薪火と発酵、器の奥深さに魅せられて

「SHIZEN」内観。自然を感じさせながら、モダンなデザインの内装

本田:発酵調味料はいつぐらいからやり始めたの?

國居:2020年ぐらいですかね。「Maruta」でいろいろ学びながら、プライベートでもどんどん作っていました。発酵する場所がなくなって、外で家を借りたぐらいです。

本田:まるで発酵工房だね。何ではまっちゃったの?

國居:個人的にはコントロールできないところに魅力があると思っています。既製品だと味が一定で、料理の味もイメージどおりになる。けれど、発酵は完全に思っていた味にはならない。それが良くないときもあるんですけど、真逆も結構あって、想像を超えるおいしさもある。自分ができないことを別の生命体がやっているのをすごくおもしろく感じました。

本田:全然使えないものができあがるときもあるんだ。

國居:始めたばかりのとき、単に物を腐らせていただけということもありました。最近は、食べられないところまで失敗することはなくなりました。

本田:どうやって勉強したの?

國居:「Maruta」で学んだことがベースです。ちょうど僕と同じぐらいに「Maruta」に入った料理人の方が北欧から帰ってきたばかりで、ヨーロッパでいろんな発酵の勉強をされていたんです。その人に手取り足取りいろいろ教えてもらいました。本も読みました。「Noma」が発酵の本を出版していて、すごく勉強になりました。

店内にも発酵食材や調味料がディスプレイされている

本田:日本の地方には生活から出てきたリアルな発酵料理や食材ってあるじゃない? そういうのを見たり、食べに行ったりとかはしているの?

國居:レストランはありますが、製造元に直接行ったりとかはないですね。

本田:新潟の「里山十帖」と岩手の「とおの屋 要」。この2つを見たらおもしろいと思う。例えば「里山十帖」は限界集落みたいな場所にあって、豪雪地帯だから食材なんかない。それで自分たちで食材を何とかするしかない。生活の知恵から出てきた発酵ってすごくおもしろい。リアルだからさ。調味料というよりは、生きるために作らなきゃいけない。「とおの屋 要」もそう。「里山十帖」でコラボイベントがあったときに2人が同じように仕込んでも全然違うものができると言ってた。

國居:「とおの屋 要」は去年、行ったんですけど、「里山十帖」行ってみます。冬に行った方がおもしろそうですね。料理や発酵に対する発想の順番が僕とは違うんだと思います。

本田:それしかないとこから生まれているから。気づいたらおいしいものができていた。

國居:理想的な流れというか、本来の形ですよね。

本田:発酵ものは調味料以外には、どういう感じに使おうと思っているの?

國居:フードロスを無くすことを考えています。積極的に取り組んでいるというよりは、結果として食材としての魅力先行でしてみた、という程度なんですけど。規格に合わなくて捨てられるような果物や野菜を発酵させるとすごくおもしろい。熟す前の青イチゴとかを発酵させて、アクセントみたいに料理のいろんなパーツとして使っています。

本田:発酵ものは何種類ぐらいあるの?

國居:50〜60種類は確実にあると思います。目的なくとりあえず発酵させて、できあがったものから料理を作るスタイルが多いです。

本田:とりあえず作ってみる。

國居:おもしろそうだと思ったら、発酵させていることが多いですね。

本田:どこかで使えるみたいな。

國居:たいてい、どこかで使えるのが不思議だなと思います。食材っていろんな個性がある。発酵だと季節が違うものを一皿の中で並べることができるじゃないですか。それも魅力だなと思います。

店内で明々と燃える薪火。その炎を見ているだけでいやされる

本田:薪はどう? 薪って難しいじゃん。使い始めて何年経つんだっけ。

國居:2年半ぐらいです。薪は火の変化がすごく激しいので、そこがおもしろいと思っていることの一つです。お客様に聞かれると、炭のようにバチッと焼くのに対して、オーブンまではいかないですけど、包み込んで柔らかく火を入れていくと表現しています。完全には扱い切れなくて、熱が流動的であるからこそ、いろんな発見があって、そこがすごく楽しい。

本田:そもそも、使う薪によっても違うしね。季節によっても違う。

國居:薪を変えるだけで、香りが変わるのも魅力的です。

本田:薪は何を使ってるの?

