先が見えない時代に自然体で世界にはばたく

本田:今後、どうしたいとかあるの?

藤尾:ないです。

本田:英語もできて、料理もできたら、海外行こうとかっていうのはない? サンペレ(サンペレグリノ ヤングシェフ)の結果もあるし、勝負しようと思えば、やりやすい環境がある。

藤尾:それはあります。いつか海外でというのはありますね。でも、それぐらいです。

本田:あとは自由にやりたい。1カ所にとどまるのではなくて。

藤尾:そうですね。

本田:シェフもそれでいいと思うんだけどね。いろんなやり方があるじゃん。店舗を持ってずっとやるっていう人もいれば、今は、もはや店も持たない人も増えている。店を持っても、定期的にやらないとかも最近増えている。店を持つと、週5、6日は営業しなきゃいけないみたいな考えはあるけど、週1、2日じゃいけないのか。10年前ぐらいに衝撃的だったのが岡山の「すし処 ひさ田」。金、土、日しかやりませんみたいな。今や、それもすごいありだよね。

藤尾:残りの4日でインプットとか、料理の研究に使ったら、全然違うものができると思います。じゃないとインプットはなかなかできません。

本田:最近、面白いのは米澤文雄。「No Code(ノーコード)」って店を持っているけど、営業は、たぶん月に10日ほどしかしていない。自分の他の仕事とかに合わせて営業をコントロールしている。毎日、営業をやらなくても成り立つモデルを作っているのは、なんか面白いなって思っていて。日本は、店舗を持って10年とか15年とかすると、それ以上トップランナーに居続ける人ってすごい少ないじゃん。一握りになっちゃう。あれ、もったいないなと僕は思っていて。海外だと進化とかを求められないけど、日本では、ちょっと油断すると、後からどんどん新しいものが出てきて、過去の人みたいになっちゃう。だから、インプットして、突っ走り続けなきゃいけない。

藤尾:最初からインプットもできるペースで行ければいいですよね。突っ走らず、自分のペースで乗り切る。

本田:毎日、営業はやってるの?

藤尾:不定休です。わりと好きに休んでます。月何日営業とかも決めてません。昼夜やる日もあれば、夜だけの日もあります。月によって営業日は変わるんですけど、大体週2日は休みとってます。

本田:それも面白いスタイルだよね。経営的な話になっちゃうけど、家賃とか初期投資が少なければ少ないほどいい店できるんじゃないかって思う。昔はお金をかけてすごい店を作って、営業することが大事だったけど、今、そんなことしてたら、結局、日々のところにしわ寄せきちゃうもんね。別に、毎日営業する必要ないし、だからこそ、他の仕事もできて、もっとビジネスとしてもうまくいくし、広がりもできて、いろんな案件が回ってくる。

藤尾:本当にそうですね。

本田:将来は、もしかしたら海外でやるかもしれない。昔はわかりやすい目標が必要だったけど、今はどうなるのかわかんないもんね。

藤尾:わからないです。時代もわからないです。

本田:決めない方がいいっていう見方もあるよね。俺も、昔は目標って決めるべきだと思っていた。だけど、今は波乗りみたいなもんで、波を待つ、その練習というか、準備はしなきゃいけない。波を見極めて乗るための力を持ちながら、波を見て、あ、この波いいなとなったら、そこに乗っていくっていう方が大事なのかな。

藤尾:どの波に乗るのか。自分も変わり続けています。

本田:時代も、世の中もすごく変わっていくよね。面白いな、新しいこういうシェフのあり方っていうのは。今までだったら考えられなかったけど。そういう時代だなと思う。目指したい料理も変わってくる?

藤尾:変わります。すごく和食っぽいねって言われたら、次の日にはフレンチ作ってます。逆もしかりです。たぶんお客様が感じる全体的なイメージはそんなに変わらないと思うんですけど、自分の中ではすごく変えていて、日々変わったりしています。

本田:今後の展開も楽しみにしています。

藤尾:はい、ありがとうございます。

撮影:岩田直和
取材:本田直之、食べログマガジン
文:小田中雅子