教えてくれる人

大木淳夫

「東京最高のレストラン」編集長 
1965年東京生まれ。ぴあ株式会社入社後、日本初のプロによる唯一の実名評価本「東京最高のレストラン」編集長を2001年の創刊より務めている。その他の編集作品に「キャリア不要の時代 僕が飲食店で成功を続ける理由」(堀江貴文)、「新時代の江戸前鮨がわかる本」(早川光)、「にっぽん氷の図鑑」(原田泉)、「東京とんかつ会議」(山本益博、マッキー牧元、河田剛)、「一食入魂」(小山薫堂)、「いまどき真っ当な料理店」(田中康夫)など。 
好きなジャンルは寿司とフレンチ。現在は、食べログ「グルメ著名人」としても活動中。2018年1月に発足した「日本ガストロノミー協会」理事も務める。最新刊「東京最高のレストラン2024」が発売中。

常連になりたいイタリアン、バル復活のスペイン料理店、和漢洋才キュイジーヌ

今月は名店の流れを感じる注目店がオープンしています。

広島食材で作るシチリア料理店

Tomopu
「TRE CULI」前菜の盛り合わせ   出典:Tomopuさん

まずは2024年2月1日、東銀座にオープンしたイタリアン「TRE CULI(トレクーリ)」。広島出身で、修業先のシチリア地方が風土も気質も広島と似ていると感じた33歳の吉村康平シェフが、広島の食材を使って作るシチリア料理店です。なんとも居心地がいいなと思ったら、相棒の31歳、長友琢磨シェフ共々、白金「ロッツォシチリア」でサービスの天才・阿部努オーナーの薫陶を受けていました。それゆえ、料理は6,500円、8,500円、9,500円のコースのみとはいえ、客とコミュニケーションを取りながら、アレンジも自在。訪れた日はコース後にパスタの2皿目を作ってもらい、食後酒もゆっくり楽しみました。上海や深圳でも人気イタリアンを作り上げた吉村シェフと、中村嘉倫オーナーシェフのもと、ロッツォで活躍した長友シェフの料理のおいしさは言うまでもありません。毎日忙しなく過ごしている人はぜひこちらでリセットを。

スペイン料理の名店が移転リニューアル

「ミネバル」
「ミネバル」   写真:お店から

スペイン料理の名店として知られる神泉の「ミネバル」も2月1日、移転リニューアルオープンです。もともとは“峯義博シェフのバル”という店名通りバルでしたが、その後に先鋭的なレストランに。そして、今回の移転でバルが復活。ふらりと1階のバルに行ってみたら、ソーセージのモルシージャがやたらとうまく、これは2階のレストランに行かねばと改めて予約してうかがいました。

パエリア
パエリア   写真:お店から

12,100円のコースは、十数年来のスペシャリテである「サーモンプディング」など、モダンな技術でイノヴェーティブな皿を繰り出しつつ、「でも日本のスペイン料理店ですから」と、最後はパエリア(これが絶品)で締められ、第一線に立ち続けるシェフの矜持を感じました。最近少し存在感の薄いシェリー酒もこちらではたっぷり味わえます。

渋谷にオープンした和“漢”洋才キュイジーヌ

「MOSS CROSS TOKYO」SHOKADO-9
「MOSS CROSS TOKYO」SHOKADO-9   写真:お店から

2月26日、渋谷にオープンした「MOSS CROSS TOKYO」の代表取締役でディレクターの井上翔輝さんは、ニューヨークの「バスタパスタ」出身。「RESTAURANT-I」の総支配人も務めていました。お店はSAKURAタワーに開業した長期滞在型ホテル「ハイアット ハウス 東京 渋谷」の16階。渋谷エリアを一望できる開放的な店内で、テーマは和“漢”洋才キュイジーヌです。象徴的なのが9皿の小鉢が詰まった「SHOKADO-9」でしょう。フレンチの技法で和や中華の食材、エッセンスを表現していて、バラエティ豊か。会話が弾みます。締めでいただいた麻婆豆腐はサルシッチャとトマト、ターメリックライスという構成で爽やかな食後感でした。

有名料理人による新しいラーメンの提案

ラーメン界はかの有名な「1,000円の壁」が緩くなったからか、1杯3,500円の「麺や紀茂登」など、別ジャンルからの参入や有料の優先予約サービスの導入といった、新しい動きが活発になっているようです。

海老ワンタンがおいしい昼間だけのラーメン店

そんな中、食通の間で話題なのが2月1日にオープンした「らぁー麺なかじま」。巨大グループでありながら、ひたすらオリジナル路線を突き進む「際コーポレーション」の総帥・中島武社長自らが腕を振るう「食十二ヶ月 中島武 西麻布」が、昼だけラーメン店に。

