【噂の新店】Cambiare

タリオリーニは自家製で提供

父の寿司店の思いを夫婦でつなぐ、大井町の新店

近年、新たな商業施設が開業するなど、盛り上がりを見せている大井町エリア。その大井町駅から徒歩3分という落ち着いた街並みの一角に、モダンイタリアン「Cambiare(カンビアーレ)」が2026年7月1日に開業した。店を切り盛りするのは、料理人の馬内亜夢さんと春稀さん夫妻だ。

料理人の馬内亜夢さん(右)と春稀さん(左)夫妻

夫の亜夢さんは専門学校を卒業後、銀座の有名イタリアン「アロマフレスカ(現:Shin Harada)」に入った。当初はサービスマンとして3年間働き、その後厨房に入り、計12年にわたって研鑽を積んだ。途中、京都の「シンクロニア ディ シンジハラダ」でオープニングシェフを約3年務め、東京に戻ってからは「サーラ アマービレ」の料理長と「アロマフレスカ(現:Shin Harada)」の副料理長を兼任した。

亜夢さんが主に料理を担い、春稀さんはフォカッチャやデザート、サービスを担当している

一方の妻・春稀さんは「ロイヤルパークホテル」で2年間の調理経験後、京都の「シンクロニア ディ シンジハラダ」でも2年経験。その後、在ハンガリー日本国大使館の公邸料理人を約2年経験している。

木や石といった自然素材の温かみを感じられる落ち着いた店内

輝かしい経歴を持つ2人による独立店だが、オープンまでには試練があった。もともとは春稀さんの父が大井町で24年間営んできた寿司店「田」を改装し、イタリアンとして引き継ぐ計画だったのだ。しかし、テナントのオーナーが代わったことで家賃が大幅に引き上げられ、改装も不可となり、ついには契約更新を拒絶されてしまった。長年親しまれた場所からの退去を余儀なくされ、計画は一度白紙に戻る。それでも、店を待ってくれる常連客や地域の人々の声が夫妻を後押し、クラウドファンディングを経て新たな物件で再出発を果たしたのだ。

カウンター6席に加え、4人掛けのテーブル席も2卓あり、さまざまなシーンに寄り添う

店名のCambiareは、イタリア語で「変える・変わる」という意味を持つ。もともとは寿司店からイタリアンへと店の形を変えることにちなんだ名前だったが、今は「お客様の声を聞きながら、よりよく変化し、進化していく」という意味を強めている。

寿司店時代の縁を結ぶ鮮魚のカルパッチョや、トリッパのジェノベーゼ

「カツオのカルパッチョ 発酵オレンジ トマトジュレ」2人前2,600円(写真は1人前)

旬の魚と季節の柑橘に合わせて内容を変える鮮魚のカルパッチョは、寿司店時代から続く縁を生かした一皿だ。豊洲の仲卸から仕入れたカツオは皮目を炙ってたたきにし、魚醤と太白ごま油でマリネして下味をつける。そこへ赤いトマトから白いエキス分だけを抽出してジュレに仕立て、そこへ塩と柑橘のみで1〜2週間じっくりと発酵させた自家製の発酵柑橘を混ぜ込む。取材時の柑橘はオレンジだったが、季節によってレモンやカボスなどに変わるという。仕上げにミョウガ、ブロッコリースプラウト、セルフィーユ、花穂紫蘇、レモンの皮を散らせば完成だ。カツオのうまみに、発酵オレンジの香りとほのかな苦みが心地よく重なる。

「トリッパのジェノベーゼと蓮根のフリット」2人前2,600円(写真は1人前)

亜夢さんは、イタリア料理の技術を自由な発想で組み合わせることにも長けている。例えばトマト煮込みが定番のトリッパは、パスタで知られるジェノベーゼソースで和え、秋冬にかけて旬を迎える蓮根のフリットと合わせて温菜に。分厚く切られた蓮根のシャキシャキとした歯ごたえと、やわらかくトロッとしたトリッパの食感の違いを楽しめる一皿だ。まろやかでやさしいジェノベーゼの味わいに、パルミジャーノ・レッジャーノのコクと、セルフィーユやディルの香りが加わる。

