教えてくれる人

川井 潤
フジテレビ「料理の鉄人」企画ブレーン(1993年~99年)。元(株)博報堂DYメディアパートナーズ。現在は、渋谷区CFO(Chief Food Officer)として渋谷区にあるおいしい店の啓蒙・誘致、区独自の商品プロデュースほか食品関連企業、IT会社、広告代理店などのアドバイザーを務める。滋賀県彦根市、その他エリア等これまでの企画ノウハウを活かして「地域サポート」も行っている。

溝の口の人気寿司店が移転してさらにパワーアップ!

鮮やかな発色の空間は妖艶な個性を放つが「鮨 すがひさ」ならむしろふさわしい。窓の向こうには東京タワーを望む

誇張抜きで、おそらくどこにもない唯一無二のイノベーティブである。それは、江戸前寿司とタイ料理のフュージョンによる「鮨 すがひさ」のこと。“変タイ寿司”と話題を集めてきた同店が2024年1月、川崎・溝の口から東京・虎ノ門へ移転してきた。

ニッチに置かれた「鮨 すがひさ」の表札が目印

場所は、数々の注目店が集結した「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」の4階。移転の経緯は、同日に開業した「鮨 おにかい×2」と親交があったため、隣に居を構えることに。なお、同館のフロア案内などには「鮨 すがひさ」の情報がなく、ある種隠れ家となっている。「鮨 おにかい×2」の隣、と覚えておこう。

 

川井さん

タイ料理のエッセンスを加えたユニークな寿司店が溝の口にあると評判になりはじめた時に初めて訪問。以前からある寿司という概念ではなく、新しいおいしさの世界を自由な発想と楽しさで体感させてくれる店だなと思った。

ユーモアと創意あふれる店主の経歴とは?

店主は菅 正博(かん まさひろ)氏。大阪で生まれ育ち、北海道の酪農学園大学卒業後、青年海外協力隊としてパナマ共和国に2年間着任。帰国後は東京の大手レコード会社とリクルートに勤務し、32歳で川崎にあった有名タイレストラン「イムイェム」に弟子入り。4年間、タイ料理をみっちりと学ぶ。

菅店主は1979年生まれ。キツネのポーズでお稲荷さんを持つ、実にチャーミングで遊び心あふれる職人だ

ここまででもきわめてユニークな経歴だが、包丁使いから徹底的に料理の基礎を学びたいという思いで、短期集中の料理学校「飲食人大学」の寿司マイスター専科へ。そして受講後、東京にある海鮮居酒屋の料理長や、大阪「鮨 千陽」での修業などを経て、2017年に溝の口は久本神社の境内に「鮨 すがひさ」を開業した。

「当初は伝統的な江戸前寿司を提供していました。でもある日、数年来の常連さんから『タイ料理の要素を取り入れた寿司を食べてみたい』という無茶ぶりがあって、僕の方もやる気になっちゃったんですよ」と菅氏は笑う。後日、貸し切りのお試しで披露したところ大評判となり、やがて月に数回の「変タイ鮨コース」へと発展。その噂が口コミで広まっていった。

L字カウンター6席の空間で繰り広げられる、魅惑の“変タイ”スパイス劇場がここに

「タイ料理のエッセンスを用いて、寿司を再構築するイメージですね」と菅氏。酢飯と、タイのスパイスや調味料との調和をはかる。また、酢飯と寿司種の関係性を見つめ直し、新たな発想から美味へとつながる答えを導き出す――。ジョークとともに笑顔を振りまきながら、時に真剣な表情を見せる菅氏の中には、常に未知なる美食への探求心が渦巻いているに違いない。

「お客様が『あれ? なんだろうこの味は』って、一瞬頭が混乱するかもしれないのですが、その驚きをおいしく楽しんでいただけたらうれしいです」。さすがは“変タイ寿司”の作り手、自身も相当な変わり者である。