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日本限定デザートも!お菓子の歴史研究家・猫井登が「ル・ショコラ・アラン・デュカス」を徹底取材(前編)
「ムース オ ショコラ」
世界7カ国27のレストランを持つ巨匠アラン・デュカスによるチョコレートブランドの世界初出店となる「ル・ショコラ・アラン・デュカス 東京工房」のオープンを記念し、本誌連載でもお馴染みお菓子の歴史研究家・猫井登先生が同店を徹底取材。また、今回特別に同店でエグゼクティブシェフ・ショコラティエを務めるジュリアン・キンツラー氏にインタビューも行いました。
エグゼクティブ シェフ・ショコラティエ、ジュリアン・キンツラー氏特別インタビュー
ジュリアン・キンツラー氏(写真左)1999年フランス・アルザスの製菓専門学校卒業後、「ダロワイヨ」で3年間修行。2003年よりパリのホテル「ル・ムーリス」にて部門シェフを務め、2005年に来日し「ベージュ アラン・デュカス 東京」に入店、2008年よりシェフ・パティシエを務めた。2015年より「ル・ショコラ・アラン・デュカス」のパリ工房でニコラ・ベルジュより薫陶を受け、この度「ル・ショコラ・アラン・デュカス」東京工房のシェフ・ショコラティエに就任。写真右はアラン・デュカス氏。
――ジュリアンシェフがショコラ作りにおいて重要視されていることは何でしょうか?
「カカオ豆からボンボン・ショコラを作ること、最高品質の材料を厳選すること、手間と時間を惜しまない職人の手仕事とそこから生み出されるクリエイティビティ、そして個性あるカカオ豆の味と風味を追求すること、これらの点を最も重要視しています。そして、それらを軸に商品作りを行っています」
――お店では、チョコレート製造の際にココアバターを均一に行き渡らせるコンチング作業を敢えて行わない「Non conché(ノン・コンシェ)」の商品もお作りになっていますが、その狙いは何でしょうか?
「個性あるカカオ豆の味と風味の追求の中から、加工しない味わいを表現したノン・コンシェが誕生しました。 コンシェしないことでペルー産カカオ豆そのままのダイレクトな味わいが際立ち、なめらかというよりも、きめの粗い食感のタブレットに仕上がっています。
カカオ豆の持つ酸味が豆の中に閉じ込められたままの100%カカオマスにカソナード(サトウキビ100%の精製されていない含蜜糖)を加えているので、ペルー産カカオ豆の香りと風味が際立ち、カソナードの甘味と舌触りがアクセントになっています。私自身も5年前に初めてこのタブレットを味わったときはとても感動し、この味の虜になりました」
――タブレットの中でもNon conchéは最注目ですね。日本にはチョコレートマニアが多く見られますが、日本でお仕事をされているシェフの目からみて、フランス人のショコラの好みと、日本人のショコラの好みに違いはあると感じられますか?
「マンディアン アーモンド/イチジク/オレンジコンフィ」
「フランスに比べ、甘さ控えめの軽いパティスリーが日本では好まれていると思います。 それでもフリュイ・コンフィ(フルーツの砂糖漬け)がたっぷりのったマンディアン(薄く伸ばしたチョコレート生地の上にナッツやドライフルーツをのせたもの)のタブレットも人気があるので人それぞれですね!」
――「ル・サロン」の限定メニューについて、アラン・デュカス氏に、ご自身のお母様の手作りのお菓子を工房で再現したいと語られたそうですね。具体的にはどのようなものをお考えになっているのでしょうか?
「私が小さいときに母がよく作ってくれた『フォレ・ノワール』(フランス語で『黒い森』の意味を持つ、さくらんぼを使用したチョコレートケーキ)というケーキをル・サロンで提供したいと思っています」
――「フォレ・ノワール」は日本ではなかなか珍しいケーキなので、楽しみにしています。また、4月27日には六本木にもお店をオープンされましたが、日本橋のお店との違いはありますか?
「六本木店にもブティックだけでなくル・サロン(24 席)をご用意しました。ブティックで販売する商品は、 全て日本橋の工房で手作りされたショコラです。 ル・サロンで提供するデザートは六本木店のキッチンで仕上げます。六本木限定の商品も発売予定です」
――それを聞いたら六本木店にも行かねばですね(笑)。最後に、日本のショコラファンへ、シェフからのメッセージをお願いします!
「ル・ショコラ・アラン・デュカスでは素材を厳選し、熟練のショコラティエがひとつひとつ丁寧にボンボン・ショコラを作っています。どんな風に私たちのショコラが作られているか、ぜひ見に来て、いろいろなカカオ豆から作られた私たちのショコラの味と香りを味わってみてください」
それでは早速、東京工房の様子を見てみましょう!
店内の様子から日本限定のデセールまで。専門家が注目する東京工房の見どころはここ!
「ル・ショコラ・アラン・デュカス 東京工房」は、東京メトロ三越前駅B6出口徒歩数分という好立地にあり、パリの工房でカカオ豆から作られたクーベルチュールチョコレートを輸入し、タブレット、ボンボン・ショコラ、焼き菓子などを製造しています。
ブティックの外観
タブレットやボンボン・ショコラを販売する1階のブティックでは、来店者一人一人にスタッフが丁寧に説明してくれるので、お店の外まで行列が出来ることも珍しくありませんが、的確かつ迅速な対応でストレスを感じさせません。
チョコレートがずらりと並ぶ店内
チョコレートの販売スペースは、パリの店舗同様、木、レンガ、ガラス、鋼を使った空間で、真正面の壁には天井高くまでオリジナルデザインの紙製のバッグが並べられ、それ自体がインテリアの一部になっています。壁の棚には、こちらの看板商品である、さまざまな種類のタブレットがびっしりと並べられ、カウンター上には焼き菓子が、中央のショーケースにはボンボン・ショコラが美しく陳列されています。
猫井登イチ押しの注目デセールは「クープ・グラッセ・オ・カフェ」
階段を上がり、中2階に設けられたカフェスペースの「ル・サロン」へ。こちらは、三方がガラス張りになっていて、工房でスタッフが作業をする様子を眺めながらデセールを味わうことができます。
訪れる日や時間により製造されている商品が異なるので、毎回違った風景を見ることが出来るのも楽しみのひとつです。
「クープ・グラッセ・オ・カフェ」
こちらは、表面に金箔が飾られた見た目にも豪華なデセール「クープ・グラッセ・オ・カフェ」。下から「チョコレートのアイスクリーム」「コーヒーのグラニテ」「エスプレッソムース」が3層になったもので、表面はチョコレートのディスクで覆われており、食べる直前にショコラ・ショーをかけていただきます。
ショコラ・ショーの熱で表面のチョコレートのディスクが溶けるとともに、中のムースやアイスクリームもやわらかくなったところをスプーンですくって口に運べば、チョコレートとコーヒーの奏でる味わい深いハーモニーに恍惚。甘みが抑えられていて、カカオ本来の味わいが広がり、最後にシャリシャリとした食感のコーヒーのグラニテが、さらりとした印象を与えます。表面の溶け残ったチョコレートディスクのパリッとした食感と柔らかな中身のコントラストも楽しめるよう計算された見事な作品です。
さすが、フレンチの名店「ベージュ アラン・デュカス 東京」のシェフ・パティシエを務めていたジュリアン・キンツラー氏の手によるデセールは一味も二味も違います。
後編「タブレットチョコレート編」もお楽しみに!
次回お送りする後編では、同ブランドの看板商品であるタブレット(板チョコ)について、猫井先生が深〜く掘り下げます! お楽しみに。
取材・文:猫井登