おしゃれフードトレンドを追え! Vol.12

あまのじゃくなおしゃれ人がホッとする、パリを感じるビストロへ

着るものはみんなと同じは嫌!でもレストランはみんなと同じだと安心

東京には、なぜかファッション系の人で賑わうビストロがある。それらは通称「ナイショ話ができない店」と言われ、店内を見渡せば知り合いや顔見知りだらけだ。スタイリストのAさんがいれば、アパレル企業のB社長も、ファッション雑誌エディターのCさんも、人気モデルのDさんも、と同業者が小さな店にひしめき合い、誰かの悪口や会社の噂を話せば翌日には業界中に知れ渡るといった感じなのだ。それなのに、やっぱりファッション業界人達は同業者と固まるのが安心。「昨日はあの人とあの人が一緒にいたね。新しいプロジェクトやるのかな?」なんて話で翌日また盛り上がる。ファッション業界は、他業種と比べごく少人数の狭~い世界。だからこそのコネ社会で、誰が誰を知っていて誰と繋がってるということが大切な、ある意味保守的な信用社会だ。だからこそ、ファッション系お墨付きの「間違いのない店」が重宝がられる。

 

そんなわけで、店を決める時には「じゃあholoholoでいい?」「いいね! 久しぶりだし」といった具合に誰もが知っているビストロの名前が挙がる。特に、2〜3名の少人数で集まるときは、おしゃれビストロが重宝がられる。どの店もこぢんまりとしてほっこり和む雰囲気がいい。体に優しいビオワインが出てきたり、黒板に書かれたメニューは日本語&フレンチでカッコよかったりとオシャレ人が安心するのも当然だ。お料理も出張先のパリで食べている馴染みの本場風フレンチで、壁にはフランス語の落書き、店内のBGMはほんのりかすかに、あるいは本場パリっぽく無音。ざわざわとした人々の会話と食器の音、厨房の音が耳に心地よい。

 

ファッション業界で働くなら、年に2回のパリコレ通いはステイタスであり、一人前の証。私も20代後半で初めてパリコレに行ったときにはうれしかった。パリ出張の先輩たちが馴染みのカフェやビストロで片言のフランス語でメニューを頼む姿を、憧れと尊敬の眼差しで見つめていたことを覚えている。そんなパリを思い出させてくれるような店が、ファッション系御用達ビストロとして知られている。モードが好きなおしゃれ人たちだが、レストラン選びは仲間と同じが安心、というある意味コンサバな感覚をもっているのだ。

今さら知らないとは言えないファッション系御用達ビストロ

出典:みるみんくさん

出典:みるみんくさん

 

まずは南青山のホロホロ。ファッションの聖地表参道の裏道にあるビストロは、蔦のからまる外観がひっそりと隠れ家的な雰囲気。中に入ると、黄色い壁に雰囲気ある額縁の鏡が所々に飾られて、大きな窓から見える庭からは緑が見えてリラックスする。提供されるのは、丁寧に作られた優しい味のフレンチ。アラカルトで頼むことが多く、根セロリとリンゴのサラダ、クレソンとマッシュルームのサラダのようなナチュラルな味わいの前菜や、豚バラのコンフィと大根と春菊やトリッパのトマト煮込みのような優しい煮込み料理も親しみやすいメニューだ。もちろん、定番のリエットやキッシュなどのおつまみも絶品。元スタイリストの店主を慕って場所柄ファッション系の常連が多いようだが、人気の理由は味と雰囲気だけではない。お肉の待ち時間に「お待ちの間にチーズでも?」とサービスしてくれたり、外までお見送りしてくれたり、行く度にそのおもてなしに心温まる。

 

ところで、これだけは知っておきたいビストロワードをご存じだろうか? 全部ご存じなら立派なパリ系の人としてオシャレビストロでも歓迎されることだろう。パリ出張に行ってるのかな?という“慣れてる感”を醸し出してくれる。

 

〈慣れてる風ビストロキーワード〉

・リエット

・キャロットラペ

・ポワロー(ポロ葱。加熱するととろーり甘くて美味)
・コンフィ(鴨肉や鶏肉、豚肉などに塩をすり込んでオイルの中で低音でじっくり加熱した料理)
・ソシソン(ドライソーセージ。正式名はソシソン・セック)
・「ビオですか?」(この一言でワインに詳しいかのようなアピールができる)
連日行列ができているアヒルストアは、カウンター席だけの長細い小さな店。自家製パンがとにかく美味で、そのモチモチしっとりしたパンと爽やかなビオワインがあれば友達との会話も弾む。それにアボカドとタコのサラダ(熟したアボカドと柔らかいタコにガーリックが効いたソース)、ほうれん草のオムレツ(ビッグサイズ、ほとんどほうれん草)などカジュアルな料理はどれも気が利いていて毎日でも食べたい味だ。壁に書かれた落書き、窓際に並べられた空ワインのボトルなどどこまでも気取ってなくてかわいい、常連になりたい店だ。元来ビストロとは、カウンターでワインを一杯やりながら待ち合わせしたり仲間と喋ったりする、とても庶民的な飲み屋のこと。アヒルストアのカウンターでちょっとつまみながらワインを飲んでいると、そんな本来あるべきビストロの姿が見えてくる。

界隈で一際“ここだけパリ”感が高いのが代々木八幡のル・キャバレ。お店は小さめでテーブルが10人も入ればいっぱいだ。カウンター越しに見えるキッチン、生のマッシュルームのサラダ、イチゴとブッラータが人気で食事に合うビオワインを的確に選んでくれる。ニシンはほどよくヴィネガーが効いてフレッシュ、鴨はしっとり柔らかく焼けており、添えられたヴィネガー風味のポワローはとろーり甘い。シンプルで飾り気のない料理とちょっと珍しく美味しいワインの数々は地元の常連客に愛され続けている。料理やワインの説明、オススメの提案がテキパキと的確でいい! 本場フランスを忠実に再現されていて、パリ出張に行かなくなった私にとっては懐かしくてセンチメンタルな気分になる店だ。
出典:bottanさん
出典:bottanさん
近頃おしゃれなショップやギャラリーが増えて賑やかなイースト東京。昨年の春、浅草橋にオープンした小さなビストロがファッション誌編集者たちの間で流行っているそうだ。シェフ一人がきりもりする10席のみのその店の名は「ペタンク」。ビオワインのセレクションが多く、料理はチューリップ唐揚げ、ウフマヨ、ハンバーグなど男性ウケしやすいのが特徴。予約しないとすぐに満席になるところも、レア度高くてポイントが高い。土日は3時から営業しているから、唐揚げつまみにワインなんて、昼飲みには最高だ。
みんなと同じ服は着たくないけど、みんなと同じお店に行きたい。それがトレンドを大切にするオシャレ業界の人々。みんなが行ってる店に「実は行ったことない」なんて言いにくい! さあまだ行ってない方は、今のうちにこっそり行っておこう。どこも気さくてカジュアルな、ワイン居酒屋なのだから。