お菓子の歴史を語らせたら右に出るものはいない! といっても過言ではない、お菓子の歴史研究家・猫井登先生が、現在のトレンドを追いつつ、そのスイーツについて歴史を教えてくれちゃうという、一度で二度美味しいこの連載。第9回は、ひとつの分野に特化した本格派のお店が多い「代々木八幡」の美味しいものを紹介します。

 

そして、今回お送りする前編では、“チョコレートに特化したお店”が登場します!

【猫井登のスイーツ探訪9】〜代々木八幡でチョコレートツアー編〜

 

〜渋谷・東急百貨店本店横で猫井先生と待ち合わせてオーチャードロードを代々木八幡方面へ〜

 

猫井(以下、猫):さあ、こちらから、代々木八幡駅の方に向かって歩いて行きましょう。

 

編集(以下、編):代々木八幡を歩くと聞いていたのに! なんで渋谷の東急百貨店前で待ち合わせなんですか?!

 

猫:ふふふ。実はですね、代々木八幡へ行くにはこの先の「奥渋谷」エリアを通って行くと、とっておきのお店に寄ることができるんですよ。

 

編:なるほど。納得しました(笑)。

 

猫:ほら、さっそく右手前方に「ミュゼ・ドゥ・ショコラ・テオブロマ 本店」が現れましたよ!

【1軒め】名ショコラティエによる濃厚チョコレートケーキを召し上がれ「ミュゼ・ドゥ・ショコラ・テオブロマ 本店」

 

猫:こちらは、日本人ショコラティエの先駆けとして有名な土屋公二さんのお店です。カカオ豆の産地や品種を厳選し、例えば「サンフォアキン ドス」というケーキでは、豊かな香りと酸味を合わせ持つベネズエラ産チョコレートを使い、スポンジとガナッシュ(チョコレートクリーム)を2層仕立てにするなど、特徴的なチョコレートケーキが多いですね。

 

出典:サロンちゃんさん

 

編:わぁー、美味しそう。渋谷駅から少し離れているのもあって、ゆっくりお茶ができそうですね!

〜さらに代々木八幡駅方面へ〜

 

編:代々木八幡ってどんなお店が多いんですか?

 

猫:一言でいうと、「ひとつの分野に特化した尖ったお店がたくさんある地域」ということになるでしょうか。「徹底っぷりが半端ない!」というお店が多いですね。これらのお店の特徴を分析することで、スイーツの「トレンド」とか「今後の方向性」のようなものも見えてきて、とても興味深いですよ。

 

編:食のトレンド発信地なんですね! 俄然気になってきました。

 

猫:実は代々木八幡駅の近くに、先ほども紹介した「ミュゼ・ドゥ・ショコラ・テオブロマ」の土屋シェフが手がける、世界から厳選されたタブレットチョコレートを販売するお店があるので、そちらにも行ってみましょう。

【2軒め】日本随一のカカオハンターのチョコレートに出合える「カカオストア」

出典:ベッキオさん

 

編:壁一面、タブレットだらけですね! オススメはありますか?

 

猫:世界15カ国のカカオ生産国を旅し、珍しいカカオの品種を求めてジャングルの奥深くまで入っていくカカオハンターとして有名な小方真弓さんのチョコレートブランド「CACAO HUNTERS」の商品はいかがでしょうか? なかなか普通のお店では手に入らないチョコレートですよ。

 

編:「プロが買うバレンタインチョコレートの回でもオススメしていたブランドですよね。 これは買わなきゃ!

猫:それでは、そろそろ今日のメインのお店に向かいますよ。少し距離があるので、道すがらチョコレートの話をしましょう。「Bean to Bar(ビーン トゥ バー)」という言葉は聞かれたことがありますよね?

 

編:猫井先生の連載でばっちり勉強しました(笑)。ひとつのメーカーが、カカオ豆から板チョコまで、一貫して管理して製造することですよね?

 

猫:そのとおりです! チョコレートを製造する人がカカオ豆の生産者と直接取引を行うため、カカオの生産地や種類が明確で、いろいろなカカオ豆が混ざらない「シングルオリジン」商品が製造できる。焙煎などの製造工程を細かに管理できる。副原料から余計なものを排除できる。このようにさまざまなメリットがあり、カカオ豆本来の味わいを活かしたチョコレート作りが可能になります。

 

編:いつ頃から登場した動きなんですか?

 

猫:2008年頃、アメリカで始まったとされていますね。IT系の人や芸術家が大量生産のチョコレートに疑問を持ち、自分たちでカカオ豆を調達して、自宅のガレージで焙煎やコンチング(練り上げ作業)を行い、製造販売したのが発端ですね。

 

2011年サンフランシスコ創業の「ダンデライオンチョコレート」などが成功して話題になり、本場ヨーロッパのショコラティエによる素材回帰の動きとも相俟って、世界的なトレンドになりました。

 

編:日本ではどれくらい広まっているんですか?

