目次
〈「食」で社会貢献〉
2030年までの国際目標「SDGs」(=Sustainable Development Goals〈持続可能な開発目標〉の略)など、より良い世界を目指す取り組みに関心が高まっている昨今。何をすればいいのかわからない……という人は、まずお店選びから意識してみては? この連載では「食」を通じての社会貢献など、みんなが笑顔になれる取り組みをしているお店をご紹介。
今回は「The Tabelog Award」をBronzeを4回受賞し、2024年にSilverを受賞した北海道夕張郡栗山町の静かな場所に佇む日本料理店を紹介します。
味道広路(北海道・栗山)
「味道広路」は、北海道の季節の山菜や魚介など、身近な食材をご馳走に作り上げる完全予約制の日本料理店です。店主の酒井弘志氏は栗山出身。高校卒業後に大阪の辻調理師専門学校に入学し、卒業後は日本料理界の最高峰のひとつである滋賀県の名店「招福樓 本店」で修業を積みました。本店、神戸店、東京店で約12年間腕を磨き、独立。独立後は、試行錯誤を重ね、自分の思う現在のお店の形になるまで10年ほどかかったそう。店を構えてから23年経った今も、変わらぬおもてなしの心で料理と真摯に向き合っています。
店舗があるのは札幌から車で1時間ほど、電車とバスを利用して約1時間半という場所。決してアクセスが良いとは言えない場所ですが、季節ごとに足繁く通うファンも多いようです。全ての自然の恵みを尊重し、四季折々の新鮮な素材を使った五感で味わう料理を提供。店内には季節の野花や木々を生け、木の実を飾り、陶器、掛物、明かりなど、同店ならではの風情と心からのもてなしの中、日々の忙しさを忘れた特別な時間を過ごせます。
店主・酒井弘志さんに聞く「サステナブルな取り組み」とは?
この地でお店を始めた経緯を教えてください
都会ではただ単に忙しいだけで日々が流れていくのが嫌だと感じていたところ、父が最終的に探してくれた場所がここでした。また、妻が東京の下町育ちだったので「ここが限界です」と線を引かれたのも決め手になりました。夫婦での商売も初めてだったので、いろいろ面倒なこともありますが、面倒を面倒と思わず、楽しさに繋げる意識を持てば決して全てが面倒なことにはならないと思いました。
「食材」について日頃お考えのことをお聞かせください
今までお店で働いていた時には、野菜は八百屋さんが持ってきて、魚は魚屋さんが持ってきて、食材自体を取りに行くということはほとんどありませんでした。あちこちから食材を取り寄せるのが可能な時代ですが、わざわざここに来ていただくためには、どうすべきかと考えた時に、ここに来ていただくためのものを作らなくてはならないと思いました。アワビやウニなどの高級食材ではなく、ここだけでしかできないもの、この土地に合ったものを提供しようと決めました。
じゃがいもを煮ただけの料理がコースに出てもまったくおかしくない、身近な食材をそんな洗練された一品に仕上げる。そういうものが、より人の感動を呼び起こせるのではないか、そんな思いで日々料理をしています。
お店で大切にしていることをお聞かせください
お客様の組数も少ないので、できる限りのことをしたいという思いがあります。年齢を重ねると多くは食べられなくなる場合もあるので、食べ手の様子を見ながら、その人その人に合わせた量に変えていく。命のあるものを当たり前に残してしまうことがないよう、できる限り綺麗に食べていただけるような配慮しています。お客様が全部食べて程よく収まり、スッと消えてなくなるのが一番良いと思って料理を作っています。
「持続可能な食の在り方」についてお考えをお聞かせください
太陽があり、水があり、風、土、大地があるから作物が育っていく。それを私たちが摂取して命を繋げています。その日々の感謝を思い起こすためにも、自然との触れ合いを続けるのだと思います。例えば面の悪い大根があれば、その皮を捨てるのはもったいないので、皮は飴炊きにし、元の面が関係なくなるような見栄えのものにし料理として成立させる。自然と素材を大事にしなければならないと考えています。
あなたにとって「料理」とは
「ご馳走」です。非日常であり、日常ですが、外食ということで考えれば「ご馳走」。「馳走」とは、馳せ参じて、あちこちに走って食材を集め、その人のために思いを馳せて作ること。料理は、それによって心と身体が豊かになる、生きるために大事なものだと思います。
詳しくは動画で
インタビュー動画では酒井氏が料理に対する思いや、将来の展望などを語っています。素晴らしい料理がどのようにできているのか、そのヒントが詰まっています。
高級食材ばかりを使うのではなく、季節の山菜など身近な食材を洗練した一品に仕上げる。酒井氏の作り出す自然と共存するような滋味深い料理は、これからも価値あるものとして愛されていくでしょう。