TOKYO トレンドスイーツVol.3:進化系シュー菓子

「スイーツ百名店 TOKYO 2018」の中から毎月一度、お菓子の歴史研究家である猫井登先生に、今のトレンドを反映したお菓子を解説&紹介していただくこの連載。第3回は、進化系シュー菓子を紹介します。

編集(以下、編):最近、あちらこちらで「◯◯のサントノーレ」というのを見かける気がするんですが、どういうお菓子なんですか?

 

 

猫井(以下、猫):ほう! それは、いいところに気づかれましたね。サントノーレというのは元々、円形のパイ生地のふちにシュー生地を土手のように絞って一度焼いて、盛り上がった土手の部分にプチシューをキャラメルで貼りつけて、中心部にシブーストクリームを絞った古典的なお菓子です。

 

 

編:なんか、ケーキ屋さんで見かけるものとずいぶん違いますね。

 

 

猫:そうですね。いつかフランス菓子の歴史については、時系列的に詳しくお話をしたいと思っているのですが、今回は手短にお伝えすると…21世紀に入り、調理法や製菓技術の中に真空調理や液体窒素で素材を凍らせて粉にするなどの方法が導入され、斬新な方法で作るお菓子ばかりが注目を浴びるようになりました。

 

しかし、だんだんそのような風潮に疑問が呈されるようになり、無理に珍奇なお菓子を作るのではなく、古典的なお菓子であっても現代的な解釈を加えることで新しいものに生まれ変わらせることが出来るのではないかと考えられるようになります。これは、「クラッシク・ル・ヴィジテ」という考え方です。日本語でいうと「温故知新」、故きを訪ねて新しきを知る、というところでしょうか。

 

 

編:なるほど。日本にも海外にも同じような諺があるんですね。

 

 

猫:なかでも、「サントノーレ」「パリブレスト」「エクレア」などは、その流れをよく表しているお菓子だといえるでしょう。

 

 

編:どんな風に、現代的な解釈が加えられたんですか?

 

 

猫:例えば、サントノーレだとアントルメ(ホールケーキ)だったものを、小さな円形のパイ生地にプチシューを3つくらい張り付けるように変えて、お一人様用にプチガトーに仕立て、クリームも、従来のカスタードにイタリアンメレンゲを加えたシブーストクリームに代えて、カスタード、生クリーム、ガナッシュなど色々なクリームが使って、さまざまなバリエーションを産みだしていったのです。

 

日本のパティスリーでも、そのようなトレンドは顕著で、「ラ・ローズ・ジャポネ」の五十嵐シェフなどは、色々なバリエーションのシュー菓子を作られていますよ。

【1】バリエーション豊富なシュー菓子を楽しめる「ラ・ローズ・ジャポネ」

出典:momo&CoCoさん

出典:八坂牛太さん

出典:こすめさん

 

「クープ・ド・モンド・ド・ラ・パティスリー」と「ワールド ペストリー チーム チャンピオンシップ」という世界的なスイーツの大会が2つあり、五十嵐シェフは、2001年に前者で日本の主将として世界第2位。2010年には、後者で味覚担当部門シェフとして、日本代表チームに選出され、総合・個人とも優勝という華々しい実績を持つ日本トップクラスのパティシエ。ショーケースには、エクレア、サントノーレ、パリブレストなど現代風にアレンジされたシュー菓子が数多く並ぶ。

 

編:パリブレストというのは、どういうお菓子ですか?

 

 

猫:大きなリング状の生地を真横に切り、あいだにプラリネ(ナッツクリーム)を挟んだものですね。フランス・パリ−ブレスト間で行われた自転車レースを記念して、車輪をイメージして作られたお菓子だといわれています。このパリブレストに現代的なものへと熱心に変貌させようとされているのが、「アディクト オ シュクル」の石井シェフですね。

【2】可愛く進化したフォルムに食べる前から釘づけになる「アディクト・オ・シュクル」

出典:白雪姫さん

 

店名の意味は「甘味中毒」。石井英美シェフは、ラデュレジャパンのマカロン部門の製造責任者も務められた実力派。シュー生地を使ったお菓子にも独自の解釈を加えたものが店頭に登場する。2015年頃に登場した「パリブレスト フレーズ バニーユ」(写真上)は、独特の可愛いフォルムが話題となった。

 

出典:su-taさん

 

現在のお店の看板商品は「パリブレスト ノワゼット オランジュ」(写真上)。本来パリブレストは自転車の車輪を模したリング状に作られるのが一般的だが、こちらは、ポコポコとしたまっすぐタイプ。クランブルをのせたシュー生地にまったりとしたヘーゼルナッツとアーモンドクリームにオレンジを組み合わせた逸品。

 

編:見た目も可愛いものばかりですね! 新しいトレンドに対応しているのは、個人店が多いんですか?

 

 

猫:ホテルのパティスリーも頑張っていますよ。例えば、グランドハイアット東京の「フィオンレンティーナ ペストリーブティック」のエクレアは、スタイリッシュで素敵なものが多いですね。

【3】長さ約27cm!芸術的なビジュアルのエクレアを味わえる「フィオンレンティーナ ペストリー ブティック」

写真:フィオンレンティーナ ペストリー ブティック公式

 

「ロングエクレア」は、クッキー生地をかぶせて焼き上げたシュー生地で生クリーム、アーモンドヌガー、パリパリの極薄板チョコレート、カスタードクリームをサンドした、なんと長さ約27cm!のエクレア。細長いフォルムで食べやすく、シュー皮の香りとヌガーの香ばしさがクリームのリッチな風味をまとめあげている。

 

写真:フィオンレンティーナ ペストリー ブティック公式

 

「エクレア スリーズ」は、ピスタチオクリームとフレッシュチェリーをたっぷりと挟んだロングエクレアの季節限定バージョンも登場中。(2018年5月下旬〜6月中旬)

文:猫井登