あん梅
日本の居酒屋で五本の指に入るとして疑わない店が、武雄温泉にある。その名を「あん梅」という。
「あん梅」は、肴よし、酒よし、器よし、サービスよしと、非の打ちどころがない居酒屋である。
陽気なご主人が作る肴は、地の野菜を使った、酒が恋しくなる料理がずらりと並べられ、魚は、北側の呼子などの玄界灘と南側の有明海から、多彩で極めて質の高い魚が揃えられている。
器は近隣の有田焼の名陶作のものを揃え、酒所である佐賀県の銘酒が用意されている。
そしてまた奥様の、心配りの行き届いたサービスが素晴らしい。ある日僕がくしゃみをしていたら、目の前にサッとティッシュが差し出された。
「ありがとうございます」と言って鼻をかみ、目を開けると、また奥様がそのティッシュを受け取ろうと手を差し出していた。
これはなかなかできることではない。こうして「あん梅」で過ごす時間は、充実する。
今回7月に伺った夜も、時を忘れて飲み、食べ、大いに笑った。いつもはアラカルトだが、今回は大人数だったため、料理はお任せにした。
すると、突き出しから鱧の小鍋仕立てである。鱧の甘みを受けとめながら、もう飲むしかない。
続いてアジと鯛とタコの刺身が出された。
アジは、綺麗な脂がのっていて、繊維がないかのように崩れ、鯛も夏だというのに、香り高く、うっすらと脂を感じさせる。そしてタコも、歯切れよく、甘みがある。
続いての野菜料理はナスであった。桐岡ナスという、巨大な地ナスを煮て山かけにしてある。
ナスと山芋の柔らかな甘みが合わさり、心をつかまれる。
続いてうなぎの白焼きときた。香ばしく、力強いこいつをわさびと醤油につけ、すかさず燗酒を飲む。うなぎの脂をわさびが締め、醤油がうまみを膨らます。
クゥ、たまりませんぜ旦那。どれも、酒が進んで困る料理ばかりである。