【映画のあの味が食べたい!】

意図せずに、映画はいろいろなことを教えてくれる。恋愛物語を見てたはずなのにモーニングコーヒーの入れ方についてウンチクを覚えたり、カクテルシュリンプの間違ってるけどイカした食べ方をまねしたり。

 

とある場面のそれがどんな味でそのときどんな存在であるのか。映画のストーリーから思い起こされる食の遍歴(ログ)。それもまた美味しい。

『ドゥ・ザ・ライト・シング』のサルズ・スライスピザ

© 1989 Universal Studios. All Rights Reserved.

荒々しく、バギン・アウトみたいにかじり付くのに憧れてた

1989年の公開と同時に世界中で話題になった今作品。人種差別などの社会問題を扱っただけでなく、ヒップホップグループのパブリック・エナミーの過激な楽曲にエアジョーダンなどの当時の最新キックスをはじめとするストリートファッションや風俗が描かれていたのも若者に多大な影響を与えたといえる。

 

同時にストリートをテーマにした写真集で目にするもの、たとえば街の消火栓をひねって水浴びをするノスタルジアな光景や下世話なことばかり口にして何もしない黒人の初老のオヤジたちがたむろしているシーンなど、普遍的なブルックリンの横顔もよく描写されている。加えて、ラジオのディスクジョッキーを演じたサミュエル・L・ジャクソンやピザ屋のオーナーのサルの息子役のジョン・タトゥーロなど、その後一世を風靡する名優陣が脇を固めているのも見どころのひとつ。

 

カウンターにひと切れ分のキッチンペーパーを敷いて、片肘を突いて待つ。そうすれば、サルがピザピールを上手にさばいて、焼き上がったばかりのピザをひと切れ、その上に置いてくれる。

 

「これはなんだ?」「ミートボールヒーローとナスとパルメザンチーズのサルズ・ピザだ」「じゃあいくらだ?」「1ドル50セントだ、知ってるだろ」「いや、チーズが足りないぞ」「チーズをオプションにするなら2ドルだ」

 

活動家気取りの常連客バギン・アウトと店のオーナーのサルとのカウンター越しのやりとりは、1日に3度、繰り返される。バギン・アウトは文句を付けながら、それでも決まってサルズ・スライスピザを食べていく。スパイク・リー演じるバイトのムーキーや従業員でサルの息子たちにとったら、いつもと変わらない光景。そして、常連客にとってはいつもと変わらない安定の味と少しケチられたチーズの量だった。

 

しかし、その日は違った。ぶつぶつ文句を言いながらも、バギン・アウトが大好物のピザにかじり付こうとしたとき、通い慣れたはずの店内の壁に掛けられている写真が、すべてイタリア系白人のレジェンドばかりだったと気付く。フランク・シナトラ、ロバート・デニーロ、アル・パチーノ。

 

なんてこった。ここはブルックリンだぜ。なぜ黒人のスターの写真も飾らない? マイケル・ジョーダン、マジック・ジョンソン、白人のおまえらが好きなプレーヤーはみんな黒人じゃないか。ここは俺の店だと、サルは取り合わない。確かに、この街で黒人の写真を飾らないのは気に入らないが、それでもサルのピザはとても美味しいし、みんなこれを食べて育ってきたといってもいいのだが……。

 

ここから一気に人種間の対立へとストーリーは加速していく。この映画はやはりポリティカルな作品なのだ。それでもピザに非はない。バギン・アウトよ、せめてチーズがとろけているうちに食べ切ってくれないか。この重要な場面で、私はそんなふうに思ってしまう。

© 1989 Universal Studios. All Rights Reserved.

ピザ≠シェア。ひと切れくらいがちょうどいい

この映画の公開当時、日本でピザといったらホールでしか買うことができなかった。レストランで注文できるのもホールだけだった。必然、ピザはシェアして食べるもの、パーティー的な食べ物、といった刷り込みがされてきた。

 

本当はひと切れでいい、そう、まさにサルの店が提供してくれるような具を少しケチったスライスピザが良かった。ポケットから小銭(バギン・アウトはくしゃくしゃのドル札だった)を出して、キッチンペーパーにスライスピザを置いてもらう。カウンターにある瓶のチーズを振り掛けて、熱々のうちにサクッと頬張ってしまう。そんな感じ。

 

現在、日本でもピザというものがパーティーテーブルではなくカウンターメニューの物になり、ひとりでも食べやすくなった。例えば、東京・代官山の「PIZZA SLICE」なんかもそんな風合いを感じさせてくれるお店だ。

 

ムーキーのようにブルックリン・ドジャースの42番のジャージーを着てもいい。好きなスポーツ選手が、黒人のヒーローだろうが白人のスターだろうがどっちだっていいから、シンプルでうまいピザを熱々で食べたい。それはひと切れくらいで丁度いい。本当はスライスピザを食べてる分くらいの会話なら、込み入った内容にはなったりしないんじゃないだろうか。

出典:ほーちゃん♪さん

 

© 1989 Universal Studios. All Rights Reserved.

■作品紹介

地元NYCのニックス・ヒステリアのスパイク・リーが監督・製作・脚本・主演を務めた、人種差別や街の変化と対立を描いた問題作。20年もの間、街の人々に愛着を抱きながら暮らしてきたピザ屋のサルと、居住区の若者たちとの間に生じたあつれき。そんなちょっとしたいざこざが取り返しのつかない暴動へと発展していく。

『ドゥ・ザ・ライト・シング』DVD発売中:1,429円+税

発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント