自家製調味料を駆使した握りは、どこにもない「松鶴」の味
さてとここから握りの真骨頂へとまいりましょう。リズミカルにシャリを操る弘法さん、父上譲りのテクニックで素早く一貫を仕上げていきます。
シャリは5種もの米をブレンド。配合率や銘柄は企業秘密だそうですが「甘み」「光沢」「粘り」が強い米、潰れにくく立ちやすい「硬め」の米を吟味し、その日の天候や季節ごとに配合を変え、水加減までも変えて炊いているとか。グレイト!
猫田さん
酢は白酢に、醤油やみりんなどを配合。今ドキの関西でもよく見る、赤酢の酸味強い系ではなく、昔ながらのきれいな白シャリという正統派の味です!
手始めに、鯛のちり握り。こちらも関西の昔ながらの握りスタイルかもしれません。「てっちり」「はもちり」など馴染みがありますが「ちり=ポン酢」のことで、つまり白身魚をポン酢でいただく食べ方のことだそうです。
湯引きで「松笠造り」にして身が締まった鯛の弾力が歯を押し返すようで、旨みも濃縮しています。上のネギと紅葉おろし、ポン酢の酸味と辛みが絶妙なアクセント。
握りの二枚看板、イワシと穴子はぜひ食べておきたい
「ウチのイワシは有名なんです」と弘法さん、それは食べないわけにいかないですよね。出されたイワシは何やらテラテラ光るものがのせられた、これもあまり見ないビジュアル。
上を覆うのは白板昆布、つまりバッテラ昆布でして、関西の鯖寿司や押し寿司に用いられます。乾燥昆布を職人が薄く薄~く削っていき、最後に残るシート状の部分がこのバッテラ昆布。破らずにここまで削るのは高度な技術が必要なため、もう職人さんも少ないとのこと、大変手に入りにくい昆布なのだそうです。
イワシは北海道の大羽鰯(オオバイワシ)。この時期は特に脂が乗っていて、大トロ級のこってり感なのですが、甘酢で煮た昆布と合わせることで脂っ気がまろやかになるだけでなく、グルタミン酸の力で旨みが引き立ちます。
猫田さん
今までイワシって「すっごいおいしいネタ」という認識がなかったのですが(イワシに失礼)、この一貫で概念が変わりました。脂も蓄えていて、トロトロ!
目の前に立ちはだかる大トロ。シャリが隠れて見えませんが握りです(笑)。このように脂が乗りまくったネタは醤油とのバランスを取るのがかなり難しいものですが、こちらもちゃ~んと計算されています。
「たっぷりネタにつけても辛くない、お子様でも召し上がれるマイルドな配合にしています」とのこと、醤油は6種をブレンドしたオリジナルだそうです。寿司が醤油の味だけにならないよう、魚の香りや味を邪魔しない柔らかなテイストに。確かに、醤油だけ舐めてみても「しょっぱ!」とならない、優しい味わいです。
イワシと並ぶ松鶴寿司の名物握りが、穴子。こちらも父上の時代からの看板で、身を交差させた独特のフォルムに、海苔を巻いているのが特徴的。焼きではなくふんわり仕上げた蒸し穴子で、甘い煮ツメが塗られています。
言うまでもなくこのタレも自家製。醤油、たまり醤油、酒、砂糖、唐辛子などを配合し、吉野本葛でとろみを出しています。枕崎産鰹節の出汁が利いており、甘ったるくなく重厚なコクが感じられる味わい。
猫田さん
このタレも「贅沢甘だれ」として商品化しています。個人的に自宅で煮穴子を作ることはあまりないですが(笑)、鰻、天ぷら、てり焼き、甘辛炒め、つくねのタレにも使えるのでめちゃめちゃ用途多彩です。
これも寿司職人の技のバロメーターと言える玉子。味付けは砂糖と塩だけ、とシンプルですが、これぞ寿司屋のギョク!という感じの素朴な風味。敢えて焦げ目がつくように焼き上げて卵の風味を閉じ込めているそう。噛むと甘みがじゅわっと染み出します。
最近はプリンのような玉子焼きも見かけますが、焼き目のついた「ザ・玉子焼き」ってのがやはり寿司の〆だなあとしみじみ思います。
併設ショップで自家製調味料を買い込めば、一気に料理上手に……
さてさて、これまでの料理や握りで登場した数々の自家製調味料は、このようなパッケージで販売しています。もともと9年前に「ポン酢がおいしいから販売して!」という常連さんの声に応え「お魚乃友」として販売開始。これがあっという間に評判となり「土佐酢」「煮魚の魔法のたれ」などをシリーズ化。
全て店内で手作りして瓶詰めしているというからその労力たるや……。しかも添加物は一切不使用、素材は全て国産。「うま味調味料」なども配合していません。
これらの調味料は、兵庫県の優れた産品を認定する「五つ星ひょうごセレクション」や「神戸セレクション」などに採用され、数々のコンテストでも入賞。今では10種以上をリリースしており、全国の高級スーパーで取り扱われているものもあります。
どんどん事業が拡大する中、お店の横、板宿本通商店街の中にこんな直売店も作ってしまいました。ここでは自社の調味料だけでなく兵庫や周辺のおいしいものを集め、セレクトショップ的役割として地元の食を発信しています。
さらに、ポン酢を通じて雇用促進にもつなげたいと、就労継続支援A型事業所として障がいのある人を採用。地域の経済を盛り上げる社会貢献にも役立っているというわけです。
猫田さん
守さんと弘法さん、お二人とも柔らかな物腰で本当に心地よい店です。顔もそっくり(笑)。
調味料は弥栄屋商店で販売していますが、ネット通販もあり。「飲める酢」のおいしさに衝撃を受けます!