〈今夜の自腹飯〉

予算内でおいしいものが食べたい!

食材の高騰などで、外食の価格は年々あがっている。一人30,000円以上の寿司やフレンチもどんどん増えているが、毎月行くのは厳しい。デートや仲間の集まりで「おいしいものを食べたいとき」に使える、ハイコスパなお店とは?

教えてくれる人

猫田しげる

20年以上、グルメ誌、旅行本、レシピ本などの編集・ライター業に従事。各地を転々とした挙句、現在は関西在住。「FRIDAYデジタル」「あまから手帖」「旅の手帖」(手帖好き?)などで記事執筆。めったに更新しない猫田しげるの食ブログ 「クセの強い店が好きだ!」。

毎日三味線ライブが開かれる津軽酒場。女将の出身地と元の職業は……?

いまや大阪の道頓堀・難波あたりはインバウンド沸騰エリアで、日本語が聞こえると逆に「ここ日本だったか!」と我に返るほどインターナショナルなタウンになってしまいましたね。そのど真ん中、法善寺横丁からほど近くの雑居ビル3階に「ろくだん」はあります。

ビルの3階にあり、知らないとまず行かない

知らないとなかなか入りづらい。表の道路に「津軽三味線ライブやってます」の看板があるけど、やっぱり入りづらい(笑)。でも信じてエレベーターで上がりましょう。たまに立て看だけを見て突撃してくる一見のツワモノもいるというから、そのハート見習いたいですね。

タイミングにより、扉を開けると「ハア〜ッ」とか「ヨイサー」といった野太い掛け声が聞こえたりしますが、戸を閉めて引き返さないように。入ると店内中が一体となって唄に合わせて揺れています。怯まずに着席しましょう。

三味線ライブは毎日19時から。日替わりでプロの奏者が登場し、この日は産経民謡大賞で内閣総理大臣賞を受賞したこともある大黒恵子さん

店内の壁には青森ねぶたのタペストリー、カウンター奥には「田酒」「豊盃」「じょっぱり」「ばくれん」など東北の地酒。料理も「ねぶた漬け」やら「ニシンの麹漬け」やら「あっぱ焼き」(?)やら……。

津軽らしさ満点

お察しの通り、ここは津軽酒場です。カウンターに立つ割烹着姿の女将は久保久美子さん。「もともと青森出身で大阪でも地元が恋しくてお店を始めたんだろうな」と誰もが思いますよね。ブー!

有名雑誌『あまから手帖』にも名店として掲載されている!

出身地を聞くと「全然青森と関係ないです! 岡山生まれです」。え~。しかも元の職業は保育士。飲食店勤務の経験は、皆無だったそうです。

8年ほど前にたまたま市民コンサートで聴いた津軽三味線に魅せられて、その日のうちに「習おう!」と決心。習っているうちに、知人から「三味線が生で聞ける津軽酒場がある」と教えられ、「ろくだん」に通うようになったそう。やがてマスターが高齢となり引退を考えていると聞き、「店がなくなったら寂しくなるなあ……」と考えていたら、「あんた代わりにやってよ」とまさかの無茶振り!

地酒は青森の高級酒「田酒」、大阪ではなかなか飲めない「豊盃」「ばくれん」など珍しいものも揃い、しかも安い

実は久保さん、酒は一滴も飲めない上に料理は苦手で、何よりその時は保育士の仕事を辞める気はさらさらなかったとのこと。でも「自分がやらなかったらろくだんがなくなっちゃう」と考え、店を継ぐ決意を固めました。「私、何でも、ビビッと来ると突っ走っちゃうんです。直感で生きているっていうか」

 

猫田しげる

ちなみに旦那さんとも出会った瞬間に「この人と結婚する!」とビビッと来たビビビ婚(若い人、分かります?)だそうで。羨ましっすね!

もともと料理上手だったというアキちゃんは、和洋中なんでも作れます

しかし肝心の料理を作る人がいない……と困っていたところ、同僚で管理栄養士だったアキちゃんこと中地章予さんが退職を考えていることを聞きつけ、まんまと居酒屋の道に引っ張り込んだらしいです。これも全て運命の歯車だったのでしょうね。

この店の常連客は、不思議と隣同士がすぐに仲良くなってしまいます。手前の2人は食べログブロンズレビュアーの牛丼仮面さんとyuyuyu0147さん、太鼓を持っているのはダジャレ大好きな稲岡さん

そうして、女将未経験だった久保さんが「ろくだん」を切り盛りすることになり、今に至ります。いつも不思議に思うのは、いつ行っても「良いお客さんしかいない」ということ。週に2〜3日は来るという常連の稲岡さんにそのお友達の郡司さん、一人で通う女将ファン(多い!)、どっかの会社の偉い人……。

演奏ではリクエストに応えてくれたりもします

いまやカウンター奥のキープボトルは100を超えています。この店がきっかけで青森を好きになる人も多いそうで、稲岡さんなんかは「弘前にハマってほぼ毎月行ってます」とのこと。そんな財力があるのも羨ましいですね!

津軽三味線ライブでも自分の師匠やその繋がりでかなりの名人を揃え、女将自身もたまに出演。19時から毎日開催ですが、よくありがちな「話が聞こえなくなる迷惑なライブ」ではなく、どの演者さんもお客さんの雰囲気を見て小噺なんか入れつつ、さりげなく聴かせてしまうからスゴい。