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【噂の新店】メログラーノ
広尾で毎日大賑わいの「メログラーノ」が10周年を機に元の店舗から徒歩1分の場所に移転しました。後藤シェフが「ずっとやりたかった」という小皿料理と大皿料理が登場し、席数も増え、おひとり様からグループまで、デイリーもハレの日も、ますます利用しやすくなりました。
移転して変わったこと、変わらないこと

広尾の人気イタリアン「メログラーノ」がオープンから10年を機に移転しました。選んだ場所は前の店から徒歩1分、スープの冷めない距離です。「元の店は残して初夏にもっとカジュアルなつまみとワインの店にリニューアルしようと思っています」と話すのはオーナーシェフの後藤祐司さん。

パスタ料理店を営んでいた父親を持ち、イタリア料理は身近な存在であった後藤さんは16歳でイタリア料理人への扉を開きました。専門学校卒業後、「クローチェ・エ・デリツィア」で修業が始まり、28歳から3年間イタリアの星付きリストランテなどで本場の味と技術を習得、帰国後は「ビッフィテアトロ」で4年半シェフを務め2015年に独立、「メログラーノ」をオープンしました。そして10年が経ち、料理も店もスタッフも自身の立場も変化し、これから成すべき使命を果たすため移転しました。

中へ入った瞬間「わっ、素敵」と思わず口に出たほど広々とした空間は木や石など天然素材をふんだんに使いナチュラルカラーで統一しています。カウンター10席、4名までのテーブル席の他、最大12名まで組み合わせられるテーブル席があります。さらに8席までの個室が新設。一見カジュアルだけどオーセンティックな設えは、後藤さんの料理の方向性を映しているかのよう。

厨房も広くなり、滋賀の「サカエヤ」の肉を扱ってきた後藤さんはなんと厨房に熟成庫も新設! これは肉料理から目が離せなくなりそうです。食材を見せて客と話しながらメニューを決めるスタイルと価格は変わらず、変わったのはアペリティーボで食べたくなるような小皿料理と3〜4人でもシェアできる大皿料理を加えたこと。また個室ができたこともあり、コース料理も会食向けを含め数種類用意、メニューの選択肢が格段に増えました。
ユニークでおいしい小皿料理と、魅惑の大皿料理がデビュー!

新しくメニューに加わったイタリア語で小皿料理を意味する「Piattini」。イタリアではアペリティーボでサラミや生ハムなどを少量で提供するいわゆる“おつまみ”ですが、そこは後藤さん。「パンコントマテ」のカリカリ加減や「ボーンマロウ」のトロトロ加減、「さやあかね」は30分コンフィにしてから米粉とスパイスをまぶすなど、手の込みようがおつまみレベルを超えています。スプマンテやビールを片手に2〜3種類の「Piattini」をつまみながらこれから何を食べるか考えるのが楽しい!

移転して1カ月、一番人気の料理がこちらの「オッソブーコ」です。“これぞイタリア料理”と言わんばかりのボリュームは圧巻です。よく使われるのは仔牛のスネ肉ですが、「こういうシンプルな料理だからおいしい肉を使いたいんです」と後藤さんは近江牛を使います。

1cm単位で最適な大きさを吟味してカットした「サカエヤ」の近江牛スネ肉は味が濃いのかと思いきや意外にも軽くて優しい味わい。「はじめに焼いて脂を落としてから煮込みます。近江牛は肉自体がおいしいのでトロトロになるギリギリのところで火を止めるのがコツ」と、やわらかいけれど歯応えを残した絶妙な食感も後藤さんの技術の高さを物語ります。「この厨房になったからこれだけ大きな肉を煮込めるし、ビステッカも骨付きのままお出しできるようになったんです。イタリア料理ってシンプルで豪快なところが楽しいじゃないですか。それをお客様に味わっていただけなかったのが歯痒かった」と後藤さん。ここではぜひ大皿料理をオーダーしたい!
スペシャリテにパスタ料理、後藤シェフの真骨頂を堪能する!

こちらは在日イタリア料理商工会議所主催のイタリア料理コンクール「グラン・コンコルソ・ディ・クチーナ2012」で優勝した時の料理でスペシャリテでもあります。「温と冷、甘みと塩味、やわらかさとパリパリの食感といった、対極なものを一皿にしています。修業で滞在していたウンブリア州はトリュフが有名ですが、パスタやリゾットに削ったシンプルな料理が多い。もっとトリュフを楽しめないかと考案しました」と後藤さん。

その「タルトタタン」は12年の間で進化しました。下に敷いたフォンドゥータソースにはイタリア産フォンティーナチーズから、クセがなくうまみがぎゅっと詰まったコンテチーズのような風味の北海道足寄「しあわせチーズ工房」の「幸」を使うようになり、パイの中に入れるジャガイモのピューレは「きたあかり」から「さやあかね」に変え、甘みと大地の香りが加わりました。上から下にカットして頬張ると、対照的な味や温度や食感が代わる代わる現れ、口中はうれしい驚きに満ちるのです。「前菜にもドルチェにも召し上がる方がいらっしゃいます」というのも納得です。

「これ、なんだと思います?」と後藤さんが出してくれたのが、生しらすを塩、イタリア唐辛子、ニンニク、パプリカパウダー、ウイキョウに漬けた南イタリア・カラブリアの発酵調味料「サルデッラ」。ほんの少し舐めただけでガツンと唐辛子の辛さがくるけれど、めちゃくちゃおいしい! こちらはパスタに使います。

茹で上げたキタッラはフライパンでマスカルポーネチーズと生クリームを和えてレモンを搾ります。その上に生鰯とサルデッラを混ぜたものをのせ、イタリアンパセリ、黒胡椒、オリーブオイルをかけ、レモンの皮を削って仕上げたのがこのパスタ。「鰯のマリネやレモンクリームパスタなど、南イタリアの“おいしいところ取り”しました」と後藤さん。

イタリア「マンチーニ」のパスタは全粒粉かと間違うほど香りも舌触りも食感も断然違う! クリーム系パスタですがピリ辛のサルデッラが味をグッと引き締めるのでくどさがありません。レモンもたっぷり搾り、むしろ爽やかな食後感です。サルデッラは時間を置いて発酵が進むとまろやかになるので半年後に食べ比べるのも面白いかも!
東京で1番必要とされるイタリア料理店を目指す!

移転した理由を問うと「1つは気持ちの変化です。ずっと自分がおいしいと思うものを提供してきたけれど、今はお客がおいしいと思ってもらえるものを作りたいと思うようになりました。もう1つはオーナーとしてスタッフのモチベーションを考えなければと思ったからです。うちのような小さい店はどうしても僕がメインになりスタッフが活躍できる場が少ない。自分ではなくスタッフと店が成長し、お客様に喜んでもらえることがこれから先、僕がすべきことなんです。そして東京で一番必要とされるイタリア料理店を目指します!」と笑顔で答えてくれました。