【和菓子と巡る、京都さんぽ】
四季折々の顔を見せる名所を訪れたり、その季節ならではの和菓子を食べて職人さんたちの声を聞いてみたり……。ガイドブックでは知り得ない京都に出会う旅にでかけてみませんか。
あなたの知らない京都について、京都在住の和菓子ライフデザイナー、小倉夢桜さんに案内していただく連載が始まりました。
其の一 四季の情景感じる上生菓子「長久堂」
古来の植物に思いを馳せる、北山さんぽ。
京都駅より市営地下鉄、国際会館方面へ約15分で北山駅。
五山の送り火の一つ「妙」が灯される万灯籠山の四季の移ろいを感じながら、個性的な店舗でショッピングが楽しめるエリアです。
その他にも、このエリアには日本で最初の公立植物園として開園された「京都府立植物園」があります。広大な敷地には、約1万2000種類もの草花が育てられ、多くの家族連れで賑わいます。中でも日本最大級の回遊式観覧温室は、多種多様な植物や木々を見ることができるため、一年を通じて人気となっています。
この北山界隈は国の天然記念物に指定されている植物が自生しており、植物がお好きな方にとってはとても魅力的なエリアとなっています。
北山駅より北西へ徒歩20分ほど。世界文化遺産「上賀茂神社」の摂社である「大田神社」に到着します。
5月になると境内の「大田の沢」には、 国の天然記念物に指定されている杜若(カキツバタ)が涼やかな紫みの青の花を咲かせます。こちらの杜若は、平安時代には、この地に自生していると言われており、有名な和歌「神山(こうやま)や 大田の沢の杜若 深き頼みは 色に見ゆらむ」(藤原俊成)は、こちらの杜若を詠んだものです。
そして、大田神社より東へ徒歩15分ほど。「深泥池(みどろがいけ)」に到着します。この池には、大変珍しい浮島があり、水生植物群は氷河時代の生き残りとされ国の天然記念物に指定されています。
先ほどの大田神社の杜若が見頃を迎える頃、深泥池では、清楚な白色の花の杜若が花を咲かせます。古来の植物が、現代まで生きながらえている様子を見ることができる貴重なエリアです。
甘いもので、ひとやすみ。
散策で少し疲れたら甘い食べ物で身体を癒やしてみてはいかがでしょうか。
深泥池からほど近くに創業天保二年、現在のご主人が六代目となる老舗和菓子店「長久堂」があります。
地元の方はもちろんのこと、遠方よりお菓子を買い求める方が多い人気店です。その理由は、伝統に革新をバランスよく取り入れ、高級な素材を惜しみなく使用して作られた味と意匠にあります。
お一人でも気軽に訪れることができる雰囲気のお店の中に入ると、立派な行器(ほかい)が目を惹きます。
行器
現在は、店内に飾っていますが、30年ほど前までは、新年に天皇陛下へお菓子を献上する際に使用されていたそうです。そのような貴重なものを、押しつけがましくなく、さりげなく飾られているところが老舗店の素晴らしいところです。
こちらのお店を語る上でどうしても欠かせない人物がお一人。90歳を超えて生涯現役を貫き、京都の和菓子職人にその人ありと言われた故・村上俊一工場長です。
様々なところで、今でも語り継がれる人物です。その方の遺志を受け継ぎ、30代の女性職人が工場長となりました。
「受け継いだ当時は、その重責からお客さんに満足していただけるお菓子を作れるか心配で不安でした。今では、少しずつ自信がつき、お菓子を作る際にも少し心に余裕が生まれてきました」と明るく話す職人さん。
決してお喋りが上手いわけではありませんが、話す姿からは誠実さとお菓子に対する想いが伝わり心を惹かれます。
その職人さんがお菓子作りで心がけていることは、「意匠を考える際に自分が作りたいものだけを考えるのではなく、長久堂の暖簾にふさわしいものであることを考えています。村上工場長だったらどのようなお菓子を作るかを考えます」。
その言葉からは、老舗和菓子店でお菓子を作るということの誇りと覚悟を感じます。職人さんの管理の下で作られたお菓子がショーケースに並びます。
テイクアウトはもちろんのこと、奥に併設されている喫茶室でお好みのお菓子を召し上がることも可能です。
私がおすすめするお菓子の一つは、花面(はなおもて)という和三盆を使用した干菓子です。
花面
能面師が彫った木型を使用して幽玄なる世界を表現しています。和菓子職人さんの技だけではなく、能面師の技までもが感じられるお菓子です。
ご自身で召し上がるだけでなく、伝統文化に興味がある方へのご進物にも喜ばれるのではないでしょうか。
そして、もう一つのおすすめが、四季折々の情景を表現した上生菓子です。和菓子職人さんが表現する季節感、日本の美を存分に感じることができるお菓子たち。
ひなうたげ
桃の節句の時期に販売されているお雛様をモチーフにしたお菓子です。
寿々の音
桜咲く頃に販売される鈴を模ったお菓子です。
斎王代
京都三大祭の一つ葵祭が行われる頃、斎王代が身にまとう十二単を表現したお菓子です。
山彩る
山彩る秋、色づいた京都の秋を表現したお菓子です。
季節を感じるお菓子を目の前にすれば、この上ないひと時を過ごせることでしょう。
この日は、喫茶室でお抹茶とセットにしていただきました。
上生菓子セット
和菓子は日本のお菓子ということだけではなく、字の如く、「和むお菓子」です。
まさに、心和み、その場の雰囲気が和むお菓子たちに会いに出かけてみてはいかがでしょうか。