「食で『富山』を愛でる夜」と題して、富山「リバーリトリート雅樂倶」のレストラン「Trésonnier」と日本酒「IWA 5」のスペシャルディナーが開催されました。当日はIWA の創立者であるリシャール・ジョフロワ氏も参加し、新しいアッサンブラージュについての話などを伺いながらの特別な一夜となりました。

希少酒を含む多様な「IWA 5」を堪能!

IWA 5 アッサンブラージュ4

2021年、富山県立山町白岩に酒蔵「株式会社白岩」がオープンしたというニュースに飲食業界のみならず、メディア、建築業界までもが興奮しました。なぜなら創立者は世界最高峰のシャンパーニュ「ドン ペリニヨン」を28年間造り続けたリシャール・ジョフロワ氏であり、その醸造最高責任者の地位を退き、日本酒の醸造家へと転身したからです。それだけではありません。このプロジェクトには世界的に活躍する人々が携わっており、建物の設計は建築家の隈研吾氏、ボトルデザインはプロダクトデザイナーのマーク・ニューソン氏、そして酒造りのアドバイザーとして1893年創業の桝田酒造店の蔵元、桝田隆一郎氏が参画しています。

リシャール・ジョフロワ氏

そのジョフロワ氏が造った「IWA 5」は3種類の酒米(山田錦、雄町、五百万石)と5種類の酵母をワインの製法である“アッサンブラージュ(調合)”することで複雑さと心地よいバランスがもたらされ、毎年進化した味わいとなります。現在、IWA 5アッサンブラージュ1から4までが造り出され、このイベントではすでに流通していないアッサンブラージュ1に加え、一般には出回っていないIWA 5 リザーブが披露されました。

アペリティフで振る舞われたホタルイカ

会場となったのは富山空港から車で20分、富山駅からは40分ほどの地にある「リバーリトリート雅樂倶」。建築家、内藤廣氏の設計による館内には、美術館なら触れることができないような草間彌生、倉俣史朗、ジェフ・クーンズなどの現代アーティストによるアート作品がいたるところに置かれ、目の前に神通川が流れる美しい自然の景観に囲まれた、建物そのものがアートと言えるリゾートホテルです。

田中逸平シェフ

その地下1階にある「Trésonnier(トレゾニエ)」は富山の豊かな食材と食文化にフランス料理の技法を融合したイノベーティブレストラン。シェフの田中逸平さんは幼少から料理が好きで18歳からフランス料理の道へ進みました。リバーリトリート雅樂倶 フレンチレストランの立ち上げに携わったのち、京都のフランス料理店で修業。再び富山に戻り、「レヴォ」のスーシェフとして腕を振るいます。2020年、「レヴォ」の移転を機に「Trésonnier」のシェフに就任しました。

自家菜園や山に入って収穫した食材

特筆すべきは食材を新鮮なまま使う一方で、熟成や発酵させて保存食を作ったり、調理過程で廃棄する魚のアラや内臓、規格外などの理由で市場に出回らない未利用魚を熟成させて作った液体肥料で自家菜園の農作物を育てたりと、サステナブルにも取り組んでいること。ミシュラン一つ星獲得と同時にグリーンスターも受賞しています。

富山を愛する二人による珠玉のペアリングディナー

「海鼠」
「月の輪熊」

ビネガーでマリネしたラッキョウを和えた海鼠、白エビは白エビの殻で作った煎餅にのせ、数種類の天然きのこのタルト、蕎麦粉のガレット上には月の輪熊デミグラスソースで味付けした月の輪熊とクレソンとトリュフをのせたアミューズ4品には「アッサンブラージュ4」に黒文字の香りをつけた炭酸カクテルを。爽やかで口当たりが良く、どんな料理とも合います。

