クラシカルな広東料理をベースにした魂を揺さぶる料理4選

有島シェフの感性を忍ばせた数々の逸品の中から、森脇さんをうならせた4品をピックアップ。見て、聞いて、香りで、味わいで、食感で、五感で魂を揺さぶる“劇場作品”をご紹介。

メニュー①希少で肉厚なフカヒレを頂湯で味わう「フカヒレの姿煮」

希少 特大青ザメフカヒレの姿煮・プレミアムブラウンソース

森脇さんがイチ押しに挙げてくれたのは「西麻布 香宮」のスペシャリテ、フカヒレの姿煮だ。フカヒレはヨシキリザメのものが一般的だが、こちらで使用するのは水揚げが極めて少ない青ザメや毛鹿ザメが主、しかも400~600gと特大で、このサイズが手に入るのは都内でも数店という。

 

森脇さん

その時々で、仕立てが少しずつ変わりますが、肉厚な青ザメのフカヒレは定番。金糸の一つ一つが太く、ザクッとした歯ごたえのある食感は、この青ザメなればこそ。広東の上質なスープが滋味豊かなおいしさを堪能させてくれます。

美しい黄金色で一本一本の繊維が太いフカヒレ。まさに“金糸”と呼ぶにふさわしい

フカヒレの味を左右するソースに使われているのは、上湯(ショントン)のさらに上をいく最上級の頂湯(ティントン)。鶏、豚、世界三大ハムの一つである金華ハムをふんだんに使い、檜のスチーマーで8時間蒸しあげ、丁寧に裏漉ししたら、そのまま濁らないうちに冷蔵庫で冷やし、翌日白く固まった脂だけを取り除く。

「こうしてできあがった頂湯をベースに、味付けは紹興酒のみ、他の調味料は一切使っていませんので、香りもよく、十分おいしくいただけます」と有島シェフ。美しいまでにクリアな琥珀色のスープをまとった肉厚のフカヒレ、その繊維の隙間から染み出す、芳醇な旨味に思わずうっとり。重厚感のあるフカヒレが、奥深い味わいのスープで存分に生かされているのを感じるはずだ。

メニュー②本場香港スタイルでパリッと仕上げた「釜焼き叉焼」

手前左から香港式 ローストポーク、自家製 釜焼き叉焼、コールドチキンの生姜ソース。奥は極細キャノンボールクラゲの和え物

2品目に挙げてくれたのは、広東料理の本場・香港でもっともポピュラーな釜焼き叉焼。厨房の奥に見える大ぶりの専用ステンレス釜で、本場・香港と同じように焼いている。「この釜を使うと、下からの直火とステンレス釜の反射熱で外側はパリッと、内側はしっとり焼き上がります。一般的なオーブンやコンベクションスチームのオーブンで焼いても、こうはなりません」と有島シェフ。作り置きは一切せず、焼きたての最もおいしいタイミングを逆算してサーブしてくれる。

 

森脇さん

常に焼きたての叉焼を提供してくれます。肉の旨みも充分。

メニュー③シェフが目の前で仕上げる「蒸し魚」

長崎県五島列島産 赤ハタのスチーム・香港フィッシュソース

シェフ自ら、ゲストの目の前でアツアツのフィッシュソースをソースボートでサーブして仕上げるのが蒸し魚。その日の仕入れで魚の種類は変わるが、この日は長崎県五島列島産の赤ハタ。冬は北海道からキンキ、夏は沖縄の宮古島や石垣島から届くスジアラが使われることもある。

秘伝のフィッシュソースは香港の醤油、生抽王(サンチャウウォン)をベースに、シーズニングソースやナンプラーなどで香りづけ。驚くのはわずか2分40秒という加熱時間。「このサイズだとご家庭では6、7分は加熱が必要ですが、厨房にある檜の蒸篭で蒸すと、ほどよく蒸気が抜けるので水滴が落ちず、中に熱がこもって約150度の高温になるので、短時間でさっと蒸し上がります」と有島シェフ。

煙が出るほどに熱したピーナッツオイルをかけ香りを引き立たせた白髪ネギ、その上に盛られたパクチーをミックスしたマイクロリーフも絶妙なアクセントになっている。

 

森脇さん

蒸し加減も程よく、プリッとした魚の身とフィッシュソースがおいしい。これをご飯にかければ、ソースを余すところなく堪能できます。

メニュー④驚きと感動をとじ込めた「プティフール」

Chefお薦め・Specialプティフール・中国小菓子三種

中国料理のデザートというと杏仁豆腐、マンゴープリン、ココナッツミルク、胡麻団子などが定番だが、有島シェフが「これら一辺倒になりがちなデザートを打破し、驚きと感動を味わえるものを提供したい」と、強く思っていたのがデザートとプティフール。

全幅の信頼を寄せるのが、銀座の老舗パティスリー「ピエスモンテ」出身のパティシエ、露木 昭さんだ。「見た目は洋菓子でも、食べると中華を感じるような、当店ならではのプティフールに仕上げてくれます」と有島シェフ。

この日のプティフールは、レーズンを紹興酒に漬け込んだ「紹興酒レーズンサンド」と、ココナッツクリームをタピオカで包んだ「マンゴー風味のタピオカ蒸し団子」、アクセントにフランボワーズをしのばせた蒸しカステラ「桜の馬拉糕(マーライコウ)」の3品。

オリエンタルなラウンジのようなサブダイニング

プティフールは、メインダイニングからがらりと雰囲気を変えたサブダイニングで提供。劇場の余韻に浸りつつ、小菓子とともに中国茶やコーヒー、デザートワインなどを楽しむことができる。ガラスの向こうに広がる南国風の植栽は、有島シェフはじめスタッフ皆で整えたもの。夜はライトアップされエキゾチックなムード満点だ。

サブダイニングの手前には、メインダイニングとは動線が異なる完全個室もあり、プライベートを大切にしたいシーンで重宝する。

ホテル仕込みのホスピタリティとチームワークが光る

「厨房で一番大事なのはチームワーク」と有島シェフ。右端はパティシエの露木 昭さん

42年におよぶ料理人人生の大半を占める、36年もの年月をホテルで過ごした有島シェフ。「日系、外資系、それぞれのホテルで育ててもらいました。ホテルで一番大事なことはホスピタリティ。さりげなくスマートなおもてなしを、厨房、ホールスタッフが一丸となってチームで行う、これが何より大事です」

「西麻布 香宮」は完全予約制、メニューはコースのみ、ランチは8品5,500円から、ディナーは10品28,000円からそれぞれ2コースずつ。海の幸、山の幸、使用される食材は、一つとしてかぶることなく生かされ、その種類の多さに驚愕。色合い、味付けなどのバランスも申し分なく、百戦錬磨のフードライター、森脇さんの舌と心をつかんでいるのも納得だ。

足を踏み入れた瞬間から、感動と驚き、あたたかなホスピタリティ、店内のしつらえに魅了される「西麻布 香宮」。大切な人とぜひ出かけてみてほしい。

※価格はすべて税込、ディナーコースのみサービス料(10%)別

撮影:井原淳一

取材・文:池田実香(フリート)