〈遠くても食べたい味〉

年間の外食は1,500軒以上! 令和のグルメ王、浜崎龍がわざわざ旅をしてでも行く価値があるお店を紹介します。今回は、神奈川・腰越の「aniko enoshima」です。

aniko enoshima

江ノ電がゴトゴトと路面を走る腰越。その通りから一本入った路地に、白い漆喰の壁と木の扉が目を引くお店があります。ここはなんと、イタリア・マルケ州の郷土料理を出す専門店。アドリア海に面したマルケの味をきちんと出すお店なんて、日本に数えるほどしかないんです。その看板を見つけた瞬間、「これは行かねば!」と、僕は迷わず扉を開けました。

イタリアで10年。マルケの2つ星店で、日本人初のメインシェフ

シェフ
シェフ   写真:お店から

シェフの井関誠さんは、ピエモンテ、トスカーナ、そしてマルケと、10年にわたってイタリアで腕を磨いてきた人物です。現地では魚介料理の名手のもとで研鑽を積み、なんとマルケの2つ星店で、日本人として初めてメインシェフを任されたというから圧巻。帰国後に赤坂で開いた一軒は、わずか1年あまりで有名グルメガイド本やゴエミヨに名を連ねました。その赤坂店は今も2代目が味を守り、この腰越は井関さんご自身が海のそばに新たに構えた姉妹店。それぞれが独立して郷土の味を紡いでいるという、この誠実な仕事ぶりに、僕はもう惚れ込んでしまいました。

アスコリのオリーブに始まり、ヴィンチスグラッシで頂点へ

オリーブの肉詰めフリット
オリーブの肉詰めフリット   写真:お店から

選んだのは、前菜からメインまで揃うランチコース「アドリア海の風」。まず登場したのは、緑のオリーブに挽き肉を詰め、衣をつけてカラリと揚げた一皿。アスコリ・ピチェーノに伝わるマルケの定番です。サクッとした衣の奥から、肉のじんわりとした旨みがにじみ出してきて、この一品でもう笑みがこぼれました。続いて、ピスタチオを練り込んだパテ、トマトソースでコトコト煮込んだミートボール、薄く引いた魚のカルパッチョと、表情の違う皿が少しずつ重なっていく。一皿ごとに心が躍りっぱなしです。

ヴィンチスグラッシ
ヴィンチスグラッシ   写真:お店から

そしてパスタの主役が、マルケのラザニア“ヴィンチスグラッシ”。幾重にも重ねた生地にラグーとチーズを挟んで焼き上げた郷土料理で、表面はこんがりと色づき、フォークを入れると美しい層が顔をのぞかせます。重層的な旨みが口の中でほどけていく、まさに幸福な瞬間でした。さらに黒トリュフを削りかけた詰め物のパスタ、ウニをからめたクリームソースのスパゲッティと、攻めの皿が次々と卓に積み重なる。メインは炭火でじっくり火を入れた肉のグリル。香ばしさと力強い旨みに、思わず唸りました。マルケ産を中心に揃うワインと合わせれば、もう言うことなしです。

この内容で5,000円は、はっきり言って破格

店内
店内   写真:お店から

これだけの皿数と技を堪能して、ランチコースが5,000円。正直、破格だと断言できます。アンティーク家具の並ぶ店内には、イタリアの家庭にふらりと招かれたような温かな空気が流れていて、肩肘張らずに郷土の味とじっくり向き合える。この居心地の良さまで含めて、文句なしの一軒です。

必食の一皿
必食の一皿   写真:お店から

訪れるなら、ヴィンチスグラッシだけは絶対に外さないでください。マルケの真髄が、この一皿に凝縮されています。そしてワインは、料理に寄り添うマルケ産をシェフに見繕ってもらうのが一番。アドリア海の食卓が、ぐっと立体的に立ち上がってきますよ。潮風の街で本場の郷土料理にそのまま触れられるなんて、こんな贅沢はなかなかありません。

以上、令和のグルメ王・浜崎龍がお届けしました。次回も僕が惚れ込んだ絶品グルメ情報をお伝えしますので、お楽しみに。「aniko enoshima」をぜひ訪れてみてください!

教えてくれた人

浜崎龍

グルメメディア「TERIYAKI」や国内最大規模のグルメオンラインサロン「TERIYAKI美食倶楽部」の運営を行う、テリヤキ株式会社の代表を務める。大学生時代から幅広く食べ歩きを行い、ラーメンから高級フレンチまで年間1,500軒以上も飲食店を巡り歩く。ジャンル問わず、日頃全国の「おいしい」を求めており、北海道の端から沖縄、はたまた世界中まで飛び回る。レストランとのイベント企画も手がけ、飲食に対する新たな可能性を日夜見いだす。メディア掲載、マガジンハウス「Hanako」など。

文:浜崎龍、食べログマガジン編集部