【噂の新店】「Firmamento」

人形町のまだ新しいビルの3階にオープンした「Firmamento」。今、話題のお店が続々オープンする期待のグルメタウンに骨太の新店が登場です。

伝統と現代の食文化が融合する人形町に溶け込む新感覚イタリアン

エントランスに掲げたのは日本の暖簾

老舗と新店が共存し、東京屈指の食エリアとして賑わいをみせる人形町にイタリア料理店がそっと扉を開けました。店名の「Firmamento」はラテン語で支えるという意味の「Firmamentum」に由来し、食材、空間、人、文化が共鳴しあうことで一皿が完成する、そんな世界観を持つ店です。

大佐古優也さん

その思いを皿の上に描くのはオーナーシェフの大佐古優也さん。19歳で「日本料理 龍吟」の山本征治氏が出演したテレビ番組を観て「山本さんのような料理人になりたい」と料理人の道へ。専門学校卒業後は「ICARO」の宮本義隆氏のもとで5年、いくつかのイタリア料理店を経て、魚料理や日本食材の扱い方を学ぶために憧れの山本氏の「龍吟」で2年、「Osteria Francescana」のマッシモ・ボットゥーラ氏が監修する「GUCCI Osteria Tokyo」のオープン時にスーシェフとして招聘され、4年勤務したのち独立という経歴の持ち主です。

オープンキッチンのカウンター

席数はたったの8席。和の趣があるウォルナットのカウンター越しに料理が生まれる瞬間を見守るような空気が流れています。こちらで供するのは四季を感じさせる12皿前後のおまかせコース(22,000円)です。本日は象徴的な皿を3品ご紹介します。

イタリア伝統料理を日本料理の心と技で再構築する

長野県天竜川の鮎

イタリア料理を突き詰めていくうちに、どうしても魚料理が弱点だと感じ、魚の扱いは日本料理に勝るものはないと、「龍吟」の門を叩いた大佐古さん。こちらではトップレベルの日本料理店に匹敵する魚料理が供されます。この鮎の料理もその一つ。

串打ちの技術も見事!

まずは美しく形を作り香りとうまみをギュッと閉じ込めるために串打ちして炭火焼きに。次に食感を出すためにフリットにします。

「鮎 ラルド パプリカ」

目の前に置かれた皿の凛とした美しさにうっとり! 「鮎は手で掴んで召し上がってください」と促されるまま頭から頬張ると、信じ難いほどのサクッと軽い食感に目を見張ります。2年間熟成させた十勝産のラルドの脂の甘みと、上に振りかけたハーブと唐辛子パウダーのピリッとした辛さが、鮎の身の淡白な味わいをふくよかに昇華させます。日本料理で学んだ「活き料理」とイタリア料理の融合は想像以上の食感と味のレイヤーを生み出しました。

白トリュフのパスタは秋冬の味覚の代名詞

旬を迎えた白トリュフは手打ちのタヤリンとバターソースで和えるピエモンテの伝統料理で。ペアリングは「黒文字」と「ニオイコブシ」をラズベリーとウーロン茶と合わせて人肌程度に温めたノンアルドリンク。香り高い白トリュフ、油脂分の多いソースに完璧にマッチします。

「スッポン 白トリュフ タヤリン」

伝統的にはバターとパスタの茹で汁に少量のパルミジャーノレジャーノチーズで作りますが、大佐古さんはスッポン出汁を加えます。「パスタに色の濃い卵黄をたくさん使っているのでコクが強い。白トリュフも香り豊かなのでソースにも力強さが必要だと考えて、スッポンのゼラチン質とうまみだ!と閃きました。イタリア料理ではスッポンを使うことはないので、ここでしか食べられない料理を提供したいとの思いもあって」と話します。これはまさに革命的な味わいです。

ジャストサイズの600g程度

「淡路産の鱧は産卵が終わり、ちょうど脂がのってきておいしいです」と大佐古さん。鱧は骨切りし、葛粉をまぶして湯引きするそうですが、それは日本料理で供される椀ものの代表格、「牡丹鱧」の調理法。いったいどうイタリア料理に落とし込むのか想像がつきません。

「鱧 ポルチーニ 白トリュフ」

供されたのは未だかつて見たことのない鱧料理! 椀種は開いた牡丹の花に見立てた鱧、吸い地は鱧の骨で取った出汁を溶かしバターに混ぜて酢橘を搾ったソース、椀妻はポルチーニのバターソテー、吸い口にはダイス状にカットしたトスカーナの白トリュフと、確かに「牡丹鱧」に仕立てています。

シャッシャッと一定のリズムで骨切りします

「鮎も鱧の皿も食材が生きていないと成立しません。鱧は毎朝、店で神経締めして10〜25度の室温で身を“生きた状態”にしておきます。尊敬する『オステリア・フランチェスカーナ』のマッシモ・ボットゥーラシェフが監修されている『グッチ・オステリア』の厨房で、鱧や河豚や鰻が世界でも群を抜いていると仰っていたことがずっと頭に残っていて、北イタリアではヒラメなど淡白な魚で提供する『mugnaia』を日本の魚でやってみようと作ったのがこの皿です。日本の食材の良さをイタリア料理で表現したかった」と話します。

最強メンバーで織りなす至福のディナー

桑原さんは2025年Jet Cup(イタリアワインベストソムリエコンクール)3位を受賞

大佐古さんの料理をより高みへと引き上げるドリンクを提案するのは桑原克也さん。ドリンクが前面に出過ぎないように心がけ、料理がいかに生きるかを考えているそう。実は桑原さんは料理人コンペティション「RED U-35 ブロンズエッグ」に輝いた料理人。大佐古さんの意図がわかるから世界に一つだけのペアリングを創り出せるのです。

鱧に合わせたアルコールとノンアルドリンク

鱧のふわっとした食感に合わせたのは熟成させることで繊細でやわらかな味わいのスパークリングワイン。トリュフの香りにもぴったりです。ノンアルはウバ茶がベース。そこに玉ねぎの皮を煮てうまみを、ドライアップルで甘みを、表面を焼いた柚子で香ばしさを加え鱧に負けないくらいふくよかな味わいを作り出しています。ノンアルに至ってはまさに料理! これは料理人にしか思いつかないペアリングです。

吉祥文様の縁起柄で作る福井県越前市「kicoru」のコースター

料理を生み出すのは閃きから。その後に見えてくる改善点が無くなるまで試作を繰り返すと言う大佐古さん。「来店してくれたことに最大限応えるために唯一無二の料理を作りたい」と話します。大佐古さんが提唱する“イタリアの伝統料理を日本料理の精神と技で革新する料理”と、それに完璧なるマリアージュさせる桑原さんのドリンク、そして人間味あふれるサービスと風情ある空間、ここには忘れ難い食体験が待っています。

食べログマガジンで紹介したお店を動画で配信中!
https://www.instagram.com/tabelog/

※価格は全て税込。
文:高橋綾子 撮影:木村雅章