毎日食べる「ランチ」にどれだけ情熱を注げるか。それが人生の幸福度を左右すると信じて疑わない、編集部員や食いしん坊ライターによるランチ連載。話題の新店から老舗まで、おすすめのデイリーランチをご紹介!

〈ニュースなランチ〉

教えてくれる人

山本憲資
Sumally Founder&CEO。1981年生まれ。大学卒業後、広告代理店を経て雑誌『GQ JAPAN』の編集者に。テック系からライフスタイル、ファッションまで幅広いジャンルの企画を担当。コンデナストを退職後、Sumallyを起業、2023年10月末に代表を退任し顧問に就任。食だけでなく、アートやクラシック音楽への造詣も深い。

今年9月にリニューアルした、趣ある店構え

名店の気品が漂う外観。上質だが、潔いほどシンプルでさりげない

この秋にリニューアルを果たし、フランス人デザイナーの手で美しく生まれ変わった「乃木坂 しん」。今回紹介する「鰻の刻(うのとき)」は、その昼の部の別店としてオープンした。昼だけの営業で10食限定、鰻をメインにした会席料理のコースを出す。

店の玄関は、リニューアルで内扉を作り少し変化を加えた。入り口をくぐって一歩入ると、いったんスッと暗くなり、改めて内扉を開けて廊下へと出る。この玄関の設えは、日常から一呼吸おいて、食事に備える気持ちに切り替えて欲しいと作られたものだ。ランチ利用でも、これなら一瞬で日常から脱却できるのではないだろうか。

さらに廊下を進み、一文字のカウンターにたどりつくと、そこが「鰻の刻」の舞台となる。

新しくなったカウンター。右手の障子を開くと奥にある隠れカウンターがのぞける

若き店主が繰り出す極上の鰻コースとは?

扱うのは「天草藍うなぎ」という熊本県天草の澄んだ海水で育てられた特別な鰻だ。この鰻との出会いが、まさに「鰻の刻」オープンのきっかけになったという。「天草藍うなぎ」を主役に「乃木坂 しん」らしいアプローチを考えた時、鰻を使った会席料理のコースという発想が誕生したという。

「乃木坂 しん」では店主・石田伸二さんの片腕を務める河村勇作さん

「淡水で育てる通常の養殖鰻と違って『天草藍うなぎ』は泥臭さが全くありません。その分、旨みが強く皮がしっかりとしているのが特徴です。そのおいしさを引き出していきたい」というのは「鰻の刻」の店主を任された河村さん。「乃木坂 しん」の厨房でも活躍する若手料理人だ。

会席料理×鰻の極上の掛け合わせの「会食コース」を全部見せ!

「会席コース」8,800円は1日10食限定。前菜、お造り、お椀、炊きもの、食事、デザートという会席仕立てで、鰻ざくや蒲焼きなど、鰻料理がたっぷり組み込まれている。和食で鰻を扱うことはあっても、コースの主役にするのはありそうでなかった試み。河村さんの若い感性で、これをどう仕掛けるのかがこの店の見どころでもある。

本日の先付「翡翠なす、かにとゆり根の白和え」

前菜には定番の鰻ざくや鰻巻きが登場。鰻専門店でもお馴染みの料理だが、日本料理の技法を生かし、一味違う上品な料理に高めている。お浸しは季節の到来を告げる前菜であり、また脂の強い鰻料理の秀逸な口直しとしての役目も果たす。

前菜三種「鰻ざく、鰻巻き、菊菜のお浸し」

コースのお椀は鰻尽くし。鰻特有のあの泥臭さやにおいがなく、きれいな味わいの「天草藍うなぎ」だから、上品なだしを使ったお椀に使っても違和感がない。ふんわりとした鰻の身だけでなく、皮や肝も入ることで鰻を丸ごと味わうような逸品だ。

鰻の旨みを味わう「鰻椀」

「乃木坂 しん」と厨房や仕入れを共有しているのもこの店の強み。魚介にしても、野菜にしても間違いのない上質なものを使うことができる。星付き日本料理店と肩を並べる盛り付けや器の景色も見ごたえがあるのだ。

季節のお造り2種。この日は鯛と鰹

何気ない炊きものが、鰻コースの途中でホッと一息つかせてくれる。インパクトの強い鰻と、こうした上品な会席料理との緩急をつけた流れが飽きさせずに食べさせる。

炊き合わせ「海老芋、にんじん、小松菜」