〈秘密の自腹寿司〉

高級寿司の価格は3~5万円が当たり前になり、以前にも増してハードルの高いものに。一方で、最近は高級店のカジュアルラインの立ち食い寿司が人気だったり、昔からの町寿司が見直され始めたりしている。本企画では、食通が行きつけにしている町寿司や普段使いしている立ち食い寿司など、カジュアルな寿司店を紹介してもらう。

教えてくれる人

小松宏子

祖母が料理研究家の家庭に生まれる。広告代理店勤務を経て、フードジャーナリストとして活動。各国の料理から食材や器まで、“食”まわりの記事を執筆している。料理書の編集や執筆も多く手がけ、『茶懐石に学ぶ日日の料理』(後藤加寿子著・文化出版局)では仏グルマン料理本大賞「特別文化遺産賞」、第2回辻静雄食文化賞受賞。Instagram:@hiroko_mainichi_gohan

居酒屋のように豊富なメニュー

わいわいと賑わう、活気にあふれた店内。活きのいいネタとこなれた価格、大将・田中英朗氏の人柄を慕い地元の京都人はもとより、京都駅に近いこともあって新幹線に乗る前に寄っていく客など、全国からファンが訪れる。「鮨えいろう」のオープンは昨年7月28日、すっかり人気店として根付いているようだ。

店内はぐるりとU字のカウンターに15席。中央では大将が魚を切り付けたり、握ったり。カウンターの端は調理場になっていて、二番手が料理を手早く仕上げていく。なにしろメニューを見ると、その種類の多さに驚かされる。前菜、造り、煮もの、焼き物に天ぷらまで、季節の美味がずらりと並ぶ。「居酒屋みたいでしょう」と田中氏は笑うが、食指の動くままに料理を頼み、そのあとはお腹と相談して、適宜握ってもらうというのが「鮨えいろう」のスタイルだ。もちろん握りだけだってかまわないし、料理だけでもかまわない。自由度が非常に高い店なのである。

田中氏は伏見・深草の出身。修業もずっと京都だそう。和食の店での修業も長いと聞いて頷ける。そして、通し営業であるということがうれしい。「この時間(午後早め)に飲むのが好きなんですよ」。その気持ち、わかるなあと納得。夜とはまた違った、独特のゆるりとした時間が流れる。スタッフの手間は増えるが、その心地よさを重んじての通し営業なのであろう。