ぴーたんたん
「らぁー麺なかじま」上湯らぁー麺 特製   出典:ぴーたんたんさん

海老ワンタン、叉焼、どんこの入った1,800円の「上湯らぁー麺 特製」の海老ワンタンは特に忘れがたい味。海老の大小のぶつ切りとペーストした身を包んでいて、3種の食感を味わえます。あまりになめらかな小麦と塩だけの麺も含め、どこのマネでもなく、ひたすら美味を追求するという中島社長ならではの料理で、まさにこちらでしか味わえない一杯です。

海老エキスたっぷりのつけ麺

同じく2月1日、表参道には「ラーメンロックマウンテン」がオープンです。こちらは「The Tabelog Award 2024」でGold受賞した、西麻布「グルマンディーズ」の長谷川北斗シェフが監修。

「ラーメンロックマウンテン」濃厚海老つけ麺
「ラーメンロックマウンテン」濃厚海老つけ麺   写真:お店から

看板である「特製濃厚海老カレーつけ麺」は1,780円。1,200円の「濃厚海老つけ麺」を注文しましたが、つけ汁は苦みを含め、まさに海老のエキス全開の味。麺は浅草開化楼だそうで、この太麺が存在感抜群でおいしくいただけました。うまみを味わえるスープ割りはぜひ。

繁華街の町中華、女性に大人気のひとり火鍋、そして今月もラクサが

ジャンボシュウマイがウリの町中華

「chinese kitchen MIDORI」ジャンボシュウマイ
「chinese kitchen MIDORI」ジャンボシュウマイ   写真:お店から

町中華系では1月11日、日本橋に「chinese kitchen MIDORI」がオープンしています。ジャンボ餃子で有名だったものの、昨年11月に閉店した「リトル泰興楼 Fei店」で12年勤務した料理長と店長が同じ場所で独立しました。こちらのウリは餃子ではなく、シュウマイ。肉と玉ねぎがたっぷりで、小さなやわらかいハンバーグとも言いたくなるほど。

「chinese kitchen MIDORI」ダーロー麺 写真:大木淳夫

ランチの行列に並んで、泰興楼でも名物のダーロー麺とのセットを堪能しましたが、食べログでレビュアーさんの書き込みを読むと、テーブル上に「C八醤(シー・パ-・ジャン)」という特製調味料があったもよう。次回は忘れずに使わなくては。

コンセプトは中国香港×昭和の町中華

マーコラーメン
「赤坂中華わんたん亭」わんたん麺(塩)   出典:マーコラーメンさん

2月16日には赤坂の一ツ木通り沿いに「赤坂中華わんたん亭」がオープンしました。「175°DENO担担麺」の新業態で、コンセプトは中国香港×昭和の町中華。店内の雰囲気はまさにその世界観で統一されています。赤坂らしく多種多様な職業・年齢の人たちが次々と来店。テーブルで酒と料理を楽しむグループ、カウンターでわんたん麺を味わう一人客などで早くも賑わっていました。メインのわんたんはスルッと口に吸い込まれ、口中でたっぷりとうまみを味わえます。卓上の調味料も多彩なのでお楽しみください。ただ、現在は「研修営業中」とのことで、メニューはだいぶ絞られています。本オープンは5月1日の予定です。

自分好みにできる火鍋

「烏蝿館 渋谷店」
「烏蝿館 渋谷店」   写真:お店から

みなさん「冒菜(マオツァイ)」はご存じでしょうか? ひとりで楽しむ火鍋という意味で中国では女性を中心に大人気らしく、その専門店が1月21日、 渋谷にオープンした「烏蝿館(ウインカン) 渋谷店」です。道玄坂の途中にあって、狭い入口からは考えられないほど店内は広々としています。まず肉、魚、野菜など40種ほどある副菜から4~8品を選択。次はラーメン、春雨、ビーフン、ご飯などから1種。そして麻辣赤、酸辣、キノコなどからスープを選んで、自分好みの一杯を作ってもらいます。これが楽しい。麻辣スープの「少辛」を選びましたが汗が吹き出しました。確かに女性ひとり客も多く、体に良さそうです。

カフェとしても使えるシンガポール料理店

個人的に大好きな「ラクサ」のお店もオープンです。2月17日、大行列店「I'm donut ? 渋谷店」の隣にオープンしたのが、シンガポール料理店「SINKIES(シンキーズ)」。

「SINKIES」ナシレマッ
「SINKIES」ナシレマッ   写真:お店から

ゆったりした店内で、マレーシアのソウルフード「ナシレマッ」や「ミーソト」も楽しめ、さらにカフェとしても使えます。デザートの「アガーアガー」、気になりました。

「SINKIES」
「SINKIES」   写真:お店から

オーナーはシンガポール人で、ラクサの麺はイエローヌードルとビーフンの2種が一緒に。現地ではこのパターンもよくあるそうです。スープはバランスが良く、気が付けば飲み干していました。