初体験の組み合わせに微笑みが止まらない!

「鮨 すがひさ」は平日ランチにウォークインで「エスニックちらし寿司」1,650円の提供もしているが、真骨頂はそれ以外の日時に供されるおまかせのコースだ。こちらは予約制で1人23,000円となり、創造性にあふれる多彩な料理を楽しめる。その一例を紹介しよう。まずは「グリーンカレー白子茶碗蒸し」。

グリーンカレー白子茶碗蒸し

本来用いる和風ダシの代わりに、グリーンカレーを使って卵と合わせている。中にはフグの白子を閉じ込めて、よりクリーミーなテクスチャーと濃厚なコクを演出。ベースのカレーはココナッツミルク、ナンプラー、青唐辛子、バイマックル、エシャロットなどを使った本格派で、まろやかな甘みと余韻の爽快な辛みがたまらない。

〆鯖の生春巻き

寿司の要素を分解し、組み立て直した一つの形が「〆鯖の生春巻き」。米をライスペーパー、酢をなますと〆サバで酢飯に見立て、新たな発想から米と魚を共演させた一品だ。なますはベトナムの方がポピュラーだがタイでも親しまれているうえ、日本の伝統料理でもある。
それもあって味に違和感はないが、ライスペーパーはもちもち、サバはしっとり、なますはシャキッとした多彩な食感が斬新で、ガリのような役目も。さらに大葉の爽やかなアクセントも秀逸で、こちらも驚かされるおいしさだ。そして続く「鮑」もやはり、普通のアワビではない。

身にオイスターソースを足して4時間ほど煮込み、その出汁に肝とレッドカレ―を加えソースとしてあしらう。赤唐辛子以外のスパイスはグリーンカレーとほぼ同じだが、配合が異なるのでまた違った味わいに。肉厚ながらやわらかい、贅沢なアワビを堪能したら、追い酢飯をオーダーしてカレーライスを楽しもう。

タイのウニ

「こちらはタイのウニなんです。珍しいですよね」と笑顔で見せてくれたのが、この箱ウニ。側面には「すがの生うに」と書いてあり、特注なのかを聞くと「箱はそうなりますね。味は実にタイらしいおいしさです。でもそれ以上の種明かしは、ご来店いただいてからのお楽しみということで」とのこと。なお、素材の味をダイレクトに楽しんでほしいという思いから、軍艦ではなく握りで提供しているそうだ。

 

川井さん

まるでクイズのように、とにかくこの寿司にはどんな素材を使っているのか?工夫がされているか?それをお客さん全員で考えることが楽しい。食のエンターテインメント性を感じさせてくれる。

どの品々にも新奇性と創意工夫が施され、おいしさと発見に笑みがこぼれる。“微笑みの国”として親しまれるタイ。そのお国柄まで表現する「鮨 すがひさ」、愛される理由がよくわかる。

握りに込められたオリジナリティーにも驚かされる

主役となる寿司にも当然のごとく驚きの仕掛けが随所に。なお、軸となる酢飯は江戸前の伝統にならった正統派。ササニシキの親世代に当たる、寿司米にも適した宮城県産のササシグレを使い、赤酢を混ぜた合わせ酢で仕上げる。

トムヤム車くん

握りで紹介したい逸品は、川井さんも大絶賛の「トムヤム車くん」。ルックスは車海老であるが、食べてみれば想像していた味と全く違い、菅氏が表現したい全貌が明らかに。その名称にあるように、魅惑的なおいしさで満たされる。

 

川井さん

車海老と酢飯の間にトムヤムのエキスを入れた一品が美味。これは毎回出てきてほしいスペシャリテ的存在。

しばしば世界三大スープに数えられるトムヤムクンだが、タイ語でトムは煮る、ヤムは混ぜる、クンは海老を指す。このレシピに従い、同店では海老の頭を中心にスープを取って煮詰め、レモングラスやカピ(オキアミの発酵調味料)などを混ぜて濃縮。この特製エキスを車海老と酢飯の間に忍ばせることで、不思議ながらも納得できる“変タイ寿司”に昇華している。

グリーンカレー稲荷

そして最後に紹介するのが「グリーンカレー稲荷」。古巣「イムイェム」で愛されたドライグリーンカレーを、稲荷寿司へと再構築した名物の一つだ。酢飯一粒の間に秘められたカレー風味のひき肉が醸し出す、甘辛くて酸っぱい刺激が弾け、余韻にはスパイスやパクチーの爽快感が駆け抜ける。

 

川井さん

毎回土産に買って帰る稲荷寿司。もちろん、これもタイ風でグリーンカレーが使われていてなんともおいしい。今回虎ノ門ヒルズに移転してこれもバージョンアップし、具材にカリカリの豚の皮が使われていて、旨みと食感の良さが以前より増している。

土産は1箱に8個入りで2,200円。また、ネット予約からは3種の稲荷が楽しめる「エスニック稲荷寿司詰め合わせ」を1,650円でテイクアウト販売している。こちらの味はグリーンカレー、ソムタム、ココナッツミルクとなり、火~金の11:00~15:00の受け取り限定だ。

看板

スパイスを駆使する「鮨 すがひさ」では、酒のラインアップも相応の濃醇旨口な個性派ぞろい。例えば「モンスーン」シリーズを有する滋賀の笑四季(えみしき)や、福井の雄・黒龍の貴醸酒など。また、ワインも日本やニューワールドを中心にそろえ、同店ならではのペアリングを提案している。不思議で面白い、ユニークな食体験を求めるなら、ぜひ足を運んでみてほしい。

※価格はすべて税込

文:中山秀明、食べログマガジン編集部 撮影:菊池陽一郎