【おいしいパンのある町へ】

Vol.5
東京・浅草橋「HARU*BOUZ(ハルボウズ)」

新宿からJR総武線で、約20分。いかにも下町らしい商店が立ち並ぶ高架下からふと見上げると、まるで別世界のような高層ビルが立ち並ぶ風景に、戸惑う人も多いはず。その理由は、古き良き下町・両国と、東京を代表する電気街・秋葉原に挟まれた立地条件にあるよう。

 

まさに“文化の交差点”という言葉がしっくりくる街並みに圧倒されながら、歩くこと約5分。下町にも電気街にも属さない、洋風な店構えが目に留まる。今回の目的地、「HARU*BOUZ(ハルボウズ)」に到着だ。

生まれ育った町に、おいしいパンを広めたい!

2003年にオープンさせた店を切り盛りするのは、増田晴弘さん&由紀さんご夫婦。もともとパティシエを目指していたという晴弘さんはスイーツ店で修行を積むも、繊細な作業が苦手で伸び悩んでいたそう。そんな姿を見かねたオーナーから“パン作りの方が向いているのでは?”とアドバイスを受け、転身。6年の修行を経て、独立した。

開業するにあたり、真っ先に思いついたのが、生まれ育った町・浅草橋だったそう。「修行中は横浜や世田谷など、いろいろな町に住みました。“絶対に地元がいい”と強く意識したことはありませんでしたが、自分で店を開くとなったとき、ふと地元に帰ろうかな、と」

 

「何年も地元を離れていたのに、いざ店をオープンさせると、近所の方たちがこぞって応援してくれました。わざわざ知り合いに連絡を入れて、広めてくださったんです。そのときに改めて、浅草橋の人の温かみを感じましたね。こういった地域のつながりや助け合いの精神が色濃く残っているのは、下町ならではなんじゃないかな。“応援してくださった方たちのためにも、おいしいパンを作り続けたい!”という思いに、今でも背中を押されています」

モットーは“自分が食べたい!と思うパンを作る”

パン作りで大切にしていることを聞くと、「粉を含め、材料はごく普通のものを使っています。胸を張って“ここが推し!”と宣言できることがあるかなあ……」と謙虚な姿勢を見せた晴弘さん。しかし答えはすぐに見つかった。「“自分が食べたい”と思うかという感覚を、大切にしています。もちろんおいしさは大前提として、食べたくない素材は使わない。最近は生ではなくパウダーの卵や、バターの代わりにマーガリンを使うパン屋が増えていますが、僕は絶対に使いません。加工物を使って目指すおいしさを実現できそうにないし、体に取り入れるのも嫌です」

“どんな味なんだろう?”を絶やさない店を目指して

以前は浅草橋に6店舗ほどあったというパン屋が次々と減り、現在残るのは「ハルボウズ」を含む3店舗だとか。厳しい環境のなかで14年間も人気が続くのは、ユニークなアイデアを生かした新メニュー開発への情熱にある。「食パンなどのベーシックなアイテムをきちんと作ることは当たり前ですが、それだけではお客さんは離れていってしまう。地元の方に長く利用していただくためにも、訪れるたびに新しい味の発見がある店を目指しています」

食パン8種類、菓子パン&惣菜パン40種類ほどのラインナップに加え、定期的に新商品をプラスしているという「ハルボウズ」。味や素材の組み合わせの斬新さを重視しているという新商品の多くを発案しているのが、妻・由紀さん。「びっくりするほど、ぽんぽんとアイデアを思いつくんですよ。素直に、彼女の才能だと思いますね(笑)」と、晴弘さんも大絶賛! なかでも絶大な人気からデイリーメニューに定着した「塩メロンパン」はじわじわと口コミで広がり、テレビでも紹介されたほど。

 

職人気質の晴弘さん、発想豊かな芸術家タイプの由紀さんというご夫婦の作り出すパンのファンは絶えず、平日でも午後3時にはほとんどの商品が完売してしまうそう。なかでも売り切れ必至の人気メニューを聞いてみた。

