〈噂の新店〉
2024年10月、大阪の桜川というマニアックな場所にオープンした「みんなの炒飯パラダイス」。略して“みん炒”。その名の通り炒飯一本勝負の店だが、オムにキムチに塩ダレに……とバリエーションは20種以上! もちろん基本となる炒飯は、店主が人生をかけて辿り着いた究極の一皿!
教えてくれる人

猫田しげる
20年以上、グルメ誌、旅行本、レシピ本などの編集・ライター業に従事。各地を転々とした挙句、現在は関西在住。「FRIDAYデジタル」「あまから手帖」「旅の手帖」(手帖好き?)などで記事執筆。めったに更新しない猫田しげるの食ブログ 「クセの強い店が好きだ!」。
「炒飯は人生だ!」と小学生の頃に悟った店主
うっすら、炒飯ブームが来ていると思いませんか? メディア界隈やSNS界隈でも話題になったり、専門店ができていたり。しかしここ「みんなの炒飯パラダイス」は流行に乗った安直なお店ではありません。

店主の本多芳成さんは、生まれつきの炒飯好き。ってのは言い過ぎで、小学生の頃からの炒飯好き。物心ついてはじめに作った料理が炒飯、将来の夢も「炒飯専門店を開くこと」だったというから炒飯の星のもとに生まれたんでしょうね!(←テキトー)

「炒飯は簡単に見えて奥が深い料理。同じ材料でも作る人や作る状況によって味が全く変わります。同じ味に仕上げるのが難しいからこそ、納得いく一皿ができた時の感動が大きいですね」と魅力を語ります。

本多さんの生まれは大阪の南・堺市。中学時代まで結構ヤンチャしていて、17歳で塗装の仕事に就いたといいます。でも「接客がやりたい」と飲食業に転身し、イタリアンやウェディングの調理場などを経験。
機が熟した頃、仲間と炒飯専門店を立ち上げようと本格的に始動し、関西の炒飯がおいしい人気店を食べ歩いたり、動画で研究したりと試行錯誤を重ねて、ベースとなる炒飯の「かえし」を完成させました。つまりタレですね。

使う醤油は全国から取り寄せた中から厳選し、ちょっと甘めの大分「フンドーキン」の減塩醤油、牡蠣醤油など4種をブレンド。そこにニンニクなど秘密の調味料を加えます。水は使わず低温で沸騰しない程度にふつふつさせながらかき混ぜて煮詰めるのがポイント。この「かえし」がお店の味の基本となり、みん炒の炒飯を支えているのです。

タレもそうですが炒飯の主役となるご飯は肝心要ですよね。米は、炒めた時の火の入り方も計算し「軟らかすぎず硬すぎず」を目指して、選び抜いた炊飯器で炊き上げます。

さぞ大きな炊飯器で大量に炊くのだろうと思いきや、2升炊き2台で1.5升ずつ炊くとのこと。ここに本多哲学があります。「炒飯は1度に2人前以上作ったらアカン」。たくさんの米を炒めると火の入り方にムラができるし、タレの絡みも悪くなります。効率だけを考えれば一気に作るほうが早いし楽ですが、それだと味のブレの元にもなってしまうのです。

猫田しげる
ご飯は250gとちょっと多め。米が高いのに「お客様の満足を優先」とは泣けます……!
炒める時は米に空気を含ませつつ程よく抜きつつ。「タレがご飯をしっかりコーティングし、ふんわりなのにパラッパラ」という理想の技を編み出すまでには数えきれない試作を重ねたそうです。
炒飯の見本のような“The.炒飯”

お待たせしました! これが王道の「The.炒飯」。まるで写真素材のような正統たる炒飯のビジュアルですね。写真から香りがしそうなくらい、ラードの香ばしさがぶわ~んと前面に来ます。

メニューは開店以来どんどん増殖し、「The.炒飯」の他に「高菜炒飯」「王道キムチ炒飯」「炙り叉焼コロコロ炒飯」「MCP式スタミナ炒飯」「MCP式海老のガーリック炒飯」など20種ほど。ちなみにMCP=みんなの炒飯パラダイスの頭文字です。

猫田しげる
炒飯に付くスープは、プラス300円で半ラーメンか水餃子に変更可能!


そして具のチャーシューの研究にも抜かりはありません。塊ごと仕入れた豚肉を、タマネギやニンジン、ニンニクなど香味野菜で煮込んで、油抜きをし、醤油・ザラメ・酒・味醂などのタレで1時間煮込んで1日寝かし、その後も2時間低温調理して……と、うわあ面倒くさい(笑)。

部位ごとに切り分け、細かく刻んだ脂身と赤身をバランスよく炒飯の具に、厚切りはトッピング用になど使い分けます。