 

猫:日本でも2014年くらいから本格的に動きがあり、これから訪問する「ミニマル」は、その先駆け店のひとつです。実は、ミニマルの創業者の山下さんは、元々経営コンサルタントをされていた方です。チョコレート職人の朝日将人さんに勧められて食べたビーントゥバーチョコレートの味に衝撃を受け、その感動が忘れられず、世界中を回って、生産から製菓までを研究され、チョコレートメーカーを起業されました。

 

製造のポリシーも凄くて、例えば、「摩砕(まさい)」と呼ばれる豆を砕く工程では1,000分の1ミリ(1マイクロメートル)の大きさにも注意を払う。大きさがちょっと変わるだけで、食感も、香りも、溶け出すカカオバターの分量も変わり、味わいの出来映えがまったく変わるからです。

 

編:1000分1ミリ! 職人ですね。

 

猫:さぁ、着きましたよ!

【3軒め】1枚のタブレットで様々な味わいを楽しめる「ミニマル」

 

編:いろいろな種類のチョコレートがありますね! どれを選べばいいのやら……初めてなので悩みます。

 

出典:910ta693さん

 

猫:まず、こちらの特徴的なチョコレートとして次の3つがオススメですよ。

 

・NUTTY……ローストナッツのような風味。アーモンドのような香り、大地のような重厚な味わい

・FRUITY……ミックスベリーのような風味。キウィフルーツのような香り、ブルーベリーのような深い甘味

・SAVORY……ドライミントのような清涼感のある風味。樹液のような香り。

 

あとは、高いカカオ濃度で深煎りの香ばしい味わいが特徴の「HIGH CACAO」や、まろやかで滑らかな、チョコレートらしい味わいの「CLASSIC」あたりから試されるのがよいのではないかと思います。

 

FRUITY

 

どれも、原料はカカオ豆以外は砂糖だけで、フレーバーや香料といったものは一切入っておらず、カカオ豆本来の味わいです。特に「FRUITY」などを食べると、カカオが南国のフルーツの一種であることを再認識させてくれますよ。

 

出典:めろすさん

 

編:(試食しながら)わぁ、ホントですね! チョコレートじゃないみたい! しかもチョコレートのデザインも面白いですね。

 

猫:これは、単なるデザインではなくて、味わい方の提案なんですよ!

 

編:どういうことですか?

 

猫:人間の舌って、均一に五味(甘味、塩味、酸味、苦味、旨味)を感じているわけではなくて、甘みは舌の「先」の部分、塩味は「前方の両側」・「中央」、酸味は「後方の両側」苦味・旨味は「一番奥」と、それぞれの部位で認識しているわけです。形と味わいの関係をざっと説明すると……。

 

・長細いもの:奥まで入って砕けて舌全体に広がる=全ての味を強く感じる

・細かいもの:いくつかを舌先、あるいは中央でゆっくりと溶かすようにすれば、甘みや塩気を感じつつ、その反面、苦味や旨味はあまり感じない=軽やかな味わいになる

・筋が入ったもの:凹凸により表面積が広くなるので、カカオの香りをより楽しむことができる

 

出典:コスモス007さん

 

編:同じチョコレートでも、形によって味わいが変化するということですね!

 

猫:そのとおりです。「いろいろな形で食べることによってひとつのタブレットでも、味わいや香りの変化を楽しむことができますよ、試して下さい」と提案しているのです。

 

編:タブレットの溝の入れ方まで考えているとは、すごいですね。

 

猫:さらにですね、せっかくこちらのお店を訪れたのであれば、是非味わって欲しいものがあります!「カカオパルプジュース」です!

 

カカオパルプジュース

 

編:カカオパルプって何ですか?

 

猫:カカオの実を割るとたくさんの種が入っていますが、それを包むような白い果肉の部分があります。これを搾ったものが「カカオパルプジュース」です。

 

編:ライチのような、甘酸っぱい味がしますね。

 

猫:ほかのお店でもたまに見かけますが、こちらのものは新鮮で味わいが濃いので、是非、体験してみてほしいですね。

 

編:代々木八幡に来るとチョコレートの奥深さについて知れるとは思いませんでした!

 

猫:それが、チョコレートだけではないんですよ。

 

編:! ほかにもあるんですか?

 

猫:実は、ベーグルや、モンブランに特化したお店もあるんです。ですが、今回はチョコレートでお腹いっぱいになってしまったので、後編でご紹介しましょう!

 

〜ベーグル&モンブランの注目店を紹介する後編へ続く〜

写真・文:猫井登