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〈自然派ワインに恋して〉
シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。
ナビゲーター
岡本のぞみ
ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。
業界人も世界のお母ちゃん料理にほっこり
目黒区は都心から近くおしゃれで住みやすい環境があることから、昔から芸能人やメディア関係者などの業界人が多く暮らす街として知られている。祐天寺もそんな街の一つ。いま、祐天寺でスタイリストやカメラマンなどの業界関係者が集まる店として密かに知られているのが「kitchen Rim-tun(キッチンリムタン)」だ。
店主の齊藤清美さん、通称キョンさんは祐天寺の在住歴20年以上。スタイリストのママ友から「仕事の間、うちの家で子どもをみてほしい」とお願いされたのがきっかけで、料理上手な齊藤さんはついでにごはんを作っていたそう。ママ友の家にはたくさん人が集まっていたこともあり、そのうち齊藤さんの料理は業界関係者の間で評判に。「お店を始めたら通いたい」と言われていたそうで「真に受けて今年の4月末にお店を始めちゃいました」と笑う。
お店のテーマは「世界のお母ちゃん料理と楽しいお酒」。主婦である自分のルーツと世界のお母ちゃんへのリスペクトを込めて、各国の家庭料理をアレンジ。本場の味に絶妙にスパイスや調味料を利かせた一皿は「何を食べてもおいしい」と評判だ。さらに友人のソムリエから「キョンちゃんの料理はオレンジワインが合う」と言われたことを機に自然派ワインを置くようになった。
「店にソムリエはいないので、そのぶん価格は5,000〜8,000円台を中心にリーズナブルにしています」と齊藤さん。ワインは自身で選んでもらいやすいように、テイスティングコメントやおすすめ料理を書いた札をボトルネックから下げることに。すると冷蔵庫の前では客みずからがあれやこれやと言い合いながら自然派ワインを楽しく選ぶ風景が見られるようになった。苦肉の策だったが、かえって店の魅力になっていたのだ。オープン当初は1台だったワインの冷蔵庫が、いまでは2台に増えている。
えびフライのぬか漬けタルタル✕ミネラリー白ワイン
店の名物である「根岸さんちのぬか漬け」を使ったおすすめメニューが「えびフライぬか漬けタルタル」。小さめのえびにきめ細かいパン粉をつけて揚げたえびフライは、さくさくと小気味よいおいしさ。「いぶりがっこやピクルスを入れたタルタルソースをよく見ますが、えびフライにはきゅうりのぬか漬けのほうが合うんです」と齊藤さん。マイルドな酸味とかつおぶしの風味を感じるタルタルソースになり、なるほどえびフライによく合っていた。
タルタルソースの中に入っている「根岸さんちのぬか漬け」の“根岸さん”とは、実は齊藤さんの旧姓。なんと齊藤さんのお母さんが手作りのぬか漬けを週2回、届けてきてくれるのだそう。料理上手は遺伝だったのだ。ぬか漬けはきゅうり、にんじん、大根、小松菜が定番で、時期によって旬の野菜や果物が加わることも。箸休めの人気料理であり、オレンジワインにとてもよく合う。
えびフライにおすすめなのが、フランス・ロワール地方の白ワイン。「フレッシュでミネラル感がある白ワインがえびフライによく合います」と齊藤さん。えびフライを白ワインと合わせることで、爽やかさが増し軽快なおつまみに。食事の最初が楽しくなる組み合わせだった。
ペリメニ✕芳醇オレンジワイン
ロシアの家庭料理である「ペリメニ」は、キッチンリムタンの世界のお母ちゃん料理の人気メニュー。ロシア版水餃子のような、ひき肉を皮で包んでディルとサワークリームを添えた料理だ。
元々、齊藤さんのロシア人の友人が食べていたのを真似して作ってみた一品で、オープン後にその友人を招いたところ“本場の味”とお墨付きをもらった。さらに齊藤さんのペリメニは、合いびき肉に牛脂を混ぜてこね、ホールのコショウとともにゆでることで、スパイシーさがアクセントになっている。
ペリメニにおすすめなのは、イタリア・シチリア州のオレンジワイン。「柿や洋梨、アプリコットなどの熟した果物の風味にミネラル感があります。豊かな味わいで食事に合わせやすく、スパイスの利いた水餃子のような料理にぴったりです」と齊藤さん。レモンやサワークリームで爽やかさもある餃子なので、ミネラル感のあるオレンジワインがよく合っていた。
チーズソースのトマトスパゲッティ✕オレンジワイン
「ドロドロチーズのズブズブパスタ」は、齊藤さんの青春の味をオマージュしたもの。齊藤さんは高校時代、十条にある「トムボーイカフェ」の「スパチー」が大好きで通いつめたそう。その味を再現したくて作ったメニューだ。
齊藤流のスパチーは、ホワイトソースとミートソースを合わせ、たっぷりのチーズを加えた濃厚でクリーミーなパスタ。メニューの黒板に写真つきで紹介すると、そのビジュアルからオーダーが殺到。味わってみると、こってりとした中毒性あるおいしさでハマる人が続出中だという。
おすすめはイタリア・ヴェネト州の赤ワイン。「赤いフルーツ系の豊かな果実味があって、しっかりしたトマトスパゲッティによく合います」と齊藤さん。ほどよいタンニンと重すぎないボディでクリーミーで、濃厚なスパゲッティをバランスよく引き立てていた。
齊藤さんの「私が恋した自然派ワイン」
齊藤さんは、見た目にインパクトのあるイタリア・ヴェネト州のオレンジワインをあげてくれた。
「自然派ワインはお店をスタートするようになってから注目しはじめましたが、ラベルに自由な雰囲気があります。こちらのワインのラベルは、ちょっとやんちゃな歌詞のヒップホップなんかのCDに貼られているParental Advisoryのステッカーみたいなデザインがかっこいいですね。
味わいは、生姜や熟した柑橘のような風味があって、どんな食事にも合わせやすくなっています。見た目も味も型にはまらないところがお気に入りです」
オレンジワインや日本ワインを中心にラインアップ
キッチンリムタンでは、メニューに合わせやすいオレンジワインや親しみやすい日本ワインを中心に、世界各国の自然派ワインが用意されている。ワインはガラスの冷蔵ケースの中に入っていて、下げ札のコメントを見て選ぶしくみ。ラベルデザインも楽しくなるようなものが多くなっている。ボトル20種類(5,000〜8,900円)、グラス3種類(600円)。
2階に上がれば楽しい夜が待っている!
店のオープンから数カ月経ち、当初は友人が訪れることが中心だったが、最近は祐天寺に住む若い世代の客も増えている。店は2階にあるが、通りに看板があり「ヒマしています!」などの気さくな齊藤さんのメッセージが集客にひと役買っているという。2階に上がれば、どんな日も齊藤さんが作るお母ちゃん料理と自然派ワインが楽しく迎えてくれるだろう。
※価格はすべて税込