中原 健太郎氏のおすすめ4軒

中原氏が教えてくれたのは寿司、そば、天ぷらの4軒。長い付き合いの店が多く、各店の店主との親しさもうかがえる。家族やスタッフ、料理人仲間、大切なお客様を連れていく味な「行きつけ」とは?

ディナーのおすすめ①鮨処福丸

「10代後半の子どもが幼稚園の頃から通っています」とディナーの1軒目に挙げてくれたのは根津駅至近、不忍通り沿いにある「鮨処福丸」。多くの寿司職人を輩出した「高勢」(現在は閉店)出身の店主が営む店だ。

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寿司店らしい端正な店構え   出典:池之端さん

「お任せコースで提供する寿司店が多い昨今、好きなネタを何貫でいくらというような“町寿司”が楽しめるお店。僕は昭和の人間なので、寿司屋ってこうだよねというスタイルを、今も貫かれているところがいいですね」と中原氏。

「気さくな大将で、子どもたちが小さい頃は、何を何貫食べたいか紙に書いてごらんとおっしゃって。昔ながらの温かい雰囲気があります」

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シャリも大きめで満腹になる   出典:shimp75さん

中原氏が注文するのは、黒板に記されているその時々のメニュー。「季節ものや光りもの、貝類、巻物、少しアレンジを加えたものなど各種そろって、値段も実に良心的です」

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鉄火巻きや玉子焼きも   出典:shimp75さん

寿司のほか季節の一品料理、酒類も一通りそろい、カウンター席のほかテーブル席が2つあり、使い勝手がよく「家族はもちろん、料理人仲間や寿司職人を連れていくこともありますよ」と、お気に入りなのがうかがえる。

・にぎり各種、一品料理 予算:~10,000円

ディナーのおすすめ②日本橋蛎殻町 すぎた

「日本橋の名店『都寿司』からの付き合いで、現在地に出店してからも月一で通わせてもらっています」とディナーの2軒目に教えてくれたのは、「日本橋蛎殻町すぎた」。「The Tabelog Award」で毎年Goldに輝く名店中の名店で、ミシュランでは二つ星を獲得している。

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仕事で中原氏と一緒に海外に行くなど親交が深い店の大将・杉田孝明氏   出典:pateknautilus40さん

月に4、5日しか休日がないほど多忙な中原氏が毎月出かけるのは、「杉田氏に会ってうまい寿司を食べるため。職人としての技術と店の空気感も素晴らしく、大切なお客様や家族との時間にも使わせてもらっています」。

ジャンルは違えど同じ飲食業、同じ親方を務める立場でもあり、杉田氏とさまざまな話をするのも大切な時間になっているという。

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大きさや皮の厚みで切り方を変える「小肌」は杉田氏の十八番   出典:bottanさん

メニューはお任せコースだが、最初に必ず出てくるのが「小肌」。青魚の扱いに定評のある杉田氏の代名詞で、シャリも必ず杉田氏が炊く。「通常は1貫ですが、僕が小肌が好きなので2貫出していただいています。この小肌が、いよいよこれから始まると強烈にマインドを変えてくれるんです」

虎太郎がゆく
中原氏が絶賛する「あん肝」と「陽乃鳥」のペアリング   出典:虎太郎がゆくさん

中原氏が「初めて食べたとき涙が出るほど感動しました」と語るのは、とろける舌ざわりの「あん肝」と、秋田の名醸蔵「新政(あらまさ)」の貴醸酒(きじょうしゅ、水の代わりに酒で仕込んだ酒)「陽乃鳥(ひのとり)」のペアリング。

ていねいな下ごしらえを施し、基本の調味料で煮付けたあん肝を口に含み、そこに「陽乃鳥」を流し込むことで訪れる“口福”と“余韻”は、一度でも体験すると鮮烈な印象を残し、忘れられない味になる。

寿司とつまみに合う日本酒も豊富で、ハーフや1合でのオーダーも可能。飲めない人と行っても支障ない。

・おまかせコース、日本酒 予算:30,000円~

ランチのおすすめ①蕎麦 松風(まつかぜ)

