レストランは舞台、シェフもスタッフも同じ頂点を目指

「レミニセンス」店舗外観

本田:料理も移転してから、だいぶアップグレードした印象。

葛原:アップグレードというか方法を変えました。二つ星のレストランの料理って勢いがあって、パワーのある料理だと思うんです。三つ星はどちらかというと、きちんと整列した、上質な料理。その方向に転換しました。この店は三つ星を取るためにスタートしたんで、上質な料理にシフトしていこうと思っています。

本田:待っていても、三つ星は取れないよ。やっぱり行動しないと無理だよ。

葛原:よく米田さんが、山に登ろうと思った人しか登頂できないって言っていて、そのことを胸に刻んでいます。80代、70代のベテランの方たちの話を聞くと、結果は後からついてくる、目の前のことだけを頑張りなさいってよく言われますが、それは違うと思うんです。本当にすごい人たちだけの話で。普通の人は狙っていかないと。5年後、10年後の目標をしっかり立てて、そのためにしっかり歩んでいかないといけない。

本田:今は二つ星だけど、料理はもちろんのこと、スタッフやサービスも三つ星としてやっていけるぐらいのレベルにしないといけない。今回、そうしているじゃん。いいスタッフそろえて。後は、ミシュランがちゃんと評価して。

葛原:この店で取れなかったら、自分の実力がなかったのだと思います。何も言い訳ができない。移転前の時は、建物はこうだし、エントランスもないしとか、ずっと自分の中で言い訳していました。

本田:料理だけで三つ星を目指しますって言う人は、当然いるかもしれないけど、レストラン全体含めて三つ星取れるかというと、それまた別じゃん。狙える状況を作らなきゃいけない。そこまで考えて、ずっとやってきているから、この店に繋がっているんだよね。

葛原:「カンテサンス」に行く前の頃から、目標を書いていたノートがあって。いつか三つ星を取る。そういう意識だけはあったんです。「ゼットン」を辞める時も、半ば無理やりというか「すいません、僕、最年少で三つ星取ります」と言って辞めたんですよ。2019年の時は最年少で二つ星でした。三つ星には届かなかった。でも、その時は仕方なかった。資金も足らなかった。

「レミニセンス」店舗内観

本田:後は、三つ星に向けてのスタッフも相当増強したじゃん。あれはどういう思いでやったの?

葛原:もちろん三つ星を取るためです。料理はレベルも高くて、問題なかったんですけど、サービスをしっかり増強しなきゃって。いろんな人に手当たり次第連絡して、結局なんとか集まりました。

本田:よく集まったね。しかもエース級の人ばかり。なかなか今、どこのレストランも人が採れずに困っているのに。

葛原:人材不足って理由があると思っていて。僕が「カンテサンス」に入りたかった時、そこに入ることで自分の将来を予測できるとか、ある程度のお金がもらえるとか明確なイメージが持てた。今度は、それをこちらが提示すればいいだけなんですよね。レミニセンスに入ると、あなたの人生がこう変わりますよと。その上で、しっかりとした給料を払って、人生の分岐点になることをきちんと提示すれば、いくらでも人は集まってくることを実感しました。

本田:そこから変えていると。でも、なかなか給料払えなかったりするじゃん。高くはさ。そこはどうなの?

葛原:三つ星をとるという目的を達成することが一番なので。先人の方がおっしゃっていたように、お金は後からついてくる。実際、本当についてきています。僕の店は、おそらく名古屋で一番給料高いです。

本田:後、スーツとかも支給しているよね。

葛原:「TOM FORD」のスーツや「Christian Louboutin」の靴を支給しています。

本田:そんなことをやる店、日本にはなかなかない。だけど、本当によく思うんだけど、やっぱりいいレストランに行った時に、サービスの靴が汚れていたりとかさ、なんか借り物みたいなサイズが合っていないスーツを着ていたりするのを見ると萎えるよね。

葛原:萎えます。料理や器、テーブルはこだわるのに、なんでスタッフの制服にこだわらないんだろうって。こだわったら目立つなと思ったんです。これ、費用対効果がめちゃくちゃあるんですよ。スタッフにブランドのスーツを着せて、靴を履かせただけで、姿勢が伸びて、話し方も変わってくるんですよ。

本田:すごいよね。

「レミニセンス」店舗内観

葛原:僕なんかもお客様の前に出る時は「John Lobb」の靴に履き替えて「オーデマ ピゲ」の時計を身に付けます。そうするだけで、やっぱりカリスマを感じてもらえる。レミニセンスの葛原を演じているんです。

本田:それ絶対大事だよ。やっぱり演じないと。リーダーとかもそうだけど、リーダーを演じなきゃいけない。

葛原:完全にここは舞台で、僕らは俳優、女優だということをスタッフ皆に言っています。店は劇場だから、どんどん投資しちゃう。

本田:結局、そういう人はうまくいくんだよ。目の前のお金ばかり集めている人はさ、先細っていくしかない。別に意味のない金を使っているわけではない。そこには未来がある。投資しなかったら、リターンもない。