〈食べログ3.5以下のうまい店〉

グルメなあの人にお願いして、本当は教えたくない、とっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。今回は、フードライター外川ゆいさんが、閑静な住宅街に見つけたイタリアンを教えてくれた。

上質かつナチュラルな空間で、居心地よく

田園調布、自由が丘、九品仏の駅からそれぞれ徒歩10分ほどの場所にある

田園調布の閑静な住宅街に店を構えるイタリア料理店「il RISTORANTINO EFFETTO(イル リストランティーノ エフェット)」(2025年7月時点で食べログ3.15)。街並みが美しいので最寄り駅から散歩がてら歩くのも心地よいし、雨の日や暑い日などは、渋谷駅と田園調布駅を結ぶバスの停留所が店の目の前にあるので利用するのもいいだろう。なかなか訪れる機会が少ないエリアかもしれないが、レストランの並びには、料理研究家の有元葉子氏のセレクトショップや、熟成肉の「京中 肉サロン」などもある。

「店名のEFFETTOは、効果、作用、影響の意味。四季折々の食材を味わう日本の食文化を大切にし、生産者、流通業者、料理人、サービススタッフの思いが循環し、互いに影響し合うことが飲食の素晴らしさであるという思いが込められています」と語るのは、シェフの向原季幸氏。銀座の「アロマフレスカ」及び系列店で7年間勤務した後、都内の数店舗でシェフとして腕を振るってきた人物だ。

ゆったりと配されたカウンター席からは厨房を見渡すことができる

扉を開け、優美なグラスが並ぶ棚を横目に進むと、カウンター席がL字形に連なったダイニングが広がる。内装デザインはガラス・木・石の3つの素材を組み合わせ、ナチュラルで優しい雰囲気が漂う。カウンターの奥行きが広いので、シェフとの会話も、共に訪れた人との会話もゆっくりと楽しむことができる。テーブルにさりげなく飾られた花は、近所にある生花店「L’ODEUR FLEURISTE」によるもの。上部に設置されたエムズシステムスピーカーからは、昼はジャズ、夜はクラシックのBGMが流れる。

プライベートな時間を過ごすのに最適な半個室のテーブル席
 

外川さん

自転車圏内にあるこちらの一軒。息子の保育園のお友達のママが見つけて予約してくれたのがはじまりです。贅沢で優雅なランチタイムを過ごすことができました。

日本ならではの食材と調味料を極上のイタリア料理に昇華

ビジュアルと味のギャップに驚かされる「八寸~前菜~」

最初の一皿は、一見日本料理?と思わせるような日本の季節感を大切に盛り付けた前菜。「フルーツトマトとモッツァレラのタルト」「鮪とビーツのタルタル」「あおり烏賊
のカルパッチョ」「えんどう豆のパンナコッタ」「よもぎとフォアグラのクレープ」という一つひとつ緻密に作られた料理を盛り込んでいる。フィンガーフードを多用することで、リラックスして食事をスタートしてほしいという思いもあるそう。まさに日本料理の八寸のビジュアルだが、口へと運べば、どれもしっかりとイタリア料理らしいテイストが広がる。

「よもぎとフォアグラのクレープ」は、オープン当初、最初の一品として提供していたスペシャリテをミニサイズにアレンジしたもの。日本のハーブであるよもぎを練りこんだクレープで、酒粕でマリネしたフォアグラのテリーヌとお米を発酵させたムースを包み込んでいる。

カウンター席に座ったら、ぜひシェフとの会話も楽しんでいただきたい

「私たちが料理に使用する食材は、すべて日本のものにこだわっています。それは、『自分が日本人だから』。このシンプルな理由に、私の料理人としてのすべての根源があります。日本という国に生まれ育ち、日々の暮らしの中で触れてきた味や香り、風景や感覚。そのルーツを大切にし、誇りをもって表現していきたいと考えています」と語る向原氏。八寸をイメージした前菜は、向原氏の料理へのそんな信条を具現化して生まれたメニューだ。

 

外川さん

いずれも小さなポーションながら、口に入れた瞬間その存在感にうっとりとさせられます。お気に入りのよもぎのクレープは、優しいほろ苦さが口いっぱいに広がる感じがたまりません。

仕上げにレモンを削る爽快な「ヤナギタコ/オレキエッテ」

コースでは2種類のパスタ料理を味わうことができる。「ヤナギタコ/オレキエッテ」は、トマトソースで柔らかく火入れした蛸や、アサリの出汁や日本酒で煮込んだ冬瓜をソースに。仕上げにフレッシュ感のある柚子胡椒を加え、爽やかな辛みをプラスしている。「白ワインよりも日本酒の方がしっくりと合います」と向原氏。オレキエッテのパスタには、讃岐うどんに使われている小麦粉「さぬきの夢」を使用することで、うどんのようなモチモチ感を出している。オリーブオイルは、香川県産の「蒼のダイヤ」を愛用している。

「日本の食材は、自分自身にもなじみがあり、表現もしやすい」と向原氏
 

外川さん

しっかりとイタリア料理を味わっている満足感を得られる一皿なのですが、どこかホッと癒やされる優しいテイストなのは、日本酒や柚子胡椒を用いているからかもしれません。暑い日にパワーチャージできるテイストです。

ベシャメルソースを合わせたヤングコーンを添えた「純粋金華豚/花山椒」

金華豚の中でも純血種である希少な純粋金華豚は、その持ち味と引き立て合うように風味のよい花山椒をたっぷりと合わせている。ソースは山椒風味に仕立てたもの。向原氏曰く「コースの前半は1皿の中の構成が多いので、後半の肉料理はメリハリをつけ、お肉そのものを味わっていただきたいという考えでこのようにシンプルに仕上げました」。

上質な肩ロースを使用し、約2時間かけて休ませながら焼き上げている
 

外川さん

一見シンプルな潔いお肉料理ですが、ソースの奥深い味わいに豊かな余韻が続きます。付け合わせにもシェフのセンスが。ワインが進む味わいです。

「日本ワインペアリングコース」(7,500円)からの一例

「il RISTORANTINO EFFETTO」で扱うワインはすべて日本のワイン。「同じ土地から生まれた食材とワインは、自然と調和し、驚くほど美しいペアリングを生み出す」という考えからだ。ワインのラインアップは随時変わるが、一例として選りすぐりの3本がこちら。福岡県にある新道ワインズの「ASAHA RED 2022 Blend 5」、埼玉県にある武蔵ワイナリーの「小川 小公子 2020 特選赤」、山梨県にあるドメーヌヒデの「Shiro Shiro Mizunara 2022」。生産数の少ない希少な銘柄も多い。グラスでもオーダーできるが、多彩な銘柄を味わえるペアリングがおすすめ。

 

外川さん

向原氏がセレクトする日本ワインを合わせることで、料理が一層味わい深くなります。初めて味わうものも多く「日本にこんな素晴らしいものがあるんだ!」と驚かされることもしばしば。エチケットのかわいさも魅力。