「ブリ 葉ワサビ」

前菜の1品目は新湊漁港「孫七・川田水産」のブリを乾燥熟成させ、うまみを凝縮し、タルタル仕立てにしています。すりおろしたワサビと香草のクリームソースに自家製の葉ワサビオイルをかけたソースが圧巻の味わい。田中シェフが自ら山に入って摘んできた葉ワサビの独特な風味は体の細胞が活性化するかのように浸透していきます。ペアリングにはドライフルーツのようなフレーバーとミネラル感が特徴的な「アッサンブラージュ3」を。重力を感じさせない軽やかさがありながらも力強く、すべての感覚が滑らかに調和します。「アッサンブラージュ3」は1と2を経て、“IWA 5の方向性”が見えた大事な酒であるとジョフロワ氏。

「畑の野菜」

自家菜園の採れたて野菜と、富山市池多地区に広い畑と裏山を所有する青山麗子さんのカラフルな野菜は甘みも苦みも本来の味を教えてくれます。それに合わせたのは2022年に発売された「アッサンブラージュ4」。瓶内熟成による複雑で重層的な味わいは春を感じさせる若々しさがあり、新鮮な野菜に寄り添います。

「甘鯛 シャク・山人参」

この後、「越中立山鴨」には「アッサンブラージュ2」を燗酒にし、「本ズワイガニ」には流通していないホワイトペッパーの香りを感じる「アッサンブラージュ1」をペアリング。そして魚料理が登場しました。ブリと同じ「孫七・川田水産」の甘鯛は鱗焼きに。まるで揚げたかのような鱗のパリッパリの食感と対比するように身はしっとりとして最高の仕上がり。山で摘んだセリ科の葉野菜「シャク」と「山人参」を添えています。ジョフロワ氏が選んだのは「日向燗」と呼ばれる30℃くらいのぬる燗にした「アッサンブラージュ3」。冷酒よりも香りが高く味わいにふくらみも感じます。

「立山放牧牛 行者ニンニク・カタクリ」

メインは立山「カシワファーム」の「立山放牧牛」を薪で香りをつけながら焼き、牛のうまみにエシャロットと塩漬けした行者ニンニク、赤ワインなどを混ぜたソースをつけていただきます。付け合わせには採れたての行者ニンニクを添えています。合わせたのは流通していないもう一つの味、「IWA 5リザーブ」です。これは歴代のアッサンブラージュが、主にフレッシュな原酒で造られているのに対し、IWA 5 リザーブは、瓶内熟成した原酒のみでアッサンブラージュされた前例のないイノベーティブな製法で造ったそう。燻したベーコンをイメージする牛肉の香りと「IWA 5リザーブ」の乳酸を思わせる香り、そして行者ニンニクの香りが織りなす予期せぬハーモニーに食の楽しさを見いだします。
最後に「ふきのとうのアイスクリーム」、そして「大庄イチゴ」とIWA 5の酒粕で作ったムースに甘酒のムースを重ねたデザートでコースが終了。富山の雄大な風景を彷彿させる料理と日本酒に酔いしれました。

富山の食が大きく変わることを予感させる!

「IWA 5」はワイングラスで

「よく、なぜ『ドン ペリニヨン』のトップという立場から日本酒の世界に飛び込んだのかと尋ねられます。ハーモニーの追求という答えは出せるのですが、正直に言うと日本への愛です。何度も来日しているうちに日本酒と出合い、造り方や飲み方が多様で遊び心に溢れていることに興味がわき、無限の可能性に気づきました。日本酒の未来は輸出にあると断言しますが、まだ世界に知られていないのが現状です。だからネットワークのある私が架け橋となれるのではないか」というジョフロワ氏の言葉に、彼が理想とする日本酒造りの場所に選んだ富山で造られた「IWA 5」が世界中で飲まれる日も近いと確信しました。この日、新たなアッサンブラージュ「アッサンブラージュ5」の味を確認したそうで9月の発売が楽しみでなりません。

ジョフロワ氏と「Trésonnier」のスタッフで記念撮影

富山で育まれた海と山の幸を見事に昇華させた田中シェフ。特に初めて味わう地物野菜には食の未来を感じました。伝統へのリスペクトを忘れず新しいことに挑戦する田中シェフの料理は人々を魅了し続けることでしょう。この夜、富山を愛でる二人が創った完璧なるマリアージュは、富山の食文化を進化させたのです。


文:高橋綾子
写真:お店から