磯の香りをまとった、生ウニたっぷりの手打ちパスタ

「生ウニと青さのりのタリオリーニ」2人前4,500円

パスタにも日本の風が吹いている。自家製の手打ちタリオリーニを茹で、フライパンでオリーブオイル、にんにく、唐辛子、あさり出汁を使ったオイルベースのソースと合わせ、あおさのりをたっぷりと混ぜ込む。そこへ寿司店時代から付き合いのある仲卸から仕入れる北海道産の生ウニをたっぷりのせ、芽ネギと花穂紫蘇をトッピングするという和の趣が漂う一皿だ。

卵黄をたっぷりと使い、カプートの中力粉とカメリヤの強力粉をブレンドしたタリオリーニは、歯切れがよく、オイルベースのソースとよく絡む

小麦のうまみと卵黄のコクを感じるタリオリーニに、ミネラル感のあるうまみと共に舌の上で溶けていく生ウニ。そんなウニのインパクトに負けず、あおさのりの磯の味わいが広がり、花穂紫蘇、芽ネギの清涼感あふれる香りがしっかりと口の中で開く。イタリア料理の技法を土台に、日本の食材や薬味を品よく組み合わせた名刺代わりのパスタだ。

金山寺味噌×自家製マスタードが利いた、ラム肉の炭火焼き

ローズマリーと絡ませながら、備長炭で香ばしく焼き上げるラムラック

「アロマフレスカ」スピリッツを感じるのが、メインを張る炭火焼きの肉料理だ。仔羊は塩と胡椒で下味をつけた背中のあばら肉を、30〜40分ほどかけてじっくりローストし、最後に備長炭で焼き上げる。ローズマリーとともに炭火にかけることで風雅な香りをまとわせ、ラム肉の脂のおいしさを最大限に引き出している。 

「オーストラリア産 仔羊 ラムラック 金山寺マスタード」2人前3,900円。毎日焼き上げる自家製フォカッチャとともにぜひ

ラム肉に合わせるのは、金山寺味噌と自家製粒マスタードを組み合わせた特製ソースだ。マスタードシードをシェリービネガー、はちみつ、塩で1〜2週間漬け込んで発酵させ、金山寺味噌と合わせている。やわらかくロゼ色に火入れされたラム肉を、味噌の甘みと塩味のコク、マスタードの酸味が優しく引きたて、飲み込むのが惜しくなるほどのうまみを残す。

ソムリエ夫妻が合わせる、料理に寄り添うワインセレクション

実は夫妻ともに、J.S.A.(日本ソムリエ協会)認定のソムリエの資格を持ち、料理に合わせたワインのペアリングもお手のものだ。例えば鮮魚のカルパッチョには、イタリアの白ブドウ「ピノグリージョ」を100%使った辛口白ワイン「Santa Sofia Pinot Grigio Garda」を。酸味と果実味のバランスがよく、後味の柑橘のニュアンスが発酵オレンジと響き合い、カツオをより軽やかに引き立てる。リストにはイタリア産をメインに、ボトルワインは50〜60種類ほど並び、品種や味わいについてわかりやすく解説してあるため、選ぶ楽しさもある。

グラスワイン1,000円~はスパークリング、白、赤を合わせて10種類ほど。おまかせワイン3種4,000円、5種6,000円もある

朗らかな夫妻が紡ぐ料理とワインのペアリングに、ついつい顔がほころぶアットホームなサービス。日本食材の魅力を再発見させてくれる喜びもある。その日に届いた食材がどんな一皿に変わるのか、これからの進化がますます楽しみなイタリアンだ。

※価格は税込

文:中森りほ
撮影:佐藤潮