目指すのは京都という場所にいるからこそ生まれる究極の一皿
本田:今まで、いろんなチャンスを生かしてきたよね。「サンペレグリノ ヤングシェフ」(若手料理人の世界一を決める国際コンクール)では優勝。
藤尾:「RED U-35」(35歳以下の若手料理人のコンペティション)もあって、ファイナリストの5名に選ばれました。
本田:どうだった、その2つ?
藤尾:いやもうでかいっすね。
本田:世界で勝負するっていうのは、なかなか難しいことだから、すごいことだよね。
藤尾:でも、僕は何もやってないっていうか。周りの人のアドバイスとか意見をできるだけ集めて、それを提出したみたいなイメージです。あのとき成澤さん(成澤 由浩「NARISAWA」オーナーシェフ)や高田さんに試食していただいて。あと山本さん(山本 征治「龍吟」オーナーシェフ)にアドバイスもいただきました。
本田:そうそうたるメンバーがサポートしてくれた。その辺りから自分の中に料理の形もできてきた感じ?
藤尾:日本代表で参加して、初めて日本人としてのアイデンティティを出すことを迫られて、結局、自分は日本人なんだって感じました。
本田:「木山」の要素が入って、さらに京都に住んで、今の料理になったのかな。海外の経験もあるけど、日本人のアイデンティティと、京都にいるっていうことが料理の中に出ているのかなと思う。今、自分の中で料理をこういう風にしようと思っていることは、どう?
藤尾:面白みというか、刺激がないことを言ってもいいですか? 最近、どれだけ自分のクリエイティビティを削いでいくか、どれだけ自分をお皿にのせないかみたいなことを意識しています。逆に言うと、京都で、この場所で、この建物だとそうなる、そうならざるを得なかった料理を作ることが究極なのかな。
本田:なるほど。それはなんで?
藤尾:なんでしょうかね。同世代やもっと若いシェフを見ていてすごく感じるのが、自分の経験とか、バックグラウンドとかを料理にのせなくちゃいけないとか、それをどう料理で表現するかとかを考えている。別にそれを否定するつもりは全然ないんですけど、そうすることによって、より遠ざかっていくような気がするんです。食材と向き合って、どうやってポテンシャルを引き出そうかを考えて作ったら、自然に、自分は出ちゃうと思います。だから、なるべくそこを意識しない。
本田:なるほどね。自然体で食材と向き合って、余計なことをやらない。和食っぽい発想になっているよね。
藤尾:「ラ シーム」のときは、こういう料理を作りたいから、こういう素材を使うみたいな発想でした。今は逆ですから。
本田:京都の食材をできるだけ使ってみたい?
藤尾:特にこだわっていないです。
本田:自分の料理って何料理か。それも必要ないっていう感じ?
藤尾:それも、なんか勘弁していただきたい。難しいです。
本田:そういったカテゴリーが必要なのかっていう時代かもしれない。これが僕の料理ですみたいな。食材はどう選んでるの?
藤尾:食材は、基本、プロを通すっていう考えで、直接取引は、ほぼしてないです。信頼しているプロから、日単位か、週単位で一番いいものをいただいています。
本田:仕入れ先は、どうやって選んだの?
藤尾:八百屋は前職時代からお付き合いしている方。魚屋は、京都に来てから和食の料理人さんに紹介していただきました。牛や鶏は近くの焼肉屋さん。いい赤身肉を置いていて、おいしい肉をいただいています。そこも紹介です。
本田:さっきから聞いていると、人のつながりから出てくるものがすごいね。いい人たちを紹介してもらっている。
藤尾:めちゃくちゃ友達とか少なくて、人付き合いもあまり得意ではないのですが、僕が精一杯の誠意を示せる範囲内でお付き合いさせていただいています。いろんな方とお付き合いして、どっか疎かになっちゃったりするのが嫌で、ここだけと決めています。
本田:でもいい人をつなげてもらっているよね。今まで聞いていると、外れがないっていうか、本当にいい出会いになっている。そういった出会いが今の料理につながっている。
藤尾:それは、絶対にそうですね。素晴らしい方々に巡り合ったと思っています。