全国に足を運んで見いだした最高の食材を昇華させる!
こちらで振る舞われるのは36,300円の10品からなるコース料理。すべての料理はメインとなる食材を決めてから構築されます。それではコースの一部を抜粋してご紹介しましょう。
「スッポンとハーブ」は長崎のスッポンと広島県「梶谷農園」の11種のハーブと4種のエディブルフラワーをふんだんに使い、スッポンの煮凝りとコリンキーを合わせ、赤ワインヴィネガーで作るヴィネグレットソースでサラダ仕立てにした華やかな一皿です。
「店のオープンにあたり食材探しで初めに訪れたのが広島県の『梶谷農園』でした。摘みたてのハーブがどれだけおいしかったか。今まで扱ってきたものとは全然違いました」と、フランスでの修業先「マルクベラ」のハーブを多用した料理の味と、味だけでなくその多彩な香りに感銘を受けた岡崎さんにとって、ハーブは最重要の食材の一つ。一口ごとに変化する15種類の香りはその味わいとともに口中を楽しませます。
そのハーブとエディブルフラワーの中から顔を出すのはスッポンの煮凝り。スッポンをサラダに使うことにまず驚きましたが、ハーブに隠れていた煮凝りのぷりっとした食感とうまみが口に広がり、さすが高級食材のスッポン!と思わせる名脇役ぶりに岡崎さんの意図を感じます。
こちらは函館の「小西鮮魚店」の時不知(ときしらず)を使った一皿。神経締めした鮮度抜群の時不知は皮目だけを香ばしく焼き、ミ・キュイしています。上にはフランス・ゲランド地方に珍しく南風が吹いた時にだけ採塩し伝統的製法で作られた非常に希少な塩「ゲランド フルール ド セル 南の風」をひとつまみ、最後にディルオイルをかけています。
ソースは椎茸で作ったソースとブールブランソースを2層にしています。「福島県で見た野菜で一番印象に残ったのが小椋さんの椎茸でした。この椎茸をいかにおいしくするかと考えたらピューレだと思いました。ポタージュくらい濃厚でうまみも香りも強いのでバランスを取るためにブールブランソースを合わせました。バターを使わず葛粉で濃度をつけているので口当たりが軽く味わいだけが残ります」と岡崎さん。食材それぞれが主張するも見事に調和させた岡崎さんの手腕に胃袋が掴まれます。
メインディッシュは「いぶさな牛 炭火焼き」です。本日はジューシーで肉のうまみが強い部位の「とうがらし」に炭火の香りを纏わせて焼いています。添えたのは京都産の「白子筍」のみ。食材のおいしさをシンプルに味わう一皿に仕上げています。
年月をかけ養土を幾層にも重ねることで竹の根を深くして栽培する京都「辻農園」の「白子筍」は、地中にあるうちに収穫するのでアク抜きの必要がありません。通常穂先がおいしいとされる筍ですがこれは根元の方が甘く、生で食べるのが一番と言われる逸品です。皮を剥いて塩を振りローストしてシャキシャキとした食感と独特な風味を楽しみます。
ソースは赤ワインと香味野菜と牛のコンソメを煮詰めたもの。味変に五島列島の「ひとしの塩」、和歌山県産「ぶどう山椒」、マダガスカル産の黒胡椒を添えています。熱々にした器の上で山椒や胡椒の香りが高まり食欲をそそります。またメインディッシュに必ず添えられる旬の食材で作るピューレも絶品です。
グランデセールもフルーツを決めることから始まります。本日は宮崎産マンゴーをフレッシュとキャラメリゼして火を入れるという2つの調理法で食べ比べ。「スプーンの上にフレッシュマンゴーとパンナコッタをのせています。一口で召し上がってください」と、まずはフレッシュの方を。瑞々しく甘みも十分。その余韻に浸りながら次はキャラメリゼを食します。
こちらは薄くカットしたフィナンシェの上に紅茶のムース、マンゴーのピューレとキャラメリゼ、フランボワーズをのせ、メレンゲ、フランボワーズのグラニテ、ホワイトチョコレート、マイクロフェンネルでデコレーションしています。キャラメリゼしたマンゴーは甘みと香りが確かにフレッシュより際立ちますが、紅茶のムースやメレンゲが調和し、味に一体感を生み出します。
ムースにメレンゲ、キャラメリゼしたマンゴーとこれだけ甘いものが重なるのに食後感が軽い。「10品目ともなればかなりお腹も膨れています。そこに甘くてボリューミーなデザートだと辛いかと思い、食感は軽く、油脂分の少ないデザートを作るよう心がけています」と話すのはパティシェールの白井さん。こういう心遣いはうれしいものです。
最幸の時間を提供する!
「すべては食材のために!」と言わんばかりの料理は、ソースも火入れもその食材を昇華させるためにあるのだと思わせます。それは数々の名店で腕を振るってきた岡崎さんの技術と食材を愛でる心があればこそ。「おいしいは当たり前、楽しかった、おもしろかったなどプラスαがなくては。お客様に良い時間を過ごしてもらえるように料理、食材、サービス、空間すべてにこだわり、慢心することなく日々学び努力し、今一番新しくおいしいフレンチを目指したい」と話します。
フルフラットのカウンターで岡崎さんの高いテクニックを目の当たりにし、おいしい音と香りに包まれると自然と会話も弾みます。ここを訪れる人たちに最幸の時間を提供する「アルギュロス」は西麻布の景色を豊かにし、美食シーンの最先端を走り続けることでしょう。
※価格は税込