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〈遠くても食べたい味〉
年間の外食は1,500軒以上! 令和のグルメ王、浜崎龍がわざわざ旅をしてでも行く価値があるお店を紹介します。今回は、滋賀県にある「近江牛焼肉 ホルモン 碩 SEKI」です。
近江牛焼肉 ホルモン 碩 SEKI
9,000円台でここまで。近江牛焼肉 ホルモン 碩 SEKIが描く“焼肉の新しい正解”

焼肉好きとして各地を回ってきたが「ここはもう焼肉の完成形では」と思わされた店がある。滋賀・草津にある「近江牛焼肉 ホルモン 碩 SEKI」。近江牛とホルモン、そのどちらも“本質的においしい”と思わせる数少ない一軒だ。
塩・タレ・薬味を織り交ぜて進む、近江牛の饗宴

コースはすべておまかせ。 9,500円〜9,900円という価格で、近江牛を塩味やタレで部位ごとに食べ比べられる。 しかもボリュームがすごい。お腹いっぱいになりながらも飽きがこない。 これほど多彩な近江牛の顔を一度に見せてくれる店は、そう多くない。
この日は最初の方から近江牛のサーロインが登場。塩で香りを感じ、次にタレでコクを重ねる。終盤にはホルモンが続く。脂の甘みが際立つシマチョウ(テッチャン)、うまみが深いハラミやサガリ。 一皿ごとに焼き方や食べ方を店主が丁寧にガイドしてくれるのも印象的だ。包丁の入れ方が緻密で、厚切りでもスッと歯が入る。 この「技」が、焼肉を“料理”として成立させている。
ホルモンは、清潔さと香りの仕事

ホルモンを食べて「臭みがない」と感じる瞬間は、なによりも幸福だ。碩のホルモンは、仕入れ・下処理・保管まで徹底している。香川の内臓卸「壽屋」から届くミノは特に秀逸で、生姜や昆布醤油など、部位に合わせて薬味を当て替える。その一皿ごとの“当て替えの妙”が、食べ疲れを感じさせない秘密だ。
希少部位のヤン(ハチノスとセンマイをつなぐ部位)、こめかみ、タン下(タンカルビ)など、聞くだけで心が躍る部位が次々に登場する。「おかわりください」と言いたくなる味噌ダレも、この店の名物だ。
背徳の一口、“肉×卵×ご飯”

コースの終盤には“背徳のフィナーレ”が待っている。炊きたてのご飯に、焼きたてのシャトーブリアン、そして卵黄。シンプルだが、これ以上に幸福な瞬間があるだろうか。卵を2つ重ねる“ダブル卵黄”で頼む人もいるという。

最後は冷麺か白ご飯+味噌汁で静かに締める。デザートには竜王町「古株牧場」のミルクジェラートとシャインマスカット。香りのよいほうじ茶で口内を整え、余韻がふっと消えていく。
衝撃の価格。都市圏なら倍してもおかしくない密度

正直、この内容で9,000円台というのは破格だと思う。都市部なら3万円を超えても違和感のないクオリティ。しかも「腹パン」になるほどのボリュームがある。派手な演出ではなく、肉のポテンシャルと丁寧な仕事で満足させてくれる。これぞ、焼肉のアップデート版だ。
この店を特別にしているのは、店主の肉への愛情だ。質問すればどんな細かいことでも説明してくれるし、「ここはよく焼きで」「これは軽く炙って」など、 食べ方の一言でおいしさが何倍にも変わる。知識と実践が融合した焼肉。まさに“職人が教えてくれるおいしい順路”だ。
初訪問の心得
1. 前半の塩焼きで香りをしっかり感じること。
2. 味噌ダレのホルモン(特にシマチョウ)は必食。
3. 最後の「肉×卵×ご飯」に胃の余裕を残しておくこと。
この3つを守れば、碩の真価を体験できる。
店主が目指す“祖母への恩返し”

店主は「祖母から教わった“自分ができる一番いいもの”をここで出したい」と語る。その思いが皿の端々に宿っている。奇をてらわず、流行に寄らず、ただ誠実においしい肉を出す。そんな店が、いまの時代にどれだけ貴重か。この先、確実に人気店になると断言できる。
教えてくれた人

浜崎龍
グルメメディア「TERIYAKI」や国内最大規模のグルメオンラインサロン「TERIYAKI美食倶楽部」の運営を行う、テリヤキ株式会社の代表を務める。大学生時代から幅広く食べ歩きを行い、ラーメンから高級フレンチまで年間1,500軒以上も飲食店を巡り歩く。ジャンル問わず、日頃全国の「おいしい」を求めており、北海道の端から沖縄、はたまた世界中まで飛び回る。レストランとのイベント企画も手がけ、飲食に対する新たな可能性を日夜見いだす。メディア掲載、マガジンハウス「Hanako」など。


