いざ、魅惑のタブレットチョコレートの世界へ。「ル・ショコラ・アラン・デュカス」徹底取材(後編)

「ル・ショコラ・アラン・デュカス 東京工房」「ル・ショコラ・アラン・デュカス 六本木」のオープンを記念し、お菓子の歴史研究家・猫井登先生が同店の徹底取材を行う企画の後編となる今回は、デセールとシェフインタビューを中心にお送りした前編に続き、同店の看板商品でもあるタブレットチョコレート(板チョコ)について紹介します。

タブレット(イメージ)

全26種類!プロがオススメするのはどのタブレット?

同店の看板商品は、なんといっても“タブレット”。産地別、品種別に全26種類がラインアップされています。まずは、皆さんがそれぞれ好みのタブレットを見つけるための“豆知識”をお教えしたいと思います。

【猫井先生のチョコレート豆知識1】カカオ豆の3大品種を押さえる!

カカオの栽培地では新たな品種開発が進められていますが、歴史を辿れば、「クリオロ種」、「フォラステロ種」の2つの原種と、この2種が交配して生まれた「トリニタリオ種」の3つに分けられます。

 

【クリオロ種】フルーティーな芳香で、苦み渋みが少なく、ビター系ショコラに最適のフレーバービーンズとして珍重される。環境変化や病害虫に弱いため、栽培が難しい希少品種。ベネズエラ、メキシコ、マダガスカルなど限定された地域でのみ栽培。

 

【フォラステロ種】香りが少なめで、ポリフェノールが多く、苦み渋みが強いためミルクチョコレートに適する。環境変化や病害虫にも強く、全生産量の大半を占める。サントメ島、ガーナ、ブラジルなど広い地域で栽培。

 

【トリニタリオ種】上記2種の交配により、高い芳香を持ちながら病気にも強い良質なハイブリッドカカオで、将来的に期待されている品種。交配の度合いにより特徴が異なる。中米、スリランカ、ニューギニアなどで栽培。

 

これらの特徴を踏まえて、同店で販売するタブレットの中から特におすすめの3つを紹介します。

「タブレット」一例

1.「MADAGASCAR CRIOLLO 75% (FERME BEJOFO)」

タブレットを味わうなら、まずは、カカオの風味がしっかり味わえるカカオ分75%以上のもので、幻のカカオともいわれる、希少品種の「クリオロ」がどんな味わいなのか、試してみたいですよね。

 

というわけで、まずはマダガスカル産、カカオ分75%、BEJOFO(ベジョーホ)農園の「クリオロ」を味わってみましょう。クリオロと銘打ったチョコレートは数あれど、農園まで明記したもの(農園指定)のものはあまりないので期待が膨らみます!

 

一片を口の中に入れたら、ゆっくりと舌の上で溶かして行きます。初めは、バニラを思わせるカカオの香り。舌の上で溶かしていくと、フルーティーな酸味が広がっていきます。一般的にマダガスカル産のカカオは、フランボワーズのイメージといわれますが、こちらはもう少し甘みのある、ストロベリーのイメージでしょうか。優しい甘さが感じられる酸味に続いて、奥深いカカオの風味を感じさせるロースト感が続きます。そして、最後はシトラスのような爽やかな余韻が残ります。素晴らしく、エレガントなタブレットです。

2.「PERU TRINITARIO 100% 」

クリオロの次は、「トリニタリオ」を味わってみましょう! しかも、カカオ分100%って興味ありますよね!? 純粋なカカオって、どんな味わいなのか、試してみたくありませんか?

 

同じように、一片を口に入れて、ゆっくりと舌の上で溶かしていきます。重厚な口溶け。がっつりと強烈な苦みが押し寄せてきます。それでもじっくりと味わっていると、舌が苦みに慣れてくるのか、やがてナッツのような香りがして、ほのかな甘みさえ感じられるようになります。苦みが長く残るのかと思いきや、意外に余韻はすっきり。まさに大人の味わいです。砂糖もミルクも入っていない、カカオ分100%の世界を是非体験してみて!

 

そして、カカオ豆の品種とカカオ分の違いを体験したら、次に製法の違いを体験してみましょう!

 

…とその前に、今度は製法に関する豆知識です。

【猫井先生のチョコレート豆知識2】ショコラの製造工程を押さえる!

