教えてくれる人

マッキー牧元

株式会社味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。立ち食いそばから割烹、フレンチ、エスニック、スイーツに居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ・テレビ出演。とんかつブームの火付役とも言える「東京とんかつ会議」のメンバー。テレビ、雑誌などでもとんかつ関連の企画に多数出演。

佐賀でマッキー牧元さんの心を打った2軒とは?

カジ シナジー レストラン

このレストランには驚きがある。いつもすべての皿に、発見と驚きという感動がある。特に珍しい食材があるわけではない。用意された食材は、コハダ、とうもろこし、海苔、ほうれん草、自然薯、トマト、オレンジ、イチジク、舌びらめ、イノシシ、米など割とメジャーなものである。

しかし、どの食材を食べても今まで知らなかった魅力が迫ってきて、目を見開かせるのである。

感動を伝えると、梶原大輔シェフは言われた。「それが田舎で料理をする、本来の仕事だと思っています」

写真:お店から

「カジ シナジー レストラン」は、名旅館・御船山楽園ホテルに隣接するイタリアンである。

だが料理の範疇は、イタリア料理から抜け出している。オーナーシェフの梶原さんは、自ら釣りもし、山に入り食材を集めてくる人である。既成概念にとらわれずに、食材と真摯に向き合って、料理を生み出す。

7月に訪れた時は、11皿を出されたが、どれも胸を打つ衝撃があった。

写真:お店から

食材の新しい魅力に気付かされる料理の数々

例えばコハダである。東京の高級寿司屋で多く使われるという、竹崎のコハダを軽く酢じめにして、バゲットの上にのせた料理が出された。

コハダの下には、締めたコハダの香りに似た感じを得た、シェーブルチーズを敷き、上にはプラムのコンポートをのせる。そして近所で自生していたという、シナモンの細木を添え、ミモレットチーズを振りかけてある。

食べるとコハダは、バゲットの上で身をくねらせながら、銀色の肌を輝かせ、しぶきを上げる。

コハダのキリリとした酸味、シェーブルの柔らかい酸味、プラムの甘酸っぱさという、三つの酸味が調和しながら舌を捉え、コハダのうまみを静かに持ち上げる。そこに、市販のものとはまったく異なる、優しい甘さと爽やかな香りをシナモンが漂わせて、色気を灯す。

エレガントな余韻がたなびき、僕は、たまらなく、白ワインが恋しくなった。

コース 16,500円より

あるいは地元農家のチーズコロッケである。

摘果した柑橘の葉の香りの中から、乳の甘い香りが飛び出して、思わず顔がほころぶ。

あるいは、有明のクチゾコ(舌平目)は、コハダの魚醤に漬けた小エビを添えて、その品のある甘みに艶を加え、うまみの深い竹崎蟹のソースで食べさせる。

少し発酵させたとうもろこしは、下にヤングコーン、白瓜の水キムチとドブロクで作ったお酢を合わせ、さまざまな酸味を出合わせることによって複雑な味を醸す。

塩田町(2006年に新設合併し、現在は「嬉野市」)で作られた4年古米ひのひかりのリゾットは、有明一番海苔のソースとウニと合わせる。海苔の香りやウニの甘みが口を満たすが、それも主役の米の甘みを生かすためだと知る。