〈短期集中連載:今、中国料理が面白い vol.3意外な場所の名店 編〉

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新チャイナタウンの注目株はどこだ?

1カ月ほど前、中国料理好きの食いしん坊のあいだで「在日中国人が通う中華料理店に『有名店』がほぼない理由」という記事(https://diamond.jp/articles/-/174442)が話題になりました。

簡単にいうと、在日中国人が美味しいという店は日本人の食通といわれる人々のあいだでは名前も聞かない店が多いが、それは日本人と中国人ではコミュニティが違うため。流通する情報も異なることが理由だろうというような内容でした。

「そんなこと、いまさら言っているのか」という中国料理通もいるでしょうが、普通の食いしん坊にとってみれば「なるほど」と頷ける話です。イタリア料理やフランス料理でウェブ情報に出ない「隠れた名店」はほとんどありませんが、中国料理においてはまだまだ存在するからです。

 

ウィーチャットに代表される中国のコミュニティ、SNSに普通の食いしん坊がアクセスすることが難しいのも理由のひとつでしょう。国土が広く、料理のジャンルが膨大なため、料理の系統を整理するのが大変で、日本のメディアがきちんと中国料理の本質を伝えてこなかったのも理由のひとつでしょうし、それもあって日本人客は麻婆豆腐や海老チリなどの無難な料理しか頼まないから、シェフもやる気をなくし、面白い料理に封印をしてしまうことによって料理の腕が外からはわかりづらいことも理由でしょう。

 

この十年で日本に住む中国人の数は増加し、2017年現在では100万人近いそうです(*参考資料)。当然、さまざまな地方の人々が日本に来ており、そのなかには料理人をやっている人も多いでしょう。でも、最初から銀座や青山で料理店をやれる人は少ない。賃貸料がべらぼうに高いからです。

新小岩は新チャイナタウン!?

出典:やっぱりモツが好きさん 

そんな人々が最近、西川口や新小岩周辺に集まって新しい中国街を形成しています。西川口の中国料店については先行するレビューがかなり出ていますから、それを参考にされるといいと思いますが、新小岩はまださほど知られていないようです。

たとえば新小岩駅から数分のところにある「屋台メシ 鶏公煲」。ジーゴンバァウと発音する、上海や香港で流行っている鍋料理の専門店です。


辛さや具材の違う数種類の鍋がありますが、最初は店の名前にもなっている「鶏公煲」をチョイスするのがいいでしょう。

 

まずは野菜と肉をタレで煮込んで炒め煮のような状態でいただきます。ある程度まで食べ進んだら鶏スープを足して今度は火鍋に。最後はインスタントラーメンで〆るという中国庶民の味の典型のような料理です。
具材も追加できますし、味も調節できるので、周囲はグループ客で盛大に盛り上がっています。テーブルに埋め込まれた鉄鍋で煮込む中国東北地方の郷土料理が自慢の御徒町「味坊鉄鍋荘」をちょっと彷彿させるような鍋料理でした。

 

こちらは中国人の奥様と日本人のシェフでやっている店ですが、客のほとんどは中国人。テーブルに着いたときはアウェイの感覚ですが、料理を楽しんでいるうちに、東京にいながら上海にワープした気分になります。

下町にある隠れた名店

写真:お店から

こうした「新・チャイナタウン」とまではいかない、いわゆる「下町」にも知られていない中国料理店が潜んでいます。賃貸料が安く、小さな資金からはじめられ、周囲に同郷人が多く住んでいるため、情報が飛び交うと繁盛店になる可能性が高いからです。

浅草橋にある「蘭氏食苑 浅草橋本店」は駅から数分のところにありますが、外観は普通のチェーン店のようで、簡素な感じです。よほど情報を仕入れていないと入る気になりません。


まずはランチで試そうと昼の時間に行きましたが、メニューを見ても「カニ玉」「鶏肉とカシューナッツ炒め」などどこにである料理名が並びます。ところが店に貼られた写真入りメニューをじっくりと眺めると、面白いメニューが潜んでいるのです。

そのひとつに「葱油拌麪」を発見。ネギ油で麺を和えた変哲もない料理なのですが、なかなか日本の料理店では目にしません。ここでは付けあわせを選ぶスタイルになっていたので高菜の炒め物を追加し、麺に混ぜて楽しんだところ、これが大正解でした。
聞けば主人は上海出身で高級ホテルで鍋を振っていた人物だとか。夜に上海料理だけで宴会をするのがきっとここの正しい使い方なんでしょう。

こんなところにこんな店が!

出典:やっぱりモツが好きさん

最寄り駅は都電荒川線の「荒川二丁目」という、繁華街とは遠く、住宅街の真ん中にあるのが「中国茶寮 一華」です。地図を見てもいったいどこなのか最初はわかりませんでしたが、拡大してみたら日比谷線の南千住駅や千代田線の町屋駅から十分強ほど。実は都心から便がいいのです。


日本人の主人は関西出身で、このあたりの土地勘はまったくなく、雰囲気と予算感で決めたとか。ひとりで料理から接客まで行っているので基本はコース。
ただ、「4,000円でこんなに出て大丈夫?」と心配してしまうほどの内容でした。修業先は広東料理だったので、魚介類が中心。前菜のツブ貝から始まり、メインのハタの蒸し物まで、これが銀座だったらいくらだろうと考えてしまいます。

主人は築地と千住の魚河岸に毎日買いに行くといいますから、今後は事前に食べたいものをリクエストするのもいいし、アラカルトから選んでも楽しそう。この日も黒板には、のどぐろやスズキ、ホタルイカなど魅力的な食材が並んでいました。
ただ、店主ひとりの店なので時間を気にする方はご注意を。でも、そのあいだはセルフサービスで甕出し紹興酒を飲んでればいいだけの話だから、飲ん兵衛にはパラダイスのような店ともいえます。


こうした隠れた中国料理の名店を探すのは、中国料理好きな食べログのレビューやブログを日頃からチェックするのが一番だと思っています(宣伝ではありませんよ)。

マイナーな国の料理の場合は特にそうで、その世界の専門家の文章をじっくり読んで、自分の嗜好にあったレビュアーを探すのが近道。
最近の中国料理の展開にはとても注目しているものの、まだまだ素人の私にとって、こうした人たちの文章にはとても示唆を受けます。具体名は挙げませんが、とても感謝しております。