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本場香港の味と、アジア料理との融合を楽しめる新店
2019年6月4日に錦糸町にオープンした「サウスラボ南方(みなかた)」は、香港通として知られる写真家であり、グルメ関連の著書も多数執筆している菊地和男さんがプロデュースした店だ。さらに料理長を務めるのは高級中華の名店・旧「福臨門酒家」で腕をふるった香港出身の料理人・Cham Chi Kwong、通称トミーさんとあり、早くからグルマンたちの注目を集めている。
広東料理の流れを汲む、アジア各国の料理を研究し発展させる
「サウスラボ南方」は、普通の香港料理店や広東料理店とは一線を画す存在だ。香港・広東料理をベースにしながら、ベトナム、タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシアなどの料理のエッセンスを積極的に取り入れている。その理由を店長の吉田朱希さんはこう語る。
「香港で親しまれている料理は、広東料理が基本です。それは広東省の人々が香港に移り住み、“香港広東料理”とも言える食文化を作ってきたから。同じように、東南アジアの国々にも広東省から移住した方がたくさんいらっしゃいます。そこで広東料理と現地の食文化を融合させ独自の料理を生み出してきました。そんな“南方”の食文化を研究し、融合させ、さらに発展させることが、私たちのコンセプトです」
中国の南部に位置する広東省。海も山も川もあり、海産物や野菜が豊富で「食は広州にあり」と言われるほどバラエティ豊かな食文化が根付いている。その広東省から香港や東南アジアなどの南方へ移住した人も多く、その土地の食文化に影響を与えてきた、というわけだ。
例えば、タイスキをはじめとするタイの鍋料理や、マレーシアのニョニャ料理なども広東料理がベースになっている。考えてみると、シンガポールの鶏飯とタイのカオマンガイは、調理方法は基本的に同じ。香辛料やハーブの使い方に違いはあるが、同じルーツを感じさせる。広東料理に東南アジアの食を融合させるのは、自然の流れなのだ。
予約客の8割が注文する本場の味『クリスピーチキン』
まずは、お店のスペシャリテからご紹介。
「脆皮炸子鶏(クリスピーチキン)」は、3日前までに予約が必要なメニューだが、これを目当てに訪れる人も多く、予約客の約8割が注文するほどの人気だ。皮のパリパリの食感と鶏肉のしっとりジューシーな味わいが格別で、特に下段に敷かれた背中側の肉は脂が甘く美味。まずはそのまま食し、途中でさっぱりしたければレモン汁を、塩味を加えたいときは五香粉入りのお塩をつけていただく。
使用しているのは「龍崗鶏(ロンコンカイ)」と同じ品種の鶏で、鶏自身が良質な脂をまとっている。
丸鶏のままさっと茹でて、塩、砂糖、酢、赤酢などで味をつけ3~4時間ほど吊るして乾かす。次に低温の油をまわしかけて40~60%ほど火を通し、さらに2時間ほど乾燥。オーダーが入ってから、油の温度を低温から高温に徐々に上げていき、何度も油をまわしかけて仕上げる。手間ひまをかけるからこそ、絶妙な火入れができるのだ。
香港出身の料理人・トミーさん。菊地さん自ら料理長に抜擢したとあり、その腕は折り紙つき。20歳で料理人になり、「アイランド シャングリ・ラ 香港」でも9年半ほど働いた後、37歳のときに来日。旧福臨門酒家で14年ほど腕をふるったトミーさんの技を堪能できるのが「脆皮炸子鶏(クリスピーチキン)」だ。
パクチー料理や薬膳スープに、健康・美容効果も期待
一方で、南方スタイルとも呼ぶべき一品が「南方潮州魚生(南方風潮州カルパッチョ)」。
この日の魚は、“幻の高級魚”とも呼ばれるスマ。マグロとカツオのよいところを合わせたような風味があり、刺身とたたきの2種をひと皿でいただける。
トマトソースは、パクチーなどの香味野菜やトウガラシを入れて辛みを利かせたもの。スマの下には、セルバチコ、ガパオ(ホーリーバジル)などをペースト状にして、オクラ、ヤマイモ、キュウリ、赤タマネギを和えたソースを敷いている。
トマトの酸味、ハーブの香り、そしてスマの濃厚な味わいが絡み合い、絶妙にマッチ。野菜やハーブをたっぷり使っているため、女性に人気なのだとか。
そして外せないのがスープだ。「広東料理といったらスープ」と言われるほどで、その味の決め手となるのが上湯(ショントン)と呼ばれるダシ。同店の上湯は、金華ハム、丸鶏、豚肉などを6時間かけて煮出しており、その上品な味わいは「季節のスープ」や「上湯生麺」などで楽しめる。
さらにワンランク上の味を堪能したいなら「竹絲鶏炖野生水魚(烏骨鶏とスッポンのスープ)」がおすすめ。烏骨鶏、スッポン、スペアリブ、ヤマイモ、クコの実などの具材に、上湯の一番ダシと二番ダシを加え、鍋ごと蒸篭(せいろ)に入れ、6時間かけて蒸し上げた逸品。
ひと口食べれば、滋味深い味に驚くはず。素材の旨みが凝縮されたダシそのものが味わい深いので、塩も醤油も加えていない。具材たっぷりで、食べ応えも抜群。食べ進めるうちに、身体の内側からじんわりと温まっていく。
希少な自然派ワインや、珍しいアジア野菜に出会える
プロデューサーの菊地和男さんはワインにも造詣が深く、自然派ワイン(ヴァンナチュール)の黎明期から携わってきた。そのため希少な自然派ワインなど、ワインバーでもお目にかかれないような1本に出会えることも。
グラスワインは常時10種類ほどがあり、スパークリング、ロゼ、白、赤から好みのものを選べる。1杯900円~1,500円ほどで、料理とのペアリングをスタッフに任せることも可能だ。ボトルワインも常時150種ほど用意されており、価格は4,000円~18,000円ほどで幅広く揃えてある。
香辛料を利かせた料理には、スパイシーな香りのワインが好相性なのだとか。また油分の多い料理も、ワインに含まれるタンニンや酸味がすっきりと流してくれる。
その一方で、紹興酒は置いていない。代わりに「紹興酒のような香りのするワインを用意している」というからユニークだ。
さらに「サウスラボ南方」では、日本で流通の少ないアジア野菜やハーブを千葉県の畑で自社栽培している。カルパッチョで使用したセルバチコやガパオもそのひとつ。そのほかにも、広東白菜、涼瓜などがあり、炒め物などに使われている。近場で育てた朝どれの野菜は、空輸したものとは香りも味も別物のようだ。
さらに進化を遂げる、南方スタイルから目が離せない
最後に、店長の吉田さんに今後の展開について聞いてみた。
「今は料理長のつくる香港の本場の味を楽しみにしている方が大多数ですが、今後はさらにアジア各国の料理を研究し、南方スタイルのフードを充実させていく予定。お店にお越しいただければ、本場香港の味はもちろん、新感覚のアジア料理をおいしいワインとともにお召し上がりいただけます」
広東料理とアジア料理との融合は、トミーさんにとっても新しい挑戦となる。どんな進化を遂げていくのか、これからも目が離せない。
※価格はすべて税抜