「ショコラバー」

 

チョコレートが出来上がるまでの工程。産地でカカオの実を収穫したら、カカオポッド(殻)を割り、白い果肉ごとカカオ豆を取り出し「発酵」させる。これにより苦み渋みが減り、香りの元が形成される。「乾燥」させて出荷。工場ではクリーニングをしたのち「焙煎」を行う。ここで、カカオ豆の香りや風味が出てくる。焙煎したカカオ豆を「粉砕」し「カカオニブ」にして、さらに「すり潰し」て、どろどろの「カカオマス」にする。これに、砂糖、ミルク、ココアバターなど「混合」し、ココアバターを均一に行き渡らせるため「コンチング(撹拌・精練)」を行う。この作業は、チョコレートの粒子を滑らかにしたり、摩擦熱によりチョコレート独特の風味を出したりする役割も果たしているとされている。あとは「テンパリング(調温)」、ラッピングして完成となる。

 

実は、ル・ショコラ・アラン・デュカスでは、敢えてコンチング(撹拌・精練)を行わない「Non conché」の商品も作っています。コンチングは、チョコレートに関する四大発明のひとつとされ、口溶けなめらかなチョコレートを作るのに必須の工程とされるもの。コンチングしないと、どんなチョコレートになり、どんな食感になるのでしょうか?

3.「PEROU 75% NON CONCHÉ」

ここでは、コンチングしないチョコレートの特徴を見るため、同じくペルー産のものをチョイス。まずは、タブレットを割り、断面をしばし観察。ふつうのチョコレートではありえない、ジャリジャリの見た目。鼻を近づけるまでもなく、荒々しいカカオの香りが!

 

口に含むと全粒粉のビスケットのようなザクザク、ジャリジャリした食感。カカオとは混ざっていない、砂糖の結晶も感じられ、粗塩を振ったステーキの肉片を食べているかのような感覚がするパワフルなタブレット。「チョコレートだからと言って、定型的にコンチングするだけが能じゃない」「敢えてコンチングをしないことで、新しい味わいや食感を産みだすことも出来るんだ」というメッセージが聞こえてくるかのような興味深い作品。

 

以上、特徴的なタブレットを3つ紹介しましたが、ほかにも魅力的なタブレットが多数あります。スタッフの説明を聞いて、好みの一品を選んでみて!

【猫井先生のチョコレート豆知識3】ボンボン・ショコラは、プラリネが人気!

「ガナッシュ・グルマンド」

 

ボンボン・ショコラは、全部で16種類あり、大きく次の3つのタイプに分けられています。

 

「ガナッシュ・オリジン」単一産地のカカオに生クリームを合わせ包み込んだもの。マダガスカル、ペルー、ジャワの3種類。

 

「ガナッシュ・グルマンド」スパイスとフルーツを使用した風味豊かなガナッシュを包み込んだもの。ライム、プルーン&アルマニャック、キャラメル、バニラ、カフェ、フランボワーズ、トンカ豆の7種類。

 

「プラリネ・ア・ランシエンヌ」昔ながらの製法で仕上げたプラリネを包んだもの。ノワールクラッシュヘーゼルナッツ、オ・レ・クラッシュヘーゼルナッツ、ノワールクラッシュアーモンド、オ・レ・クラッシュアーモンド、ピスタチオ、ココナッツの6種類があります。

 

人気の「プラリネ・ア・ランシエンヌ」は、ナッツペーストから日本の工房で製作しているだけあって、フレッシュ感があり、人気があるのも納得です。「ガナッシュ・グルマンド」は色々な味わいを試すことができて楽しい。個人的には、「ガナッシュ・オリジン」の「マダガスカル」がフルーティーな味わいでオススメです!

 

※現在のところ、ボンボン・ショコラ1個ずつの販売はなく、アソートメントボックスの販売のみとなります。

日本でしか買えない限定スイーツも見逃せない

「焼き菓子 5種 詰め合わせ」

 

このほか、東京でしか買えない「焼き菓子 5種詰め合わせ」、キャラメリゼしたアーモンドをショコラでコーティングした「ドラジェ」、オレンジ、シトロン、グレープフルーツ、ショウガなどの砂糖漬けにショコラ・ノワールをコーティングした「フリュイ・コンフィ」、アーモンドとヘーゼルナッツのプラリネ、ショコラ・ノワールとショコラ・オ・レを混ぜて作る「ショコラ・スプレッド」などの商品も。

 

「ショコラ・スプレッド」

 

バリエーション豊富なボンボン・ショコラやタブレット、ショコラスイーツは、どれもが甘さ控えめで、デュカス氏の料理と同様に、良質な素材を厳選し、素材本来の味わいと香りを見事に表現したものばかり。

 

一度訪れて、自身の舌でその味を確かめてみてください!

 

取材・文:猫井登