麦」「米」で厳選の1種ずつのみ。特徴的なのが、ノンアルコールビールだ。通常ノンアルコールビールは、添加物を加えてビール風の味を出しているが、それでは良い素材を使った料理を提供する「鳥つた」のポリシーに反すると、アルコール分だけを抜いた、添加物が入っていないドイツ産のものを提供している。他店にはない、一貫したこだわりだ。
毎夜さまざまな客が立ち寄るカジュアルな酒場でありたい
SNSの投稿を見て、ひとりで訪れる女性客もいるとのこと。できれば大人数の利用より、少人数の客が次々と立ち寄る店でありたいそう。「J字形のカウンターの間に立ち、お客さん同士を繋いだり、飲んでいるお酒に合わせた小鉢を出したりと、コミュニケーションを大切にした接客を心がけていきたいですね」と笑顔で芳賀氏は語ってくれた。
洗練された上質な雰囲気とカジュアルな親しみやすさが同居する「鳥つた」。独特の居心地の良さに魅了された客の口コミで、「鳥つた」の名はどんどん広がるだろう。「教えたくない名店」になるのもそう遠い日ではなさそうだ。
※価格はすべて税込