乳化の技が光るシグネチャー「スパゲッティ・アラビアータ」

熱を加える料理には「バルベラ フラントイア・エキストラ・ヴァージン・オリーブオイル」を使う

シェフが「初めてのお客様にぜひ食べていただきたい」と語るのが「スパゲッティ アラビアータ」だ。パスタには表面にざらつきがあり、ソースの絡みが良いブロンズダイス製法の乾麺「マンチーニ」の1.8mmを使用。ソースは、ホールトマト缶をじっくりと煮込んで水分を詰め、あらかじめ丁寧に火を入れて甘みを引き出したニンニクや玉ねぎとともにミキサーにかけてペーストにしたシンプルなものだ。

硬めに茹でたパスタをフライパンに投入する前、フライパンで刻んだニンニクに優しく火を入れ、香りをオイルに移す。そこへソースとパスタ、そして茹で汁を加える。小倉シェフは、パスタから溶け出すでんぷん質をソースに溶かし込み、良い乳化状態を作り出すために、あえてフライパンの上で通常よりも長めに火を入れながら和え合わせる。

「うまみがありつつも軽い」という絶妙なバランスを実現した「スパゲッティ アラビアータ」2人分2,500円 ※写真はコース1人分

できあがったアラビアータは、とろみがあり濃厚そうな見た目とは裏腹に、トマトのみずみずしいフレッシュ感が前面に出ており、重さを感じさせない。「乳化をしっかりと行うことで、オイルっぽさが消え、ソースと麺が一体化して軽くなる」というシェフの言葉通り、イタリアンパセリの爽やかな風味、ほのかに感じる唐辛子の辛さも手伝って、フォークが進む。金沢の作家が手がけた美しい真鍮のフォークでいただく時間も、格別だ。

まるで “サラダ” のような軽快さのリゾット

アラカルトでも人気だというのが、リゾットだ。イタリアでは、リゾットは主食というよりも「温かいお米のサラダ」のような感覚で捉えられているそうで、同店でもお米と野菜を同量近く合わせて、軽やかに仕上げている。

スナップエンドウとソラマメは、フライパンで米と合わせて生から火入れする

使用するお米は、イタリア産カルナローリ米の中でも最高峰のブランドである「アクエレッロ」。このお米を、白ワインを使わず、凝縮されたあさり出汁を使って炊き込む。半炊きしたところで、さやごと輪切りにしたスナップエンドウと、ソラマメを投入し火入れしていく。

ペコリーノ・トスカーノは、日本で知られるペコリーノ・ロマーノよりも塩味が強い

調理中と仕上げに削りかけるのは、羊のミルクから作られるトスカーナ産のチーズ「ペコリーノ・トスカーノ」。最後にオリーブオイルの「バルベーラ」を回しかけたらできあがりだ。

大ぶりなソラマメとスナップエンドウがたっぷりの「リゾット 春豆 ペコリーノ」2人分2,700円 ※写真はコース1人分

スナップエンドウのシャキシャキとした食感、ソラマメの素朴な甘み、硬すぎずやわらかすぎないお米の歯ごたえ。それらがあさり出汁の深いうまみと絡み合う。チーズのコクがありながらも、野菜のみずみずしさが勝るため、まさにサラダのように滋味を携え胃に収まっていく。

コースのフィナーレを飾るデザートにも「Og」ならではの徹底した引き算の美学が貫かれている。小倉シェフが提案するのは、ビスコッティを一切使わないティラミスだ。

「コースの最後まで『軽やかさ』を持続させたい。そのために、デザートはすべてグルテンフリーで構成しています。ティラミスにつきものの、コーヒーを染み込ませたビスコッティなどの生地は、お腹に重く溜まってしまう。ならば、いっそ生地をなくしてしまえばいいと考えました」

「Og」のデザートはすべてグルテンフリーのイタリアンドルチェだ

器に盛られているのは、マスカルポーネチーズに新鮮な卵、砂糖、ラム酒の「ロンサカパ」を加え、空気を含ませるようにふんわりとホイップしたクリームのみ。その上から、コーヒーとカカオをブレンドした特製パウダーをたっぷりと振りかける。最後に、ほんの少しのオリーブオイルを回しかけるのが小倉流だ。

「ティラミス」2人分1,400円 ※写真はコース1人分

スプーンですくい口に含んだ瞬間、濃厚なマスカルポーネのコクとラム酒の官能的な香りが、一瞬で溶けて消えていく。生地がないため、水分を吸って重くなることがなく、口どけのなめらかさは抜群。コーヒーの心地よい苦みとカカオの深みが重なり合い、甘さは控えめだ。

「お酒を飲んだ後の締めにもぴったりですし、何よりワインに合います」とシェフが言う通り、これは大人の夜の締めくくりにふさわしい逸品だ。

ドゥセル・エ・フィスの「ニュイ・サン・ジョルジュ」や、ルイ・ジャドの「シャブリ」といったブルゴーニュワインのほか、「バルバレスコ」などイタリアの名ワインもそろう

料理に寄り添うのが、ソムリエの菅野氏が厳選した約100種類のワインだ。ボトルワインのラインアップの約8割がフランス・ブルゴーニュ産で構成されている。イタリア料理店でありながらブルゴーニュを主軸に据える理由は「シンプルにおいしいから」だという。グラスワインも1杯2,000円から用意されており、カウンターでボトルを見ながら選べるのも魅力だ。

日本の四季を映す食材、本場で培われた確かな技、そして引き算の美学が生む食べ疲れしない味わい。「Og」を包むのはシェフとソムリエの気張らない、等身大の空気感だ。本格イタリアンコースから、深夜にふらりと立ち寄るワインバー利用まで。自由でわがままな、大人の夜を優しく受け止める新たな止まり木として、これから重宝しそうだ。

※価格は税込・サービス料別。

文:中森りほ
撮影:佐藤潮