〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

ナビゲーター

岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

エミリア・ロマーニャ州の料理を現代風にアレンジ

内観

神楽坂にある「IL BOLLITO+(イル ボッリート プラス)」は、10周年の節目である2024年4月にリニューアル。イタリアのエミリア・ロマーニャ州の伝統料理である「茹で肉」をメインに据えたメニューはそのままに、自然派ワインに合うスパイス料理やエミリア・ロマー二ャ風にアレンジしたおでんが加わり、店内もシックな内装に改装した。

左からシェフの野上幸助さん、オーナーの及川博登さん

イル ボッリート プラスのもう一つの楽しみは、生産者を通して自然派ワインを知る工夫があるところ。オーナーの及川博登さんらスタッフは毎年、イタリアを訪れて生産者を訪問し、現地の最新情報や生産者の思いをキャッチアップ。それをお客様に届けている。

現地で撮影された生産者の写真をパネルに

たとえばワインを提供するときは生産者の写真パネルが用意され、それを一緒に見せながらワインを紹介。どんな人がどんな土地でどんな思いでワイン造りをしているかを、写真をまじえて教えてもらえる。それによって、生産者を通して一つ一つのワインを深く知ることができる、没入感のあるワインバーとなっている。

生ハムニョッコフリット✕フレッシュオレンジワイン

生ハムはとろける質感のフランス産を使用

イル ボッリート プラスでまず注文したいのは「生ハム on ニョッコフリット 発酵バター」。ニョッコフリットはエミリア・ロマーニャ州の揚げパンのような伝統料理。生ハムを一緒に食べておつまみにするのが定番となっている。

生ハム on ニョッコフリット 発酵バター(1,250円)

現在はイタリアの生ハムが輸入されていないため、フランスの生ハムが取り寄せられている。「とろけるような味わいがイタリアの生ハムに最も近かったため、こちらを使用しています」と野上さん。サクサクとした大判のニョッコフリットとの相性は抜群で、発酵バターがとろける食感に濃厚さをプラスしていた。

クアルティチェッロ レ・モーレ2022(グラス1,430円、ボトル9,680円)

ニョッコフリットのおつまみにおすすめなのは、エミリア・ロマーニャ州の生産者クアルティチェッロのオレンジワイン。「手軽なおつまみですが、白ワインと合わせるよりも、もう少し複雑味があるほうが合わせやすいので、こちらのオレンジワインを選びました。こちらは生ハムに寄り添ううまみがありながらヴィンテージが2022年と若くフレッシュ感や酸味もしっかりあるので、よく合うと思います」と及川さん。ニョッコフリットのサクサクとした軽快さをバランスよく引き立てた組み合わせだった。

パルミジャーノモンブラン✕濃いめロゼワイン

“パルミジャーノ”の白いモンブラン(1,600円)

イル ボッリート プラスのスペシャリテは、エミリア・ロマーニャ州の名産品であるパルミジャーノ・レッジャーノをアレンジした「白いモンブラン」。元々ハードタイプのチーズであるパルミジャーノ・レッジャーノに生クリームや塩コショウで味を調えてクリーム状にしたもの。チーズで作ったスポンジ生地にバルサミコ酢をかけたものの上に、モンブランのようにパルミジャーノをのせて完成させた甘くない一品となっている。

スキャンデララ メレレ2022(グラス1,320円、ボトル8,690円)

パルミジャーノのモンブランにおすすめなのは”メレレ”という名前のロゼワイン。「メレレというのは“おやつ”という意味です。その名前のとおり、濃いめのロゼワインで軽快に飲めるもの。スイーツのような見た目のパルミジャーノのモンブランに合わせました」と及川さん。華やかなアロマにうまみもしっかりあり、赤ワインほどの重たさはないので、クリーミーなチーズに心地よさを与えてくれるワインだった。

蝦夷鹿のカツレツ✕熟成赤ワイン

蝦夷鹿のカツレツ(3,080円)

メインのおすすめは「蝦夷鹿のカツレツ」。イタリアのカツレツというと、薄いミラノカツレツが思い浮かぶが、現地では家庭料理のイメージが強くレストランではあまり提供されていないという。イル ボッリート プラス流にしたのが、厚切りの蝦夷鹿をレアカツで楽しむもの。夏の時期は万願寺とうがらしのペーストに実山椒が加えられ、スパイシーに香りよく爽やかに食べられるようになっている。

カラッとレアに揚げられている
ラ・ストッパ マッキオーナ2012(グラス1,650円、ボトル11,000円)

蝦夷鹿のカツレツには、ラ・ストッパというエミリア・・ロマーニャ州のワイナリーの赤ワイン。「元々、お父さんの代で国際品種も植えていたんですが、娘さんのエレナさんの代になってから、地元の品種だけにしようと、バルベーラとボナルダという土着品種にこだわって造られたワインです。蝦夷鹿のカツレツには料理として要素が多いので、タンニンもしっかりして熟成感のあるこちらがおすすめです」と及川さん。エレガントさの中に深みのある味わいがレアな蝦夷鹿のカツレツをしっとりとまとめあげていた。

及川さんの「私が恋した自然派ワイン」

ラ・ストッパ イ・パードリ2006(ボトル27,500円)

及川さんが恋したワインは、蝦夷鹿のカツレツに合わせたのと同じラ・ストッパの赤ワイン。

「ラベルのデザインが全く違うように、こちらはエレナさんのお父さんの時代のワインです。エレナさんの代になって土着品種に植え替えられましたが、お父さんの代のメルロやカベルネ・ソーヴィニヨンも実は秀逸。

イ・パードリはメルロで造られたワインですがアルコール度数が15%あります。しかしメルローのしなやかさ、そして2006年ヴィンテージのため、時をかけたことで生まれるやわらかさが感じられます。単品で飲んでもとてもおいしいワインに仕上がっています。もう残り少なくなっているので大切にしたいと思います」

イタリアワインを中心にラインアップ

イル ボッリート プラスのラインアップはイタリアワインが中心。中でもエミリア・ロマーニャ州のワインが5割を占めている。エミリア・ロマーニャ州は美食の街として知られており、ワインもフードフレンドリーでバラエティ豊か。最近は華やかで香り高いタイプのオレンジワインでも人気。そのほか、個性的なアルザスワインやオレンジワインの元祖であるジョージアのクヴェヴリによるワインがラインアップされている。グラス30種類(880〜1,650円)、ボトル120種類(6,050〜33,000円)。

神楽坂の路地裏がワイン生産者を知る近道

外観

イル ボッリート プラスがあるのは神楽坂の路地で隠れ家感はあるものの、飯田橋駅からもアクセスできる好立地にある。店内には、ワイン生産者の温もりが伝わるような演出が光り、親しみのある接客も楽しい。ぜひグレーの扉を開け、その世界を堪能してほしい。

※価格は税込

取材・文:岡本のぞみ(veerb)
撮影:山田大輔