お菓子博士・猫井登のスイーツ白書Vol.3「抹茶のケーキ」

お菓子の歴史研究家・猫井登先生が毎回ひとつのスイーツを取り上げ、その成り立ちについて解説し、「食べログ スイーツ 百名店 EAST 2018」と「食べログ スイーツ 百名店 WEST 2018」からオススメのお店を紹介してくれるという、なんとも美味しいこの企画。連載第3弾となる今回は、海外でも大人気の「抹茶のケーキ」編です!

フランスで活躍するあのパティシエによって抹茶が世界に広まった?

 

編集(以下、編):この時期になると毎年父の日の贈り物で悩むんですよね〜。

 

 

猫井先生(以下、猫):母の日は、お母さんに何をあげたんですか?

 

 

編:母には、ちょっとお高いブランドの口紅とショートケーキを贈りました。父には一応マッサージグッズを贈ろうと思っているのですが、お菓子をどうしようかと思って…。

 

 

猫:お父さんは、何が好きなんですか?

 

 

編:ん〜、蕎麦と日本茶ですかね。でも、今まで日本茶はさんざん贈ったので、ちょっと目先を変えたいなと思って。

 

 

猫:それでは、抹茶など日本茶を使ったケーキはどうですか?

 

 

編:いいですね! そういえば最近、抹茶を使ったお菓子をよく見かける気がします。

 

 

猫:抹茶は、今やフランス菓子の世界でもポピュラーな素材となりましたが、やはり、サダハル・アオキ氏の功績は大きいでしょうね。

 

 

編:なぜ、アオキさんは抹茶をフランス菓子に使おうと思ったのでしょうか?

 

 

猫:アオキさんが渡仏されて、苦労の末ようやくお店を開かれたときに常連のフランス人のお客さんから、「あなたは日本人なのだから日本の素材を使ってみたら?」と言われたのがきっかけだったそうですよ。

 

フランス料理やフランス菓子というのは、あくまでひとつの「技法」であって、特に素材にしばりがあるわけではありませんからね。フランスのシェフは、貪欲に新しい素材や考え方を取り入れていきます。伝統の上に立ちつつも革新を起こしていく。それこそがフランス料理やフランス菓子が、いつまでも世界で注目される存在であり続ける原動力になっていると思いますよ。

世界に抹茶の可能性を広めたレジェンド「パティスリー・サダハル・アオキ・パリ JR名古屋タカシマヤ店」(愛知)

エクレール マッチャ/出典:036くんさん

 

青木氏の出世作ともいうべき「エクレール マッチャ」は、しっかりと焼き上げたシュー生地の中に渋めの抹茶クリームがたっぷり。本場パリのスイーツ好きをうならせ、パリの多くのパティスリーが抹茶を使うきっかけとなった。

 

バンブー/出典:腹ぺこ歯医者さん

マッチャアズキ(写真:上にマカロンののったケーキ)/出典:腹ぺこ歯医者さん

 

「バンブー」は2003年パリ世界陸上の際、日本選手団を応援するために誕生したケーキ。「マッチャアズキ」はその季節限定バージョン。これらのほかにも、クロワッサン、マカロン、ケークなど、抹茶を巧みに使った多くの作品を手がけられている。

編:今や抹茶は、フランス菓子界においても世界的に認められる、定番素材となっているわけですね!

 

 

猫:日本のパティスリーでは、さらなる進化も起こっていますよ。次のケーキを見てください!

ティラミス×抹茶のおいしい出会いを味わえる「Pâtisserie 雪乃下 鎌倉本店」(神奈川)

盆栽/出典:su_taさん

 

古都 鎌倉。鎌倉駅から鶴岡八幡宮に向かう小町通りを進んだ左側の小路の奥に佇むパティスリー。こちらの抹茶のケーキは、見かけも和風にアレンジされ、その名も「盆栽」!

 

盆栽の層/出典:グリーンパフェさん

 

中身は、緑茶と抹茶のティラミス。これにスポイトで添えられたラム酒を上からかけていただく。緑茶の渋み、抹茶の濃厚な旨味、クリーミーなマスカルポーネ、ラム酒の味わいや香りのマリアージュが素晴らしい逸品。また、ロールケーキが好きな方には、抹茶ロールも用意されている。

編:鎌倉は海外からの観光客も多いから喜ばれそうですね。イタリア人の反応が見てみたいです!

 

 

猫:さらに、最近は抹茶だけでなく、それぞれのお茶の特性を研究してフランス菓子に活かそうとするシェフも現れているんですよ。

浦和の名店から新たな日本茶ケーキが誕生「アカシエ」(埼玉)

ケーキの並ぶショーケース/出典:もぐふぇーぶるさん

 

浦和の名店アカシエ。興野シェフが埼玉の狭山茶を研究して、このほど作り上げられたケーキは、茶畑のようなフォルムの「サヤマニエール」。

 

サヤマニエール/写真:アカシエ

 

狭山が推している品種で華やかな香りの『ゆめわかば』を軽やかな一番上のクリームに、一般になじみのある『やぶきた』の深蒸し茶のシロップを真ん中のビスキュイに染み込ませ、旨味が凝縮された玉露『さみどり』を一番下の濃厚なホワイトチョコレートのガナッシュクリームに使用した、それぞれの日本茶の味わいが口いっぱいに広がるシェフ渾身の作品。

文:猫井登