【和菓子と巡る、京都さんぽ】
四季折々の顔を見せる名所を訪れたり、その季節ならではの和菓子を食べて職人さんたちの声を聞いてみたり……。ガイドブックでは知り得ない京都に出会う旅にでかけてみませんか。
あなたの知らない京都について、京都在住の和菓子ライフデザイナー、小倉夢桜さんに案内していただきましょう。
其の六 実直さのにじむ上質な味「緑菴」
名刹を巡る、哲学の道さんぽ。
長年、京都に暮らしていて、京都の魅力の一つとして四季の移ろいを身近に感じられることが挙げられます。
社寺の境内や庭園はもちろんのこと、様々な広葉樹が植えられた散策路が数多くあります。
その中でも東山の麓に通る一本の道「哲学の道」は日本の道100選にも選ばれている散策路です。
銀閣寺から熊野若王子神社あたりまで続く約1.5kmにおよぶ散策路。
その周辺には多くの名刹が点在しており、観光シーズンにもなると多くの観光客で賑わいます。
琵琶湖疏水に沿うように作られた道は、散策用に石畳が敷かれ、四季折々の景色を楽しむことができます。
春は満開の桜、夏には木陰の中を歩きながら新緑を楽しみ、秋には彩り豊かな紅葉。
哲学の道
木々そのものを見て楽しむのはもちろんのこと、疏水の水面に映る光景を見ながら散策することができるのは、哲学の道ならではの楽しみ方だと思います。
甘いもので、ひとやすみ。
哲学の道の西側に、哲学の道に沿うように鹿ケ谷通(ししがたにどおり)が通っています。
その鹿ケ谷通沿いに和菓子店「緑菴(りょくあん)」があります。
緑菴
全国的に有名な和菓子店「末富」で修業後に独立をされて現在に至るお店です。
飾らず抽象的な季節感のあるお菓子が店内に並びます。
緑菴店内
茶会などで多くの茶人が好んで利用するお菓子というのも納得です。
「うちは器用に手の込んだお菓子はよう作りませんねん」と語るのは、いかにも昔気質の職人さんといった容姿の御主人。
その言葉からは、時代に流されることなく、京菓子を長年作ってきた職人としての誇りを感じます。
職人さんのお人柄がお菓子に反映されるとよく言われますが、こちらのお菓子をいただくとその言葉の意味がよくわかります。
お菓子からは、気負いを感じることはなく、自然と心が和みます。
御主人のお人柄をそのままお菓子から感じることができます。
こういったことも和菓子の魅力の一つだと思います。
花びら餅
京都の新年は、やはり祝い菓子の「花びら餅」からはじまります。
花びら餅は、平安時代の新年行事「歯固めの儀式」に由来するものです。
元日から三日まで、押鮎、猪、大根などの硬い食べ物を食べて長寿を願うというものです。
後に簡素化されて押鮎はごぼうになり、お雑煮に見立てた白味噌餡をお餅で包むようになりました。
花筏
哲学の道は桜の名所とともに花筏(はないかだ)の名所でもあります。
儚く散った花びらが川面を流れ、水面を薄桃色で覆い尽くしています。
その花筏の情景を表現した餅(求肥)を使ったお菓子です。
藤花
たおやかに咲き、揺れ動く花房から洩れる光のシャワー。
その輝きを表現した薯蕷(じょうよう)饅頭です。
花菖蒲
5月を代表するお菓子の意匠といえばこちら。
外郎(ういろう)で杜若や花菖蒲を表現した伝統ある意匠です。
葛焼き
古くから京都では夏の茶菓子として好まれてきた「葛焼き」。
京都の夏の代表的なお菓子のひとつです。
吉野葛に小豆あんを練り込み、枠に流して蒸しあげてかたくり粉をつけて程よく焼いたお菓子です。
菊
伝統的な襲色目のような色合いのお菓子。
日本の美意識の高さそのものです。
そこに型押しされた「十六一重表菊」と呼ばれる菊花紋章。
伝統を感じずにはいられないお菓子です。
秋の山
こなしで抽象的な曲線をつくり山並みを表現しています。
その時々の季節に合わせた色を使うことによって四季折々のお菓子に仕上げています。
春は、よもぎ色と桜色など。そして、秋は黄色と朱色です。秋の山々に見えてきませんか。
柴の雪
底冷えの京都。
柴の上にはうっすらと雪が降り積もります。
その情景を二色のそぼろで表現したきんとん製のお菓子です。
お店の近くには、銀閣寺や法然院などがありますので観光帰りに訪れる和菓子好きの方たちも多いそうです。
みなさんも訪れて手のひらにお菓子を乗せて和まれてみてはいかがでしょうか。