ランチの1軒目に挙げてくれたのは、地下鉄根津駅と千駄木駅のほぼ中間、不忍通り沿いに2018年にオープンした「蕎麦 松風」。「若い大将がやっているのですが、オペレーションもとてもこなれていて、そばもつまみなどの料理も充実しています」と中原氏。

ゆってぃ4126
木を多用した、すっきりしたデザインの店構え   出典:ゆってぃ4126さん

店は、そば、うどんの実力店が多く集まる谷根千エリアにあるのだが、地元のおいしい店を知りつくした中原氏が推薦するのだから間違いない。

俊太朗
店頭の石臼で自家製粉したそば粉で打つ十割そばを提供   出典:俊太朗さん

「そばは石臼でひいていて、使用するそばの産地などもわかるようになっています」と中原氏。「せいろ」や「かけ」などのシンプルなそばもあるが、「季節の具材をのせた変わり種的なそばが豊富でそそられます。つまみなどの料理も抜群にうまくて、大将は料理もかなりの腕前だと思います」。

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大きな牡蠣がごろごろ入った「牡蠣そば」も絶品   出典:JoeColombiaさん

冬なら「芹入り刻み鴨南蛮そば 揚げ餅入り」や「牡蠣そば」、夏なら「鶏天パクチーおろしそば」など、季節ごとのそばのラインアップも楽しく、「僕は胃袋が大きいので、いつもせいろなどのシンプルなそばと季節のそばなど温も冷も両方、2本立てで平らげます」と中原氏。

和歌山、秋田、京都などの銘柄酒、「焼きみそ」や「酒盗マスカルポーネ(庄内麩添え)」「わさびの茎の醤油漬」などの肴も豊富にそろい、「カウンター席に座って飲みながら小料理を楽しみ、最後にそばで〆る、こういう過ごし方がどこよりも楽しめる一軒ですね」と話すのもうなずける。

・せいろ、牡蠣そば 予算:3,100円~

ランチのおすすめ②土手の伊勢屋(どてのいせや)

「3代目の無口な大将と日本舞踊をなさる大女将が切り盛りしていた頃から通っています」とランチの2軒目に教えてくれたのは、今は4代目、1889(明治22)年創業の老舗天丼屋「土手の伊勢屋」。

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1927(昭和2)年建築の入母屋造りの建造物は登録有形文化財   出典:あだ名が食べログです( ̄∇ ̄)さん

空襲で焼け残った木造建築が見事で、ヒノキやサクラ、スギなどの名木が使われた建物は、国の登録有形文化財に指定。そこだけ時が止まったようなノスタルジックな雰囲気に浸ることができる。

「継承」が大事と考える中原氏、「おいしい天ぷらを揚げる手法を編み出しながらも高らかにうたわず、カスタマイズはしても、よい部分はしっかり継承している数少ないお店のひとつ。僕らも見習わないと、と思うところがありますね」。

飴色のテーブルや椅子、柱時計や年代物の広告などレトロな雰囲気が漂う店内
飴色のテーブルや椅子、柱時計や年代物の広告などレトロな雰囲気が漂う店内   写真:お店から

「行くときは、いつも1時間は並ぶ覚悟です」と中原氏。「注文が出てくるまでも多少待ちますが、天丼ですから時間がかかるのは当たり前。それだけ期待もふくらみます」

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天丼「ハ」の大盛りと「なめこ椀」が中原氏のお気に入り   出典:ryoでぶっちょはらーでーるさん

天丼は「イ」「ロ」「ハ」の3種類。もっともボリュームがあるのは「ハ」。店内水槽で活かした穴子を朝〆して揚げた「穴子」に小海老のかき揚げ、海老1本、旬の魚、野菜3種の天ぷらを盛りつけた、「土手の伊勢屋」の集大成だ。

「頼むのはいつも天丼『ハ』の大盛り一択。お新香を別皿でたのんでつまみながら待ちます。お椀はお味噌汁やお吸い物もありますが『なめこ椀』で決まりです」と中原氏。しかも2杯いくときもあるのだとか。焼肉界のレジェンドは、食の楽しみ方も豪快だ。

・天丼「ハ」、お新香、なめこ椀 ~4,000円

※価格はすべて税込です。

取材・文:池田実香(フリート)