シンプルだけどうまい! 今まで食べたことのない味わいのとりこになる
「有昌」の名物として知られるのが、透明なスープにあっさり塩味の「しいたけソバ」だ。甘く煮あげたしいたけの優しい風味と、ごく淡い味の中に旨みがにじむスープという組み合わせは、一度食べるとクセになる。
橋本さんも「塩味のしいたけソバというのは他にはあまりないでしょう」と笑う。
出汁は鶏をベースにした清湯のような澄んだ味わい。そこに塩の旨みがとけこみ、食べ進むほどにしいたけの味わいが溶け出して変化し、飽きさせない。どこにもないここだけのオリジナルのそばだが、ほのかに香る中華系のスパイスやあっさりと軽いスープはどこか懐かしささえ感じさせる。
ポイントとなるのが、料理名の由来ともなっているしいたけ。大ぶり、肉厚のしいたけをその時期のいい産地から選んで仕入れているという。それを丸ごと、上品な甘い味にふっくらと炊き上げ薄切りにしてトッピングする。
特注している麺は、色白でやや細めのストレート。ラーメンの麺は弾力が強く、こってりとしたスープに負けない麺も多いが、こちらの麺はしなやかなコシがあり、クリアなスープと絡んでスープを引き立てるような端正な味わいだ。
山本さん
しいたけソバの鶏出汁も繊細すぎず、で町中華のちょうどいい塩梅というか、毎日食べても飽きないような味付けだと思います。
夏限定メニューも必見! 来年に向けて要チェック
夏季限定で登場する「冷やし中華」も初代の味を受け継いだ逸品。頂点の2尾のエビがフォトジェニックで、この店の料理とすぐわかる。具はチャーシュー、錦糸玉子、きゅうり、「しいたけソバ」と同じしいたけ煮、エビ。2種類のタレを忍ばせたしょうゆベースのさっぱりしたつゆにつるりとのどごしがいい麺と具をよく絡めて和えて食べる。
橋本さんがおすすめする食べ方は自家製ラー油での味変。まずはそのままのおいしさを味わい、食べ進んだらピリッと辛い自家製のラー油を回しかけるというものだ。このラー油が秀逸で、唐辛子の香りと旨みのある辛さが引き出されているが、上質な油を使っているからか、アクの強さやくどさが全くない。最後にはついついたっぷりかけたくなること必至なのだ。
山本さん
「冷やし中華」はトップにのせられたエビが特徴です。僕はいつもきゅうり抜きなので、代わりに白髪ねぎをトッピングしてもらったりしています。「冷やし中華」にもしいたけが入っていておいしいです。
時間の流れがゆっくりとしていた古き良き時代には料理も驚くほど丁寧に作られていた。そんな昭和の名店が消えゆく昨今、その味を受け継ぐ店の復活は心温まるストーリーでもある。もちろんただ受け継いだだけではない。日々精進し、鍛錬し、さらなる上を目指すべく復活した「有昌」は新たなる名店への道を歩み出したのだ。
※価格はすべて税込