「大人が気軽に楽しめる」店

築地の「東京チャイニーズ 一凛」や鎌倉の「イチリンハナレ」で食通の人気を集めてきた齋藤宏文シェフが、全く新しいスタイルの大型レストランをオープンした。場所は丸の内仲通り沿いの有楽町側、ザ・ペニンシュラ東京の向かいという一等地。その店「TexturA(テクストゥーラ)」で作り出されるのは、中華、スパニッシュ、フレンチの料理人たちによる、ジャンルの垣根を越えたイノベーティブ料理だ。

 

斎藤シェフがここで目指しているのは、「一食3万円や4万円の食体験をしてきた大人が、気の合う人と気軽に楽しめる店」。それにしても四川料理のエキスパートであるシェフが敢えて異ジャンルに目を向けたのはなぜ?と聞けば、「おいしいのは当たり前のこととして、さらに飲食を楽しむ方向を考えたらこのスタイルに行き着いた」とのこと。背景には「『イチリンハナレ』のスタッフの中にスペイン料理やフレンチの経験者がいたことや、もともと自身も異ジャンルを食べに行くのが好きだったこと」があるとか。

 

カジュアルダイニングエリア

レストランエリア

 

約90席の店内は、さまざまなシーンで気軽に使えるようにと、2つのエリアに分かれたフロア構成。キラキラのシャンデリアに照らされた入り口側はバーとしても利用できるカジュアルダイニングエリアで、その奥の少し高い位置に広がるフロアは、革新的な季節がわりのコースを楽しめるレストランエリアだ。

 

アップテンポなBGMと人々の話し声が入り混じった空間には、海外のレストランを思わせるエネルギッシュな雰囲気が漂う。

斎藤シェフ

四川料理とスペイン料理がごく自然にコースに

「イチリンハナレのよだれ鶏」

 

カジュアルダイニングエリアのメニューはアラカルトで、中華やスパニッシュを中心とした約20品。その中に斎藤シェフのシグネチャー料理をのせているのは、「『イチリン ハナレ』の予約が先まで埋まってしまい、多くの方に楽しんでいただくことができない状況」の解決策でもある。

 

たとえば、味わい豊かな高坂鶏を麻辣味のタレで味わう「イチリンハナレのよだれ鶏」(900円)は、「東京チャイニーズ 一凛」でも「イチリンハナレ」でも人気の品。メニュー表でその下の行に書かれた「に つける餃子と山椒麺」(600円)は、「イチリンハナレのよだれ鶏につける餃子と山椒麺」という意味で、器に残ったよだれ鶏のタレを“つけダレ”として活用するための「餃子」と、爽やかな花椒の香りがする「山椒麺」のセットだ。

「イベリコ」

 

レストランエリアのディナーメニューは、季節がわりの13品から成るおまかせコース1種類(8,000円)。メニューには食材の名前がヒントのように書かれており、たとえば5月の1品目の「イベリコ」は、イベリコ豚のハムをのせたパンコントマテ(パンにニンニクとトマトを塗ったスペイン料理)。実はこの品、カジュアルダイニングエリアで「イベリコハムトマトパン」(1,600円、3人前)として出されているのと同じもので、ハムの下のパリッとした自家製パンは「パンデクリスタル」と呼ばれるスペインのパンだ。

「を、三段活用」

 

5月のコースの2品目「高坂鶏」もアラカルトの「イチリンハナレのよだれ鶏」と同じものだが、3品目の「を、三段活用」は、アラカルトの「に つける餃子と山椒麺」に豆乳を付けたもの。よだれ鶏のタレを餃子や山椒麺につけて活用したら、最後はタレに豆乳を混ぜてスープとして楽しもうという、三段活用のアイディアが楽しい。

「海老」

 

コースの「海老」はアラカルトの「アヒージョ パンつき」(1,500円)とほぼ同じながら、使う海老の種類は異なり、コースに使われるのは大きなボタン海老。中心に半生の部分を残したボタン海老のアヒージョは、巷のバルでは出会えない贅沢な味わいだ。オリーブオイルにニンニク、唐辛子、海老ミソと桜海老のペーストを入れたソースは濃厚な旨みに溢れ、パンにつけると止まらなくなる。

 

しかし、ふとふり返ってみると、数分前に食べたのは餃子と山椒麺。続けてアヒージョを食べても違和感がないことを不思議に思って斎藤シェフに尋ねてみると、油と塩はコース全体を通して極力同じものを使うようにし、統一感をはかっているという。

 

イノベーティブでありながら直球の美味しさも楽しめるのは、「テクストゥーラ」ならでは。最近食べ歩きに飽きてきたという方こそ、グルメ好奇心を刺激されに出かけてほしい。

 

※価格は税別

文/小松めぐみ

写真/大谷次郎