しっかりと受け継がれたコルシカの味

3代目シェフ、北村 新さん

高校卒業後、イタリアが好きで飲食店勤務が希望だった北村さんは恵比寿、代官山、中目黒の店を食べ歩き、こんなにイタリア料理店がある中で36年も続いている「コルシカ」に、“味だけじゃない、何かがある”と興味を持ちます。すぐに門を叩くも募集していないという理由で入店できませんでしたが、2年後に重本さんから声がかかり入店、「コルシカ」との歩みが始まります。

上から時計回りに「フランス産生ハムとテット・ド・モワンヌチーズ」「鮪のカルパッチョ」「冷たいタンのコルシカ風」「人参のムース」「飯蛸のマスタードソース」

レシピにはオリジナルソースやドレッシングが何種類もあり、それらが味の要だったそう。「本日の『オードブル5品』の中で牛タンに使ったラヴィゴットソースや、鮪に使った玉葱醤油ドレッシングも大人気でした」と北村さん。

重本さん直伝のベシャメルソース

中でもベシャメルソースは「コルシカ」を代表する存在。重本さんが修業先で学んだものを独自に開発しました。ぽってりとしているのになめらか、クリーミーでコクはあるのにくどさがない、どうしたらこんなソースになるのか不思議でなりません。それが50年以上前に作られていたとは!

昔ながらのカレー粉を使う

「カレーってみんな好きでしょ」という重本さんの一言から生まれたこの「コルシカ風ライスグラタン」は、ドライカレーにベシャメルソースをたっぷり、最後にパルメザンチーズを振りかけオーブンで焼きあげます。

「コルシカ風ライスグラタン」1,600円

重本さんの予想通り、このグラタンは誰もがオーダーする超ロングセラーメニューとなりました。中に忍ばせたアサリも名脇役ぶりを発揮、うまみとぷにっとした食感がたまりません。50年経っても食べずにはいられない、永遠不滅の一品です。

ベシャメルソースがとろーり!

なぜ「コルシカ」が愛され、求められるのか?

上質な鮑は臭みがありません

10年間ですべてのポジションを経験し主力となった北村さんは違う世界も知りたいと一旦離れます。イタリアへ行き、先輩である西村隼人さんの店「オステリアドゥエ」の立ち上げにも携わり研鑽を積みます。いよいよ独立準備に入った頃、最後に手伝って欲しいと重本さんから声がかかり5年ぶりに「コルシカ」へ戻ります。

肝ソースには風味付けにアンチョビをプラス

こちらは「エスカルゴの洋酒入りニンニク・バター」をアレンジした当時の裏メニュー。昆布と酒を入れて真空状態にした鮑を湯煎で火入れし、ソテーした椎茸としめじの上に並べ、オリジナルレシピの「ニンニク・バター」をトッピングしてオーブンで焼き色をつけます。周りを鮑の肝ソースで飾り、付け合わせに穴子のエスカベッシュを添えています。上質な鮑の肝は苦みがなく、子供にも好まれる「コルシカ」らしい味わいです。

「イカスミのスパゲッティ」1,800円

オープンから使っていたメニューには前菜13品、スープ6品、サラダ7品、スパゲッテイ15品、ピッザ8品、グラタン7品、パスタ3品、米料理6品、魚料理12品、肉料理23品、パン・ライス4品、デザート3品のトータル107品が載っていました。削除した料理もいくつかありますが、常にこれだけの品数を提供できるように準備するのは難儀なこと。重本さんから「売り切れました」はお客様に失礼だと叱られたし、おまかせコースの常連にはオリジナルソースと食材の組み合わせで同じ料理は出さなかったというエピソードも。

玉葱、ニンニク、トマトで甘みを出したイカスミソース

「離れてみると『コルシカ』のすごさがよくわかるんです。イカスミスパゲッティもイタリアで食べたけれど、やっぱり『コルシカ』はおいしい、誰にも作れないかけがえのない味だと思いました。それに著名な方々もよく来店されていて、僕なんて『テレビに出ている人だ!』と浮き足立ってしまうところ、オーナーは誰にでも一貫した態度なんです。その姿勢も勉強になりました」と北村さんが言うように、魅力は料理だけにあらず、和やかさと活気に満ちた空気感も特別でした。

イタリア語で「〜と共に」という意味のconの発音から紺色を基調にした内装

そんなレジェンドな店を復活させることとなり「北村ならコルシカの名前を譲るよ」と背中を押してもらったとはいえ、内装は変わり、重本さんも漆間さんも篠田さんもいない今、果たして「コルシカ」を名乗っていいのかというジレンマがあったそう。でも予約が後を断たないのはお客さんがここに「コルシカ」を実感している証拠です。

新たに設けた個室

電話番号の末尾を1970(=以前の電話番号)ではなく、ここからまた50年がんばろうという思いを込めて2074にした北村さん。イタリアで修業したシェフが本場の料理を提供することが普通になった現在、「コルシカ」の料理はイタリア料理とは言えないかもしれませんが、人々に愛された味ということは50年の歴史が物語ります。その味を継承した北村さんがさらに進化させて未来へと繋ぐ。昔を知る人からも知らない人からも愛されていくに違いありません。

※価格はすべて税込


文:高橋綾子、食べログマガジン編集部 撮影:溝口智彦