國居:ブナとサクラが多いですね。あとは剪定したブドウの木。

本田:ブドウの木はどう? 使ってみて。

國居:個人的には香りが甘いと感じていて。わかる人、どれだけいるんだろうというレベルですけど。ただ、細いじゃないですか。燃えちゃうのも早くて、ブドウの木だけで熱源をキープするのは難しいです。だから香り付けで使っています。

本田:いろいろやってみないとわからないよね。

國居:他の木でもおもしろいものがいっぱいあるんだろうなと思います。

本田:薪鳥新神戸」って行ったことある? おもしろいよ。焼き鳥を薪でやる。ある意味クレイジーだし、大変だと思う。

國居:相当クレイジーですよね。身が小さいから、本当に難しいだろうなと思います。疋田さん(「薪鳥新神戸」シェフ)は一度、来てくださったことがあります。

本田:これまでの焼き鳥を変えるよね。すごくジューシーな感じに仕上がる。香りもそうだけど、あのジューシーさは炭だと出てこない。今、薪ブームだから、まねして薪をやる人たちがいるけど、なかなか難しいよね。流行りで手を出したら大変なことになる。薪の設備を導入したら、他には使えない。新しいものが生まれるきっかけにはなると思うんだけど。

國居:いろんな人が使えば、新しいスタイルが出てくると思うんです。難しいとは思うんですけど、どんどん増えて欲しいなと思っています。

修業時代から集めていたという器にも注目

本田:酒井商会のヒデ(酒井 英彰さん)から「國居は働く前から器を相当集めている」と聞いた。京都だと少しはいるかもしれないけど、東京で若いときから器を集めている人はなかなかいない。面白いなと思って。集め始めたのって何歳ぐらい?

國居:ちょうど20歳です。「小室」で修業を始めた、一年目ぐらいのときからです。

本田:なんでまた、集めようと思うようになったの?

國居:やっぱり親方の影響が強くて。器がすごく好きな人なんです。年に数回、金沢とか地方に行くんですけど、そこで親方と一緒に器屋や作家さんの所に行く機会がありました。その時、いいなと思ったのを勢いで買ったのがきっかけですね。

本田:給料分、全部、払っちゃうみたいな。

國居:最初に買った器が古伊万里で、今でも使っているんですけど、当時で自分の給料より高い値段でした。結構、震えましたね。生活していけるかなという不安もありながら、そういうことを繰り返していたら、ちょっとずつ感覚が麻痺して、欲しいものは買うようになりました。未だに器は大好きで、いいなと思ったら買っちゃいます。

本田:20歳から集め始めて、楽しくなっちゃった。

國居:完全に楽しくなりましたね。僕の中では料理は器とセットというのがすごく強い。料理を考えるとき、一緒に器も考えています。料理している感覚で器を買っているかもしれないですね。

本田:器はどうやって勉強したの?

國居:最初は完全に親方の見よう見まねです。本を読んで勉強することもあります。そこから自分の色をつけたいなと思うようになって、最初の頃は、よく失敗しました。最近は、ようやく少しずつ自分の形だとか、好みがわかってきたところです。

本田:器にハマるかどうかは分かれるよね。忙しくてそんな暇ないし、疲れているから勉強するのが嫌みたいな人もいるじゃない。

國居:僕の場合、器は仕事なんですけど、遊びと趣味の延長にもなっています。楽しくてしょうがない。昔から好きになったらとことんハマる気質があるようです。ハマると抜け方がわからなくなるぐらい。偏っちゃうことが多いかもしれないですね。