おしゃれフードトレンドを追え! Vol.23

地域密着型のレトロ居酒屋にオシャレ男女が集うのはなぜか?

「今度みんなで飲み行こうよ〜」。ファッション業界人は、仲間と集うのがとにかく大好きだ。会社の同僚、同年代の別のアパレル企業の友人、スタイリスト仲間やプレス。会社の垣根を越えて同業界の気の合う仲間たちが「〇〇会」と名付け、事あるごとに飲み会を開く。特に横のつながりを大切にするこの業界、コネクション作りへの意欲が旺盛な20代若手チームは夜な夜な集っているようだ。

 

昔からアパレル系の若者たちが集う飲み屋は何軒かに人気が集中する。それらはチェーン店ではなく、地域密着型の昭和な大衆居酒屋ばかりだ。海鮮料理に強いレトロな店ばかりが重宝されている。

お洒落業界の若者が大衆居酒屋を愛する理由

いろは寿司 中目黒本店(出典:B 級B-BOYさん

 

私が20代の頃は、仕事終わりにワイワイ集うのは中目黒の「いろは寿司」や「藤八」、青山なら「うどんすき中西」(現在は移転し「居酒屋 中西」に)と決まっていた。なぜかは分からないが、ファッション業界で働く人なら誰もが知っている店がその3軒。(他にお店はあるが)「いろはで8時ね!」と言って「いろはって何?」なんて聞いてきたら、あれ?なんでこの子知らないの?と不思議がられるほどお約束の店だった。いろは寿司の2階は広い座敷になっているのだが、そこで数々のスタイリストや編集者の誕生会を行なったことを覚えている。長〜いテーブルの上にネタの大きい握りが次々と大量に運ばれて、北海生タコの吸盤焼き、かに肉と味噌がたっぷり入ったかに味噌サラダ、ホヤ塩辛、若鶏唐揚げなど一品料理もお酒がどんどん進む美味しさ。思いきり食べて飲んでも4,000円代に収まる、お金のない20代にはうれしい店で、今でも相変わらず人気のようだ。

大衆割烹 藤八(出典:B 級B-BOYさん

大衆割烹 藤八の名物はんぺん焼き(出典:y-Haryさん

 

そして中目黒で忘年会といったら「藤八」の小上がりだった。古びたビル、暖簾には大衆割烹の文字、店内には短冊に書かれた筆文字メニューが壁びっしりと貼られている。名物のはんぺん焼き、とり皮ポン酢や腸詰、生わさびのりなど350円〜420円という安さ。とにかく、渋い! 昔ながらの居酒屋は痺れる。現在は建物老朽化につき建て直し中、移転営業中だがそちらも元々の雰囲気を再現していてこれまたいい感じだ。

 

なぜオシャレ人たちがこんなに大衆居酒屋を熱愛するのか。若い子はお金がないから安く飲みたいし、ちょっと年上の人が若い子を呼ぶにもコスパがいい店だと呼びやすい。しかしよくあるチェーン展開の居酒屋はワンパターンでどこにでもある感じが退屈。それなら地域密着型の生粋ののん兵衛たちに愛されている大衆居酒屋の方が逆にオシャレではないか?と思っているわけ。さらに、昔からアパレル業界人に慣れている店主の店だと、こちらも気が楽だ。知り合いの社長さんのボトル酒を飲んだり、仕事終わり次第合流というバラバラ集合するスタイルにも柔軟に対応してくれたりとうれしいことが多い。

オシャレ20代がいま注目の三軒茶屋・下北沢・渋谷

いざかや ほしぐみ(出典:おそ松ボーイさん

いざかや ほしぐみ「名物塩煮込み、胡椒トースト」(出典:あちおさん

 

最近の20代に人気のエリアは三軒茶屋や下北沢らしい。なかでも三茶の「いざかや ほしぐみ」はファンが多く、連日混雑しているようだ。三茶の三角地帯にある店は和洋折衷の内装が独特。牛もつの塩煮込みが名物で、柚子胡椒トーストをつけながら食べるおもしろいながらもハマるメニュー。野菜がたっぷり入ったペヤングも締めにいい。1階は立ち飲み&テーブル、そしてここも2階は座敷があるのでワイワイ飲むのに最適だ。

千両のだし巻き卵(出典:初代タタカエラーメンマンさん

 

渋谷「千両」も間違いのない安定の王道居酒屋。昭和にタイムスリップしたかのような雰囲気の中でモツ煮込み、メンチカツ、だし巻き卵、最後にチャーハンという庶民の味を楽しむのもいい。

 

「ファッション系の若者たちって、おしゃれな店で飲み会やってるんでしょうね〜」と若い頃は異業種の方々からよく聞かれた。けれど……おしゃれな店って何?逆にどこ?と教えてほしいほど“ザ・おしゃれ”な飲み屋を知らないし、それより本気で大衆居酒屋が好きなのだ。

 

オシャレな子たちがお洒落じゃない渋い店でレモンサワー飲んで煮込みを食べている。この感じ、昔からずっと続いているアパレル系の若者たちの飲み会スタイルだ。もう若くない私も、久しぶりに大衆居酒屋に行ってみようと思う。