ほどよいしょっぱさがクセになる! 塩メロンパン

前出のとおり、由紀さんが発案した人気商品。「当時、塩パンが流行っていたんですよ。菓子パンに塩気を加えてもいけるのでは?と思い、メロンパンに塩をふってみたんです。これが、想像以上においしくて。お客さまも最初はギョッとしていましたね(笑)。購入される方のほとんどは興味本位のようですが、かなりの確率でリピートしていただいています!」

 

粗塩は表面に振りかけてから焼き上げているため、塩気とともにほどよい香ばしさが口の中に広がる。ラングドシャ生地の優しい甘みを引き立たせる絶妙な相性は、クセになること間違いなし。(180円)

オープン当初から人気を絶やさない“ひとクセ”あんパン

商店街に住むお年寄りから若い女性まで、幅広い年代に支持されているという商品がこちら。「茶色の生地は、玄米の色味です。玄米を炊いてから生地に混ぜることで、玄米独特の香ばしさを生かしつつ、もっちりとした食感に仕上がるんです」。餡にも一工夫。「たっぷりのこしあんに、炊いたうぐいす豆を混ぜています。他の店舗と食感で差がつけられるし、緑色の豆が入ることで見た目も良いな、と!」

 

もっちりとして食べ応え抜群の生地は、さりげなく主張する玄米の食感が楽しい。なめらかなこしあんと、大粒のうぐいす豆のコンビネーションが新鮮だ。(100円)

焼き上がりとともに売り切れることも!日替わり食パン

ユニークな菓子パンや惣菜パンに加え、地元民が必ず買っていくのが、日々4〜5種類がラインナップする食パン。一番人気のべーシックな「食パン」のほか、晴弘さんが力を入れているのが、アレルギー対策だ。

 

「妻の友人の間でも、小麦や卵アレルギーを持つお子さんが増えているので。小麦粉に比べてグルテンが低く、アレルギー反応を引き起こしにくいと言われる、デュラム小麦のセモリナ粉を使った食パンを作るようになりました。パスタに使われるセモリナ粉は、卵を使わなくても、しっとりとした食感になるのが特徴。普通の食パンと変わらぬおいしさに仕上がっている、自信作です」(250円)

大量買いする人続出!濃厚&濃密チーズケーキ

パティスリーで修行をしていた経験を生かし、ケーキも手がけている晴弘さん。なかでも一番人気は「チーズケーキ」で、これを目当てに来店する人も少なくないとか! 「僕自身がもともと、大のチーズケーキ好きで(笑)。かなり力を入れてますね。ずっしり、濃厚な味わいにするために、クリームチーズを惜しみなく使用。濃厚で甘いと飽きてしまうので、レモンを多めに入れて、酸味を主張させています」

 

手に持った瞬間、重量感にびっくり。フォークがすんなり通らないほど濃密な生地は、まるでクリームチーズをそのまま食べているような風味。レモンの爽やかな酸味が効いており、しつこさはゼロ。「“パン屋のケーキ”に対する味の固定観念を覆したかった」という晴弘さんの熱意の通り、専門店顔負けの本格的な味わい。(250円)

 

増田晴弘さん&由紀さんご夫婦聞く、浅草橋近辺の一押しグルメ

浅草橋で生まれ育ったご主人ならではの、ディープなグルメスポットは必見!

人情味溢れる雰囲気に心が温まる立ち食いそば屋「ひさご」

「これぞ下町のオヤジ!という雰囲気の店主が営むお店。一見強面ですが、通い続けていると、内面に秘めた温かさに誰もが魅了されてしまう。そんなお店が残っているのも、浅草橋ならではだと思います。おすすめのメニューは、おろしちくわ天うどん。どこか懐かしい味わいで、何度食べても飽きません」

コスパの良さがうれしい!本格ステーキ店「わかき」

「本格的な味わいでボリューミーなのに、ハンバーグは1,000円前後、ステーキは2,000円前後というリーズナブルな価格が最大の魅力。家族での外食時に、ヘビロテさせていただいています!」

もっと知りたい浅草橋の“おいしい”

食べログでキャッチした、浅草橋のグルメ情報はこちら

 

取材・文:中西彩乃
撮影:山田英博